このレビューはネタバレを含みます
濱口竜介監督「ハッピーエンド」や黒沢清監督「スパイの妻」で脚本を手がけた野原位の監督デビュー作。「ハッピーエンド」で純を演じていた川村りらが主演と共同脚本。そして、「ハッピーエンド」の出演者たちも集結しています。成人役は川村りらの実の息子さんだそう。「ハッピーエンド」にも出演しています。「ハッピーエンド」と同じく神戸が舞台。
登場人物がみんな、どこかしらこじらせ気味。こじらせた者同士の人間関係だからこそ、面倒な方向やトラブルの方向にしか行かないわけです。
いくら流産した過去やパートナーの連れ子が留学してしまった喪失感があるとはいえ、行き倒れた見知らぬ記憶喪失の青年に亡くした赤ちゃんの名前をつけて、我が子のように育てるという春の行為は、常軌を逸していると思います。「出て行って欲しい」と常に言っていた春の母親はかなりまともだと思います。
精神科医である春のパートナーが、春の弟の妻に好意を寄せるというのも、近親者であり患者でもある関係を平気で飛び越えてしまうヤバさ。患者に好意を寄せるなんて、医師として失格でしょ。
そして何より、春の弟の毅がかなり酷くてヤバい。まったく妻のことを見ていない上に、ラッパーなのに妻にリリックをまとめてもらい、ライヴではカンペを見ながらパフォーマンス。ライヴ会場に来た春の元パートナーに殴りかかりながら、「俺の女やぞ」「死ね」くらいしか言えないほどの語彙力のなさに、毅の実体が表れていました。精神的に病んだ妻に対して「大丈夫。うまくいく」しか言えない薄っぺらさ。ラップは本音を語れるツールであり、ラップをやればかっこよく男らしさが見せられるだろうという、浅はかな目論見でラッパーをやっているようにしか思えませんでした。幼稚な自己陶酔。
でも、そんなこじらせ気味の登場人物たちの心情が、どことなく理解できてしまう自分もいます。みんな、そうやって生きていくしかないんだろうなという諦めのような気持ち。