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ヴェラは海の夢を見るのkyokoのレビュー・感想・評価

ヴェラは海の夢を見る(2021年製作の映画)
4.2
子どもは爆竹遊びで「戦争ごっこ」、郊外には崩壊した建物。
そこかしこに戦争の影を色濃く残しながらも、経済成長の兆しが見えるコソボを舞台に、夫の自殺と田舎の持ち家によって手話通訳のヴェラが巻き込まれるサスペンスフルな物語は、利権が絡むキナ臭さや男性上位への抵抗という社会派ドラマの側面と、強固な家父長制の陰に隠れて見えなかった家族の思いを丁寧に紡ぎ出す、情感にあふれた側面を併せ持つ。
彼女のテリトリーを使った追及にも痺れた。
素晴らしい脚本と演出だった。
今年の東京国際は「これ!」というものがなくて、盛り上がりにかけるなあと思っていたけれど、最後の最後でようやく最高の作品に出会えてうれしい(グランプリ受賞も!)。


↓以下、勝手な解釈








なぜ「海」なんだろうかと考えた。
娘や孫たちと戯れるラストシーンも「海」
海がないコソボの人にとって、特別なものなんだろうか。
遺品の中に三人の名前がラベリングされたビデオテープがあったけど、ここには娘が幼いころ家族三人で行ったヴァカンスの特別な思い出が収められていて、ラストシーンはそれを再現しているのではないかしら(家庭用ビデオ風の加工が施されている)。
一見悪夢かと思われた彼女の海の夢は、家族にとっての幸せの象徴であり、夫とふたりビーチでカクテルを飲むことが叶わなかったことへの寂しさの現れであったのかもしれない。
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