りょう

母の聖戦/市民のりょうのレビュー・感想・評価

母の聖戦/市民(2021年製作の映画)
4.2
 はじめてオンライン試写会に参加しました。自宅の機器がしっかりしていれば、かなり本格的な映像と音響で観ることができます。3日間の自分の自由な時間で観られるのもよかったです。
 一般的な評判もわからないままでしたが、かなり重厚でリアルな物語と映像に没入できる作品でした。サスペンスやアクションの要素も少なくありませんが、エンディング以外にはほとんど劇伴がなく、一般的なフィクションの演出が希薄です。しかも誘拐被害者の母親であるシエロの主観で展開するので、全編にわたって彼女の心理や行動を追体験することになります。
 当初は無知で受動的な彼女が無力すぎて絶望感しかありませんが、自ら疑わしい人物を尾行したり盗撮したりして…。当然のように酷い報復に遭いますが、そこに強力な支援者が…。軍隊のラマルケ中尉の登場によって紳士的で文化的な雰囲気になりますが、その彼も被疑者には容赦ない暴力でゾッとさせられます。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「ボーダーライン」でもそうでしたが、メキシコの犯罪組織には警察ではなく軍隊でないと対抗できないのでしょうか。組織の拠点を“摘発”するというより完全な“襲撃”です。その場面も同行するシエロの視点なので、混とんとした状況下の暴力はリアルで客観的な描写が徹底されています。
 後半になると、軍隊による力技での解決に向かうという期待が裏切られ、シエロの悲壮感が増幅される展開になり、誰もが「エー!」と言ってしまいそうになるエンディングです。メキシコの現代社会を象徴しているかのような終盤の一連のシーンを想えば、どうしてもそこに希望があったとは思えません。
 テオドラ・アナ・ミハイ監督の長編第1作だそうですが、映像や演出、物語の展開など、とても新人とは思えない作風がすばらしいです。少し邦題のセンスが微妙でしたが…。
りょう

りょう