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クレーン・ランタンのbackpackerのレビュー・感想・評価

クレーン・ランタン(2021年製作の映画)
3.0
第34回 東京国際映画祭 鑑賞9作目

「私は人間。そのことに奇妙さは覚えない」

これは……今回の映画祭で鑑賞した中でも一際難解な作品でした。
私の理解力や洞察力が足りないだけかもしれませんが、内容は終始右から左へ通り抜け、頭の中へ留まることはありませんでした。
代わりにと言うと語弊がありますが、作品の画力、コレが非常に印象的で、その鮮やかさ、静かさ、美しさはとても記憶に残ります。

まず風景、これがもういちいち美しい。
清涼な森林はどこか日本的雰囲気があり親近感を覚えたり。
強烈に明瞭な陰影をつけた画面構成も多用され、人物のバストショットやアメリカンクローズアップでは、壁の反面は真っ暗なんてシーンが頻繁にありましたが、これもまた美しい。

人物、特に女性たちの動作の少なさも印象的です。
女性を画面中央に直立不動で配置し、動きは風と周囲の音と男だけが作り出す。
画面内に収まる人数は多くて3人程度で、殆どが2人(対話者同士)だけなので、この動きのなさは頭にこびりつきます。
人物といえば、彼らの服装もいんしょあですね。
派手なものではなく、どちらかといえば地味で目立たない服なのですが、周囲(色彩豊かな森林でも、乾いた砂地でも、油田でも、雪原でも)から浮き上がるような色の服を着ていることが多く、とても目立ちます。
ラストシーンの、吹雪でホワイトアウトした中に立つ主人公ムサとダヴ(4人の女性を誘拐した罪で収監されている)の対話は、二人が着る黒ずくめの格好の力で、神秘性すら感じます。

この徹底的にこだわった画作りが、ある種の荘厳さや高貴さを生み出しております。
失礼な言い方かもしれませんが、超美しいスクリーンセーバーみたいな感じです。

残念ながら内容はホントにまったく頭に残りませんでしたが、この素晴らしいスクリーンセーバー画のことだけは、忘れず心に留めておきます。
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