第34回 東京国際映画祭 鑑賞10作目
2021年のTIFFでは、計3作のフィリピン映画を鑑賞し、いずれもダークな作風でしたが、どれも大変印象深く、記憶に残る作品でした。
とりわけ本作の描く"若者の貧困"の厳しさは苦々しく、同様に貧富の格差を描いていた『ブローカーたち』(本作のブリランテ・メンドーサ監督がプロデューサーとして参加しております。ダニエル・R・パラシオ監督はメンドーサ監督のお弟子さんとのこと)と並んで、今年のTIFFでも1〜2を争うほどグッときた映画でした。
ーーー【あらすじ】ーーー
罠にはめられた父が拵えた借金を返済すべく、地域の組織にてバイク泥棒をして稼ぐ青年イサック(演:ヴィンス・リロン)。
借金返済、ラッパーを目指す弟、妻と幼い子どものため、必死に危ない橋を渡るイサックだが、最後の仕事で窮地に立たされる。
組織のボスにして、現在青年会議の議員候補として選挙戦を戦っているジェポイに助けを求めるが、これまでは幾度か手を差し伸べてくれたが、今度はとりあってくれない。
「なぜ自分が?」イサックは組織への復讐へと走り出す……。
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ダイナミックに荒ぶる手持ちカメラ映像ごもたらす臨場感と、若者たちの抱える現状へ鬱憤と不満の爆発が、常に軽々しく扱われる人の生命によって発散されていく様は、まさしく過酷。
貧困の厳しい現実の裏側では、選挙不正のために大金が右に左に動き回る。
有権者の投票用紙はこっそりと消される算段がついている。
下っ端のチンピラなんて使い捨て。
日本でも格差社会化が浸透し、中流層が崩壊して久しい現在ですが、フィリピン社会が抱える問題も他人事ではありません。
ここまであからさまなスラムというものは、日本国内にはそう無いのではと考えておりますが、単に私が知らないからかもしれません。
切り出された画面の向こうに広がる容赦ない貧者の坩堝は、自分達の写鏡でもあるんです。
この世界は残酷で無情で、ささやかな希望に縋って生きるしかない。
レビューが纏まらずとっ散らかってしまいましたが、色々と思いを馳せる作品であったということだけは確かです。
ご機会あれば是非ご鑑賞ください!