EDDIE

マイスモールランドのEDDIEのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.7
“しょうがない”
諦念の思いと制度の問題…どうしようもないと感じつつも何とかならないか!という感情が錯綜する。“難民”という一単語だけに捉われると親切心で放つ言葉ですら人を傷付けかねない。不合理な制度から考える日本のおもてなしとは。

〈ポイント〉
・商業映画デビューとは思えぬ川和田恵真監督の堂々とした演出力
・主演にして映画デビューを果たした嵐莉菜の全身全霊の演技と自然な振る舞い
・ちなみに本作のチョーラク家の4人は本当の家族
・難民ビザという社会的に知られていない制度の暗部を突く意欲作、むしろ制度について詳しく知らない方が驚きが体験できるはず
・長澤まさみ主演『MOTHERマザー』で頭角を現した奥平大兼が本作では実に優しい演技を披露
・脇を固める布陣が池脇千鶴、韓英恵、平泉成、板橋駿谷、サヘル・ローズ、そして藤井隆と手堅い!
・撮影は『ドライブ・マイ・カー』の四宮秀俊、製作は是枝裕和、アソシエイトプロデューサーは西川朝子、加倉井誠人と錚々たる布陣

〈雑感〉
いやぁ素晴らしい映画でした。
今年個人的ベスト筆頭格の『ブルー・バイユー』とテーマ的にも近しいところがあり、自分でもこういった難民とか移民って問題に関心があるのかなって認識するきっかけとなりました。

だって、本当に不合理だし、不条理なんですもん。
同じ人間なのに、なんであんなに不当な扱いを受けなければならないのか。
難民申請が不認定となることで働くことすらできない。でも住むには家賃を支払わなければならない。
こんな制度を認めているのはもはやこのような人たちに「死ね」と言っているようなもんだと。
もちろん全ての移民、難民を受け入れるのが難しいからこそ、このような制度を整えているわけでしょうけど、この映画を観ていると「もっとどうにかならんのか!」と憤りを感じてしまいます。

主人公のサーリャをはじめとしたチョーラク家はお父さんのマズルム、妹のアーリン、弟のロビンと一見幸せそうな家族。
日本の文化とクルドの文化の違いに、自らのアイデンティティに悩むサーリャという見え方はあるものの、こんなもん思春期と捉えれば国籍関係なく我々生まれも育ちも日本の日本人だってそんなことあるわけで。

特にサーリャら3姉弟はずっと日本で育ってきているので、いまさら日本を放り出されても生きていけるわけないんですよ。
作品の中でも描かれますが、中東の国境を隔ててどこにも居場所のないクルド人のように、彼女たちは住んでいる埼玉県から隣の東京都に移動することすら許されないのです。

特に印象的だったのは、コンビニでサーリャに掛けられたおばあちゃんからのひと言。
完全に親切心なんですよ。おばあちゃんも悪くないし、もちろんサーリャが悪いわけはない。だからこそ、この無意識の親切って根深い問題だなぁと感じざるを得ませんでした。

他にも色々と感じるところは多く、この作品は鑑賞後も思い倦ねながら考えて、また色んな解釈を考えたりするのがまた未来を変えていくきっかけにもなるのかなとか思ったり。
長くなりそうなので、またnoteにでも考えをまとめていこうかと思います。


▼ということでnoteを更新しました!
https://note.com/yujiezaki_eddie/n/ne9ddfda6bb00

〈キャスト〉
チョーラク・サーリャ(嵐莉菜)
崎山聡太(奥平大兼)
チョーラク・マズルム(アラシ・カーフィザデー)
チョーラク・アーリン(リリ・カーフィザデー)
チョーラク・ロビン(リオン・カーフィザデー)
小学校の先生(韓英恵)
高校の先生(板橋駿谷)
ロナヒ(サヘル・ローズ)
太田武/店長(藤井隆)
崎山のり子(池脇千鶴)
山中誠(平泉成)

※2022年新作映画71本目
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