社会のダストダス

マイスモールランドの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.8
クルドって聞いたことはあるけど、どこにあるのかはよく知らなかった。その疑問にはすぐに答えてくれている、国はもうない。友人にはドイツ人として通していたサーリャ、周りの勘違いから始まった嘘もそれが丁度良かった。

クルド人の家族と共に幼いころに故郷を離れ、日本で育った17歳の少女サーリャ(嵐莉菜)。一家の難民申請が不認定となりビザが失効、父親が入国管理局に拘束され、在留資格を失ったことで日常が著しく制限されるようになる。

本編が終わってエンドクレジットが流れて、もしかしてと思ったが、メインのチョーラク家を演じた4人は実際に家族、おそらく全員が俳優デビュー作なのだろうか。主演の嵐莉菜さんが素晴らしかったです。いや、パパも弟君も妹ちゃんも全員良かった。入管職員に対してお父さんがキレるシーンは弟ロビン役の子は脚本を渡されていなかったため、リアルにビビっていた反応とのこと。普段優しそうなお父さんが大声出したらそりゃ怖いよね。

私は日本という島国から出たことがないので国境という言葉すら正直ピンとこない。しかし東京と埼玉に置き換えられてとても分かり易く説明されていた。埼玉に住むサーリャ、県境を越えた東京のコンビニでアルバイトをしている。夢は小学校の先生で東京の大学に進学したい。友人と東京に遊びに行くこともある。難民認定が不認定になり、在留カードに穴を開けられた瞬間からそれらが認められなくなる。

無関心、不寛容、偏見の3重苦。お役所仕事として執行した入管職員も無情だけど、善意がありながらもサーリャに不法労働はさせたく無いバイト先の店長とかは、自分が当人の立場だったらと考えると一番現実的な対応に思えた、実際自分にできそうなことってあんなことくらいじゃないかと。そんな中、平泉成さん演じる一家の弁護士が飄々としていて、重いストーリーのなか謎の癒しの存在となっていた。

日本語が話せない人も多いクルド人コミュニティの中でのサーリャの役割の重要さなど、置かれている立場は『CODA』にも通じるものがある。そういう意味では本作は下ネタの無い『CODA』みたいな映画といえるかもしれない。そしてどちらも主人公が大変美人でお父さんが面白い人である。

“未来に光がありますように“
お父さんが過去の事例に沿って下した決断の理由が、日本に住む人間の一人として衝撃的なものだったけど、その過去の事例というのは現実にあったことなのだろうか。難民に限らず外国人にとって住みづらい国だというのは聞く話だけど、映画で描かれているのはまるで流刑地のようだった。経緯はどうあれせっかく日本にやってきて、ハズレを引いたと思われたら悲しいことだ。

ラストカットのサーリャの力強い眼差し。初演技とは思えない嵐莉菜さんの終盤にかけてのコップからあふれる水のように感情を溜めこみ零れだす姿が圧巻。この先、いろいろな作品でお目にかかれる機会が増えたらいいな。