つぐみ

マイスモールランドのつぐみのレビュー・感想・評価

マイスモールランド(2022年製作の映画)
4.0
師匠西川さんや、そのまた師匠の是枝さんならもっともっと脚本も演出も絵作りも練り込まれて洗練されて研ぎ澄まされるんだろうけど、タッチこそ師匠たちのそれを継承しながらも川和田さんだけが持つバックグラウンドや問題意識、初期衝動がパラメーターとして十分機能している印象を受けた。処女作は一度だけしかないんだから、どれだけパーソナルであってもいい。
切実な問題提起がありながらも温もりや優しい手触りがいつまでも残る素晴らしい作品だと思う。

あと何十年後には今ある仕事の何十%がロボットやAIに取って代わられますよっていう野村総研的統計を(脅迫とも言う)私は決して信じていないけど、この先、映画も人間が撮る意味が問われるのだとしたら、その人らしい作品であることはこれからより重視されるような気がする。

特に奥平くんの活かし方がすごく効いてて「怒り」の佐久本くんとか「星の子」の新村くんとか「さがす」のあの子とか、男子高校生の何も考えずにノリや雰囲気だけで喋ってる感じってキャリアが長くなればなるほど失われてしまうその瞬間にしかない輝き。多分考えてできる演技じゃないんだよね。
そしてちーちゃんがこの子の母役だなんて…と驚愕したけど私と年変わらんしな…


ウクライナからの難民支援について日々情報がアップデートされてるけど、正直日本に来て果たして幸せに暮らせるんかね、というのはずっと思ってる。そりゃ日本は安全だしトイレは綺麗だし飯も安くて美味いけど、とてもとてもまだ多文化多言語社会も実現しなければ劇中に見られるようなマイクロアグレッションも日常茶飯事だ。どれだけ移民の受け入れに「慣れて」いるかが全てなんだけど、カナダとかニュージーランド、オーストラリアに行った方が辛く思いしないんじゃないの、ってちょっと気の毒にも思ってしまうところがある。ただの人口減少の数合わせみたいに絶対しないでほしい…

一方でサーリャの妹が言う「お姉ちゃんが対応し続けるからあの人たち日本語覚えないんじゃん」っていうのもすごく刺さるというか、「海外で生活する=自動的にその国の言葉を習得できる」では全然ないんだよね。サーリャの負担は、難民申請が通らないこと以上にヤングケアラーであることに起因していて、自らの努力で環境に適応、順応したことで割を食ってる、つけ込まれてるなってすごく心が苦しくなった。

でも根底にあるのは自国への誇りや矜持、そして家族を想う心で、ラーメン屋のシーン、聡太くんを食事に招くシーン、そしてサーリャと聡太くんの「挨拶」は本当に優しくて美しいものを見ているなと満たされた気持ちになった。

あんまり人に「おススメです」って言うの得意じゃないんだけど、これは非常におススメです!!
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