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珈琲時光のotomisanのレビュー・感想・評価

珈琲時光(2003年製作の映画)
3.8
 独身最後の夏を過ごす陽子はカスミを食い飽きると肉じゃがが食いたくなる。未来に向かって思考ぶん投げな面々の生存には安上がりで丁度いいかもしれない。
 子どもができるというのに結婚しないと余裕綽々気な陽子も、バブル敗戦以降重大決定を避け続けな感じの小林父ちゃんも奇妙この上ない。おなかの子の父親は誰なんだぐらいのはなしはあってよくないか?
 まことに人間同士は歯にものが挟まったか川の向こう側にでもいるのかというような調子だが、街には失業者のデモも路上生活者もなく、イラク問題ははるか遠く、上げ潮の神田川の上を電車は上下左右一度に4本も5本も通ってゆく大繁盛。落日の日本なんて気配も見せずに夏が穏やかに暮れてゆくのを、だから大丈夫と監督に宥められているのか、この平穏の下に無言の苦悩が幾らも隠れているんだよねと囁かれてるのか、やんわり納められた感じだ。この時代を働き盛りで過ごした者には黙り通す小林父ちゃんが一番本当っぽく見えてやれやれだが、その実、台湾熱の娘のことを案外内偵済みとか思ってしまう。嫁ぐとなれば遠い外国、そんなわけを知っていればそれは口も心も重くなるだろう。
 その一方で、先んじて落日後を迎えた夕張での撮影分もあったそうだが全編不採用との事で、あるいはそちらに物語のいわば現実面、台湾での事だのあちらの家の事だの、今後の陽子の生きる道だのがまとまってて生臭過ぎたとか想像してしまう。なんにせよ東京の影が薄れるようなシビアな話では困るだろう。まあ、格差のてっぺん六本木だ、臨海だのをうすら寒く持ち上げられないだけでも幸いかも知れない。
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