歴史の抗えない奔流の中でそうとしか生きられなかった一人の科学者が浮かび上がってきて、人類と科学との関係を考えさせられる…と比較的冷静に知的好奇心を持って観られる作品だが、日本人としてこの映画に向き合った時、特殊な感情を揺さぶられる。原爆の投下地点を検討するシーンや直接「日本」「広島」「長崎」と台詞に出てくるシーンでは胸がぎゅっとなり涙が出た。理性で感情をコントロールできない瞬間があった。例えばナチスの虐殺に対してどんなに思いを馳せて心を痛めても、当事者しか持ち得ない感情には届かないんだろうなと思う。当事者の気持ちを想像する、まででは不十分で、想像し得ない領域があると知ることも必要だと思う。
映画として、画力がすごくそれだけで引き込まれた。音響も効果的に使って、科学兵器の恐ろしさ、ひいては人間の恐ろしさを表現していた。表現としての映像の素晴らしさはIMAXで観るとより堪能できるだろうが、この映画で伝えたい核心部分は普通のスクリーンで十二分に感じることが出来た。
カイ・バードらのノンフィクションが原作らしいので、こっちを読んで、配信になった頃もう一回映画観ようかな。