茶一郎

オッペンハイマーの茶一郎のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.7
 映画の力を使いオッペンハイマーを、永劫の罰に閉じ込める。クリストファー・ノーラン監督の映画は常に「私は映画だ!!!」と高らかに叫ぶものだが、その「映画」の力(時にそれは「映画編集」時に「スペクタクル/見せ物性」)の矛先を人類史に向けた映画が『オッペンハイマー』だった。
 情報量が膨大な原作から二つの“裁判ではない裁判”を抽出し、『プレステージ』『ダークナイト』を反復する主人公と悪役との「対決」を見出した見事な脚色。その対決に原作にはいないキャラクターを追加したことで、ヒューマニズムが光る、しっかりハリウッド映画の王道に仕上がっている脚色には舌を巻く。
 大きな二つの罪を犯していながらも、罪を償う機会を得られない(もしくは償う勇気のない)オッペンハイマーは「自分を罰する」ために、自分を贖罪の物語の主役(プロタゴニスト)に仕立てる。『メメント』のラストと同じく、オッペンハイマーも目を閉じ、自分の心の内にしかない物語の主役になろうとするが、容赦無く監督は「映画編集」の力で永劫の罰に閉じ込めた。
 「罰を背負うのは皆のためだ」と、オッペンハイマー同様、本作も賞を与えられたが、オッペンハイマー/本作に賞を与えることで無罪証明を得ようとしていないか?と、連鎖反応が起こり続ける現在を生きる観客にも射程を広げて語り切っている。自国の罪に向き合いながらも、その罪に向き合う物語すら安易に消費する事を許さない『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』と並んで語るべき一本。
茶一郎

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