このレビューはネタバレを含みます
戦争を前にしてしまうと、誰が絶対的に悪いとかは言えないと思った
オッペンハイマーという実在の人物の経歴くらいは予習していったほうが分かりやすいかも(時系列順に話が進む訳ではなく、視点も入れ替わるシーンがあるので)
ノーラン作品らしい音響と演出が見ものだった!
アクションこそないものの、飽きずに3時間楽しめます
音響では不協和音が響いて、人間同士の軋轢とか事態の不条理さがあらわになるような演出をしていたよ
オッペンハイマーが他の人の経験に自身を重ね合わせているように受け取れたり、そこにはいないはずの人に思いを馳せるためにあえて異質に登場させたりした演出がよかった
絵的に映えていたし、そこに生きている人がいたという歴史を感じられた
ノンフィクションの歴史映画だとどうしても単調になりがちなシーンをも、静謐でありながら生々しく情熱的に仕上げていた気がした
「数式は楽譜(みたいなもの)だ、読むのではなく聴け。お前は聴けるか?」という趣旨のセリフの後に、研究に没頭していくオッペンハイマーの描写と華やかなメロディーが流れるシーン、ものすごく美しかったな〜。数学って、美しいらしい。私は文系だからか、そう思えたことは全くないんだけど、いろんな理系分野の人達がかつて私に言ってくれたこのことが、映像・音楽によって体感することができた気がする。感慨深い。
この映画は日本では賛否両論らしい。賛否がわかれること自体にはおおむね同意する。
でもこの作品は、オッペンハイマーの視点で描かれた主観的な伝記なように感じた。オッペンハイマーの主観であれば、原爆によって被害を受けた人のことまでは、そう簡単に意識が向かないんじゃないかなあ?(だから、映画化するにあたってこのシーンを入れ込むことにしたのは挑戦的だな)と思う。もし、オッペンハイマー本人が本当にそのような景色を想像し良心の呵責に苛まれていたとしたら、スピーチのシーンは相当リアルなんじゃないだろうか。
実際にオッペンハイマーがどう思っていたかは彼自身にしか分からないし、被爆者へ意識を向けることが、当時彼をとりまく環境においても善だったか?と言われると悩ましいところがある。
オッペンハイマーが目指していたのはなんだったのかな。
学者って孤独ですね。愛に生き切ることも出来ず、いつもそこに学問としての答えを求め続けているけれど、社会はそこまで寛容ではない。
少なくとも、後世を生きるわれわれは、歴史に存在する二面性を考慮して生きてゆく必要があると思うし、同時にそこに生きていた人達の人生を知って、感情を想像する必要があると思う。
この映画を観ることは、戦争の一つの側面を知ること、そして1人の人生を知ることなのかなと思いました。