このレビューはネタバレを含みます
「え? ウチのために映画撮ってくれてる?」
……と言うくらい、『ウィッチ』も『ライトハウス』も趣味趣向ド真ん中だったエガース監督。
そんな最新作は、年明けたばかりだけどもう2023年ベスト級かも。
シェイクスピア『ハムレット』のモデルとされた北欧の民間伝承を素材とする今作。手前味噌ですが、ちなみに『ハムレット』前史は以下の通りです。
・北欧の民間伝承
↓
・12世紀デンマーク
『デンマーク人の事績』サクソー著
(「アムレート」≒「ハムレット」)
↓
・16世紀フランス
『悲劇物語』ベルフォレ著
(叔父と母の姦通
オフィーリアとの悲恋など)
↓
・16世紀イングランド
『原ハムレット』トマス・キッド著
↓
『ハムレット』シェイクスピア著
(※古代の民族詩『ベオウルフ』「オネラ王」や13世紀の散文物語『エダ』「アムロージ」など、英語圏でも古くから類似する内容の作品が見られる。これはスカンジナビア半島とブリテン島の海上交通、つまりバイキングの影響とされる)
ところで、「アムロージ」という名前は「アンレ」(アンリ?)という男性名に、「オジ」(=狂的・戦闘的の意)が冠されたものだとか。
エガース監督らしいシンメトリカルで誘導的な画面構成は、大作的演出でブラッシュアップされており、冒頭の“王の帰還”からもうワクワクドキドキ。
その後も、まさしく古典劇風(愚かだけど示唆的)なウィレム・デフォーの道化や、いかにも民族儀礼らしいサウナのトランス帝王学、バイキングのガチムチダンス、若者たちの五月祭っぽい遊戯と逢瀬など、要素てんこ盛りでもう満腹。デフォーの首ミイラ最高でした。
アクション演出はまだ荒削りなものの、グロ度ゴア度も高く、クライマックスの地獄の門前試合でテンションは最高潮。
数少ない残念ポイントは、復讐への待機時間となるアイスランド編以降の中弛み感と、アニャ・テイラー=ジョイがヒロイン的役回りに終始してしまったところ。もっと番狂せなヤバい魔女っぽさを観たかった。
それと「主要人物全滅」というオチは『ハムレット』やラグナロクとも重なりますが、しかしアイスランドが舞台なら、あのまま活火山の噴火に飲まれてみんな消し飛んで欲しかった……。
まぁ、そういう現実的な破局よりヴァルハラへの入城という神話性を重要視してるので、ないものねだりなんスけどね。
そして本作最大のテーマは、そんな「神話の解体」にあると思います。ストーリーの衝撃的な真相はさることながら、『ハムレット』や民間伝承を再構築する作り手の姿勢など、作品内外に横たわるこのテーマはアムレートの“運命”そのものに映ります。
彼の信じる父のイメージ(王権の系統樹→北欧神話の世界樹)の虚飾、復讐のための地獄めぐり的な人生の虚無、すべてを否定された最期に彼が見た妻子やヴァルハラのヴィジョンは、彼の信じたかった世界なのかもしれませんね。
今冬はA24出身のダーク・ファンタジーが豊作で、喜ばしいことこの上ないです。しかもエガース監督の次作、吸血鬼ノスフェラトゥのリメイクだとか!?
バイキングのおじいちゃんが言う通り、フェンリルの息子たちよ、おのれの肉体をうち破ろう!!!
(焚火を囲み全裸で歓喜の舞)