タケオ

シラノのタケオのレビュー・感想・評価

シラノ(2021年製作の映画)
3.4
-良くも悪くも優等生的なミュージカル『シラノ』(22年)-

 フランスの劇作家エドモン・ロスタンによる戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』(1897年)を原作としたミュージカル映画。『プライドと偏見』(05年)や『アンナ・カレーニナ』(12年)などの作品で知られるジョー・ライトが監督を務める。
 とにかく主演のピーター・ディンクレイジが素晴らしい。本作でのシラノは低身長症の男性となっており(原作では鼻の大きな男性)、ぶっちゃけキャラクターとしてはディンクレイジの当たり役となった『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズ(11~19年)のティリオン・ラニスターその人にしか見えないのだが、しかしそれゆえに、才能豊かではあるもののイマイチ自分に自信が持てないシラノ役は板についている。巧みな話術と大胆さ、そして時折覗かせる繊細さ。ディンクレイジの魅力が存分に堪能できる、彼のファンにとっては堪らない1本だといえるだろう。しかしその一方で、ディンクレイジの圧倒的な存在感を前に、他のキャストが完全に負けてしまっているのが非常に残念。とくにヒロインとなるロクサーヌ(へイリー・ベネット)のキャラクターとしての薄っぺらさは目に余る。監督、自分のパートナーぐらい魅力的に撮ってやれよ(ジョー・ライトとへイリー・ベネットは私生活で実際にパートナー同士だ)!原作と比べると人物像を掘り下げるような描写がかなり削られており、そのせいで物語の推進力でもある「シラノがロクサーヌを愛している理由」がやや表層的なところに留まってしまったのは如何にも勿体ない。そこさえしっかりと描けていれば、ラストの展開もよりエモーショナルかつ感動的なものになったと思うのだが・・・。
 マッシモ・カンティーニ・パリーニ & ジャクリーヌ・デュランが手掛けた衣装やシチリア島の美しいロケーションなど、細部に至るまでなかなか見所の多い作品ではあるが、どうしても突出した表現に乏しく、全体的に地味な印象を受けた。良くも悪くも優等生的な作品である。
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