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イニシェリン島の精霊のKtoのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.0
【ひと言説明】
マーティンマクドナー監督による、おじさんの不条理な諍い劇

【感想】
ユーモアと残酷さのバランスが最高に良い。
スリービルボード、セブンサイコパスと地続きの作風。"皮肉な笑い"ではなく"笑うしかない人間の軽率さ・滑稽さ"が面白い。

「2時間もロバの糞の話を聞かされた」「ロバじゃなくて馬だよ。話を聞けよ」とか、男に欲情するのか?と逆に聞かれてキレる司教とか。いわゆる悪者は一人もいないのに、全員が不器用で人間臭くてチグハグなのが愛らしい。スリービルボードでも悪者はいなかったように…。

死ぬまで退屈な話に付き合わなきゃいけないのかと、絶交するコルムの気持ちも分かるけど、現代の都市ではあまり起こらない形の絶縁だし閉鎖空間の友情もなかなか大変なんだなと思った。"he is "thinker" "はめちゃくちゃ笑った。

人生を長い目で見た時の価値観の相違は、非情にも深く、伴侶的存在に至るには大きすぎる溝になる。パードリックみたいな、"いい奴"って本当にありがたいんだけど、ずっと一緒にいるべき相手じゃないのかもしれないよね…。

パードリック(コリンファレル)の眉毛が相変わらず愛らしすぎる。不条理に対峙する人間臭い男として、コリンファレルよりも優れた俳優はいるのだろうか…。マーティンマクドナーに繰り返し起用される理由が分かる。
「1つ目は警官、2つ目はバイオリン弾き、3つ目は…なんだっけ?」

調べると、アイルランドの内戦がモチーフにされているみたい。アイルランドからみた「イギリス」のような外部の敵ではなく、南北アイルランドといった、より身近な相手にこそ残酷になってしまう人間の性が現れているのかもしれない。アメリカも、外国との戦争よりも国内の南北戦争が最も死者数が多かったというし…。

小さな田舎の内輪で起こったいがみ合いだからこそ、誰も予想もしなかった残酷な方向に進んでしまうのかも。ロバの死とかは完全に事故的だし、不意な民間人の死が戦争を本格化させる流れにそっくりだなと思った。

多分、英語のアクセントや細かい表現の妙も数えきれないくらいあるんだろうなと思ったし、英語勉強しなきゃ。
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