Yellowman

イニシェリン島の精霊のYellowmanのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.3
孤島という密室空間が手繰り寄せる人間達のそっと内包している心の中の闇、あるいは戦慄。そして狂気が静かに爆発する様を滑稽に描いた傑作。

アイルランドの鬼才、マーティン・マクドナーによる脚本、監督で描かれた本作は、実にこの監督ならではの感触さを感じながらの2時間弱じゃないだろうか。人間の性(さが)がもたらす残酷なまでの負の連鎖を美し過ぎる孤島の風景に、埋没する自らの心象風景。

本作は中年の2人の男達の友情を巡っての話だが、断絶を強要された側の男の妹であるシボーンの視点が、実に見事だ。彼女が着る衣装が赤が多く使われていたり、好む酒がシェリーという事からも、絶妙に置かれたトライアングルの肝であるという事が良く分かる。
この物語のクライマックスでシボーンが取った行動こそが2人の男達の分かり合えない理由を如実に物語っている。家畜のロバを家の中に入れてしまう側と他国の郷土品が家のなかに無造作に飾られている側。
一生を閉ざされた場所で終えるのか、終えないのか。

物語の終盤。鮮血と炎が立ち昇る画をみて、改めてマグトナー監督の作品だと思わされる。
観終わった後は,ザクッと自分の身体の一部をえぐり出されたような感覚をおぼえる。
つまり、鮮血のイメージと血生臭さが脳裏に焼き付いて、離れないのだ。
口の中は、切れてしまい、苦い血の味も
思い出すように。

だが内容とは、対照的に本作は観終わった後は
誰かと語り合いたくなってしまうのだ。
この哀しい物語について。
何故なのだろう。
単に人間の性と微かに残る希望についての答え合わせをしたいだけなのかも知れない。
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