天パのT

イニシェリン島の精霊の天パのTのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.5
あまり背景は入れずに観に行ったのだが、イニシェリン島とは架空の島で、今作の舞台になっているアイルランドの島のことだ。その小さな島はとても閉鎖的な空間になっていて、美しいスケールショットやブラックユーモア溢れる人間描写とは反して、その狭い人間関係には恐ろしささえ感じる。
そんなイニシェリン島で、コリン・ファレル演じるパードリックというオジサンが、ブレンダン・グリーソン演じるコルムといつ親友のオジサンに急に絶交を告げられるところから本作は始まる。そこから2時間、ずっとその2人のオジサンの気まずく、危うい感じを見せられる映画だ。

コリン・ファレルは本作で主演男優賞、ブレンダン・グリーソンは助演男優賞にそれぞれノミネートされている。さらに、コリン演じる主人公の妹役で出演するケリー・コンドンは助演女優賞にノミネート。本作の出演者の演技が評価されていることは明らかであり、本作を鑑賞する上で大きな見どころの一つと言えよう。
コリン・ファレルはかつてのハリウッドスターで、イギリス映画を中心に出演するようになってからは、私の人生の一本『ウォルト・ディズニーの約束』の名演が思い出される。ブレンダン・グリーソンは、ハリポタシリーズのマッド・アイ・ムーディ先生でも有名だし、同じくハリポタでビリー・ウィーズリーを演じたり、スターウォーズの新3部作でハックス将軍を演じたドーナル・グリーソンが実の息子ということでも有名だ。更に、ケリーはMCUでフライデーの声を演じている。
やはり特にこの3人が素晴らしかったのと、あとは島の変わり者ドミニク役のバリー・キオーガン。『エターナルズ』でミステリアスなヒーローを演じていたが、今回の役どころは(どこか不思議な感じは共通しているけれども)全く違ったので、「役者ってすげぇ」と思うこと必至。

さて、あらすじは先述の通りだが、コルムがパドリックに絶交を告げる理由がだんだんと明かされていくとか、そういうタイプの作品ではない。理由はシンプルだが深刻で、酷い!というより、ああ何か分かるな、というのが冒頭ですサラッと伝えられる。パドリックのキャラクター描写を見ても、「まぁ…」と納得してしまう。ということで、2時間の中では絶交を告げられた後の2人の関係性、特にコルムの「本気の表し方」とパドリックの変化を見守ることになる。
のどかな風景や動物のかわいらしさが絵面のベースにあるので、そのコルムの行動の異常さやブラックユーモア、不気味さを放つ精霊のメタファーが非常に際立つ。ブラックユーモアでいえば、映画であれだけはっきりとチンチンが出るのは初めて観た。笑 ストーリーやいくつかの描写を考えると、ファミリーで楽しむというよりは、色んな人間関係を乗り越えてきた大人が見るような作品といえよう。
島の外、つまり本土では内戦が行われている。多くの人が、パドリックとコルムの関係を、内戦のメタファーとして描いていると指摘している。勉強不足もあってそう言う感じ方はしなかったが、自分は「今度俺に話しかけたら自分の指を切り落としてお前にくれてやる」というコルムの発言から、パドリックがどんどん"良い男だけど退屈"な人間から変化していく様(多くの場合はポジティブな意味でこのような表現をするのだろうが本作はそうとは限らない)を見ることになる。
最後はあんな状況なのに、コルムの表情には清々しささえ感じられた。
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