はる

イニシェリン島の精霊のはるのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.5
おじさん二人が2時間喧嘩してるだけなのになんでこんなに面白いのよ!

『スリー・ビルボード』大好きなので期待はしてましたが、やっぱり面白いですね!私はコルムの気持ちめちゃめちゃ分かる〜と思いながら観ていましたが、パードリックの気持ちになってみりゃそりゃないぜ!って感じですよね。

まずイニシェリン島の広大な風景が素晴らしいですね。海も空も大地も美しく、どのシーンを切り取っても絵になります。そんなスケールの大きい舞台で繰り広げられるのは何ともスケールの小さいミニマルな小競り合い。でもこれが直ぐ側で内戦真っ只中との事もあって、まるで世界の縮図のように見えてしまうのだから面白いですね。長年の親友から突如、絶交を言い渡されてしまうコリン・ファレルの八の字眉毛に笑っていたら、指を切ったり家を燃やしたりとんでもないところまで発展してしまうんですけど、この全編に渡ってずっと面白い空気感は一体なんなんでしょうね。『スリー・ビルボード』もそうでしたけど、キャラクターの一挙手一投足が面白いというか、別に事件が起こらなくても観ていられるというか、非常に文学的な素養の高い作品だと思いますね。だからこそ観終わった後、あれこれ考えたり語りたくなってしまいます。

悪い奴じゃないんだけど退屈な友人って誰しも一人くらいはいると思うんですよね。本作ではロバの糞の話で2時間ってくだりがありましたけど、確かに私はまだ若いから妥協して付き合ってるけれど、これが60歳、70歳とか人生も後半戦を迎えたらこいつとダラダラしてるよりもっと生産的なことがあるんじゃないかって考えちゃうの分かるんですよ。とはいえ指切ろうとまでは思いませんけど笑

バリー・コーガンがやっぱり印象的で、ちょっとアタマの足りない感じなんですけど、パードリックと喋ってるときの視点に鋭さを感じたりして、実は繊細な感受性を持ち合わせているようなところが好きですね。ラストのシーンは事故ではなく自ら選んだ運命なんじゃないかと思いますね。ケリー・コンドンが島を去ったのをきっかけに。

ラスボス倒して終わり!みたいな映画も気持ち良いですけど、私はやっぱりこう余韻に浸りながらつい思考してしまう作品が楽しくて仕方ないですね。『スリー・ビルボード』も久しぶりに観直したくなりました。
はる

はる