近本光司

リトル・パレスティナの近本光司のレビュー・感想・評価

リトル・パレスティナ(2021年製作の映画)
3.5
流謫の民はまたさらなる流謫を強いられる。パレスチナの人々は1948年のナクバで故郷を喪失し、難民となって命からがら四散した。そのうちシリアのダマスカス郊外に位置するヤルムークと呼ばれる土地に居を構え、半世紀にわたる安息を得ていた人々のもとに、二度目のナクバが襲う。アサド政権と反政府勢力の抗戦の渦中に巻き込まれ、ヤルムークの難民キャンプは封鎖となった。このドキュメンタリーは、二重難民と化したパレスチナ人の受苦する現実を内側からカメラを向ける。すぐ隣の建物に爆弾が落とされても微動だにせず、もうこれも慣れっこよと語る女の子。建物という建物は破壊され尽くしている。そうしたなかで外界から隔絶され、よそからの支援も届かず、食糧が底をついて飢餓に苦しむ人々。サボテンだけを並べた露店の店主は声高に嘆きまわる。母という母は子どもたちの飢えを癒すものが手に入らず涙ながらに帰路につく。それでも雑草を健気にかき集める子どもたちや、民族の誇りを語りあう男たちの姿に、わたしたちは何を見るか。世界はウクライナ人に手を差し伸べた。しかしアラブ人の苦難には一貫して無頓着のままだった。自身も難民となってドイツに逢着し、かろうじて本作を完成させたという監督はいま、ロシアとウクライナをめぐる世界情勢についてどのように考えているのだろうか。