ノットステア

BLUE GIANTのノットステアのレビュー・感想・評価

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
5.0
○印象的なセリフ
なし。
いいセリフもあったけど、セリフではなくキャラクターの行動に魅せられた作品だった。



○感想
良かった。魅力的な作品だった。でもどこにここまでの魅力を感じたのか、自分でもわからない。泣ける作品だった。

音楽が好きというわけでもないのに観た。音楽をわかるわけでもないのに、何がどうすごいかわからないはずなのに圧倒された。
ジャズは感情の音楽。その場その場で生まれる音楽っていうことを表現しきった映画だった。映画なんだから即興ではないけれど。場面ごとにあった音楽を演奏したんだと思う。ホントそこんとこはわからないけど。

以下、ネタバレあり。












 3人の関係性が良かった。
 宮本大は才能溢れる感覚の男だった。宮本大をきっかけに物語が始まる。その感覚はジャズ以外でも発揮されていた。東京に上京し、同級生の玉田の家へ。そこを拠点にジャズバーへ。「TAKE TWO」のアキコと出会う。アキコの紹介で沢辺雪祈と出会う。
 18歳にしてピアノ歴14年の凄腕ピアニスト、沢辺雪祈。彼は才能が大切だと考えている。宮本大から組もうと言われたとき、宮本大の演奏を聞く。涙を流す。中3でテナーサックスに出会ってから3年半ほとんど一人で演奏してきた宮本大の努力と才能に感動する。「So  Blue」へは、宮本大だけでは(少なくとも10代のうちには)辿り着けなかっただろうし、沢辺雪祈だけでも辿り着けなかった。二人がお互いを踏み台にし合った結果、辿り着けた。そういうことがちゃんと観ていて分かった。宮本大の良いと思ったところはちょっとムチャをするところだった。玉田俊二がまだまだ初心者でうまくドラムを演奏できるわけがないのに、初舞台を用意してしまうところなどである。そんな宮本大に影響されたのか、「So  Blue」を目標に設定するのも、出演のために裏で動くのも沢辺雪祈だった。
 宮本大と沢辺雪祈の二人を観ていて、『HUNTER×HUNTER』のジン・フリークスが自分のことを破天荒ではなく「小さいムチャをコツコツ重ねて出来たイメージ」というセリフを思い出した。
 沢辺雪祈は最初、嫌な奴だった。人を見下していた。だけど、宮本大や玉田俊二といる時は生意気であっても嫌な奴ではなかった。そんなこと気にならなくなっていた。だから驚いたのは「So Blue」の平の言葉だった。宮本大と玉田俊二を評価し、沢辺雪祈を貶す。鼻につく、ソロも良くない、人を見下している、と。僕も最初はそう思っていたのに、観ているうちに薄れていった沢辺雪折の改善すべきポイント。それが明確に示される。
 予想外の展開。沢辺雪祈の事故。この展開は良かった。
 私は不治の病やバッドエンドの作品は好きじゃない。『バクマン。』でも同じようなこと書いてあった。不治の病は泣きのNo.1アイテム。戦争ものもあんまり好きじゃない。そういうテーマは辛い。だから、ジャズの物語なのに、ゴール目前で交通事故で夢絶たれるのは、私は嫌なはず。なのに良かった。
 「So Blue」の平から言われていたのは、謙虚さと内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出すこと。謙虚さは、蔑ろにしてしまったファンに謝罪するシーンで描かれる。自分をひっくり返すシーンも、宮本大や玉田俊二より先に「So Blue」に出演し、ソロを披露したことで描いていた。だけど、それではやっぱり映画として、漫画としては不十分だった。右腕が折れていても舞台に立つ。それが自分をさらけ出すってことなんだと、言われたような気持ちになった。だから、交通事故のシーンはなくてはならなかったと思う。交通事故のシーンがあったから、この映画は最高だった。単なる「泣き」のアイテムだけに留まっていなかったと思う。
 初心者の玉田俊二。この玉田が良かった。一番好きなキャラクターだった。サッカーでも県でベスト8とかだったかな?細かいところまでは覚えていないけど、玉田俊二は何かに打ち込む才能がある。そういう意味で天才だった。宮本大以上に努力を感じさせられた。玉田俊二の成長を楽しみに毎回ライブに来るオジサンに共感した。誰もが思っていることだろうけど、『BLUE GIANT』は玉田俊二なしにはここまで良い作品にはならなかった。一年半ドラムを叩き続けた男。大学は留年。スティックはボロボロ。手もボロボロ。カッコ良かった。初舞台が良かった。自他ともに認める失敗。JASSのファンを獲得できたのは確実に宮本大と沢辺雪祈のおかげ。二人は凄かった。玉田俊二だけが足を引っ張っていた。さすがに気を使う沢辺雪祈。打ち上げの缶ジュースも少し飲んだところで、バイトの時間だと言って立ち去る。宮本大も沢辺雪祈にならって立ち去る。玉田俊二はモリモリ食べた。店をはしごしていた。牛丼にハンバーガーにラーメンに餃子(だったと思う)。あのバク食いシーンも最高だった。僕だったら食欲無くすところ。涙を流し、悔しがり、それでも折れない玉田俊二。失敗の数を毎回聞き、その数を減らしていく。
 スポーツものだったらこういう玉田俊二みたいなキャラクターの成長は、カッコいいけど、ツッコミたくなる。休息も必要だよ?って。でもドラムのことはよくわからないけど、叩いた時間(と聞いた時間)が全てだと思うから、玉田俊二の努力は文句なしだった。
 「So Blue」での玉田俊二の演奏。足だけでしばらく叩き続けるところ。カッコよすぎ。

 音楽に感動したとは言えないかもしれない。絵があったからこそのめり込んだのかもしれない。だけどサウンドトラックを買った。帰ってみてみると、歌詞カードには8Pの描き下ろし漫画があった。食べない玉田俊二と食べる宮本大。玉田俊二に食べるように言う。
 やっぱり食べるって大事だ。

沢辺雪祈をみて、謙虚に生きようと思った。
玉田俊二をみて、のめり込みたいと思った。

Dolby Atmosで観た。やっぱ通常のとは違うのかな?同じ作品で比べたことがないからわからん。。。

CGはちょっと変だったけど、気にしなかった。

原作を読んだことはない。ビックコミックで連載していることはなんとなく知っていた。原作漫画を読むことにした。『岳』も読んでみたい。
☆2023/9/11『BLUE GIANT』(1〜10巻)読了。もたもたしてしまったが読んだ。9/7から一気に読んだ。
映画は原作を凝縮したものでそこに、一つ大きな大きなサプライズを盛り込んだものだった。まさか雪祈が演奏するとは、原作を読んだこそ予想できなかっただろう。


○パンフレットでアニメ評論家の藤津亮太が引用して書いていたことわざ。
「早く行きたければひとりで進め。遠くへ行きたければみんなで進め」