デニロ

やがて海へと届くのデニロのレビュー・感想・評価

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
2.5
ちょうど10歳の時、理由は忘れたが休日家でひとり留守番をしていた。父も母も弟もいなかった。急に思いはあらぬ方向に向かい泣きじゃくったのを思い出す。両親の死を想像したのだ。いやその時現在ではなく、未来にある不在を。そんなことって誰にでもあったんだろうか。「無ではなくならない。死でなくなる。」映画「千利休 本覺坊遺文」でそんなことを語り合っていたが、そんなことを感じ取っていたんだろうか。

岸井ゆきのは友の不在を引きずる。また、連絡するね。それからもう何年も友からの連絡が途絶える。友の出掛けた先は東北。その直後に東日本大震災が襲う。

駅のホームに佇んで居る女子の足元が徐々に水に浸っていき、彼女は誘われるように水の中に溶け込んでいく。そんな冒頭のアニメーション。そのイメージは友浜辺美波だろうか。ちょうど今頃の季節、入学したばかりの大学のキャンパスでふたりは知り合う。

女友達を主題とした作品は映画、小説、コミック数々あるけれど、わたしが強く感ずるのは仮面だ、変装だ。ここでもふたりが知り合う前の十数年間の彼女たちは、今の彼女たちの時代と違う。うまく言えないけれどあるべき自分を作り上げようと苦悶しているように見える。多分、ふたりはお互いにそのことを理解している。

だからこそ岸井ゆきのは浜辺美波の不在を悔やむ。自分は彼女のことを何も知らない。自分自身の喪失を感じてしまう。いまや浜辺美波は無なのだ。そしてなくなっていない。

岸井ゆきのの職場の上司光石研が自死する。日頃からその振る舞いに共感している人間だった。彼は死んだ。もうないのだ。それ以降岸井ゆきのの世界に登場しない。彼が残したものはCD。

そして浜辺美波の残したものは。
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