成瀬巳喜男の遺作である。
交通死亡事故の加害者の男と、被害者の妻との、禁断の恋愛を描いた作品。
とてもインモラルな題材だが、そこをあえて誠実な愛を貫く姿を通じて、人を愛する事とは何かを訴えかけている。
加山雄三は、誠実だが過ちを犯してしまい、人生のドン底を味わいながら、謝罪がいつしか愛情に変わる難しい役を、とても抑えた演技で演じていた。
司葉子は、私が知る彼女の出演作の中でもダントツで美しく、加害者に対して気丈に振る舞うが、時折みせる悲しげな仕草がとてもいじらしく、魅力的だった。
とても印象的なシーンが多々ある。
序盤有名なシーン、婚約者の浜美枝がまだ未練があり、カーテンを閉める。もしかしてと思わせておいて、一呼吸置いて、もう冷めてしまっている加山雄三がカーテンを開ける。それを外から映す。セリフ無しで二人の心を的確に描いたシーンである。
特にラスト、二人の逃避行の行手をはばむ、踏切の遮断機。まるでもうこれ以上、「進むな」と暗示している。そして進み、案の定、決定的な事に出くわすのである。
最後の別れの「津軽民謡」は心に響く。
人を好きになることに、立場など無い。自然に、お互いが相手を求めている事を、あらためて教えてくれた作品である。
成瀬の、遺作とは思えない、瑞々しい演出にはビックリである。