スキピオ

君の名は。のスキピオのレビュー・感想・評価

君の名は。(2016年製作の映画)
4.5
"忘れてはいけないこと"

ネット界隈では絶賛評ばかり目にし、まさかの平日レイトショーで満席だったのでどんなもんじゃいと「斜に構えて」観たけど、それが吹き飛ぶくらいによかった。ほぼ満点。

このキャッチーなキャラデザ、作品全体の迷いのなさ、笑いも交えたお話の抜けの良さ、終盤の疾走感からくる幸せな鑑賞後感は、よかった頃の(笑)細田守作品「時をかける少女」に出会ったときのような気持ちだった。"未来で待ってる"っすね。

ただあくまで高評価は「SF風味」青春ラブストーリーとして諸々目をつぶってのもの。元も子もないけど、主人公が記憶を「忘れたり」「思い出したり」が都合よすぎるなーとかは正直感じた。

けど彗星がらみのある「隠し玉(暗喩)」には正直唸らされたので、軽い突っ込みどころはもうどうでもよくなった。彗星も現実のアレも「最初は歓迎」されてたね。これに合わせてラブストーリーパートで多用される「思い出せない」「覚えてなきゃいけないのに」というのは新海誠監督による日本人への「おまえら忘れちゃいけないことがあるだろ?うやむやのままでいいのか?」というメッセージであり、これが作品のテーマなのかと思った。ラブストーリーの皮を被せてこれをやってくるかと。

曲は良かった、バンドはオーダーに応えてよく頑張った。でも音楽映画でもないのに、人気バンドの「歌あり」の楽曲を「PVと揶揄」されるほどの長時間挿入、そして3度もやるのはやはりやりすぎかと。インストならよかったんじゃない? 監督の好きなバンドでPVっぽい作りも好きらしいけど、せっかくストーリーでメジャー配給らしい作家性とエンタメ性とのうまいバランスが生めたのだから、この辺ももっと自制してバランスをとったほうがよかったんじゃないかな。

ただ好みの差こそあれ、今年の「シン・ゴジラ」と並んで邦画史に残る秀作の一つなのは間違いないかと。ローカルを突き詰めればきっとグローバルでも通用するはずだ。必見。