建野友保さんの映画レビュー・感想・評価

建野友保

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燃えるドレスを紡いで(2023年製作の映画)

4.4

ファションの作り手が、ファションの墓場となっているゴミ山に出向く。温暖化の影響で世界一の干ばつ被害を被っているとされる奥地の部落を訪ねる。(ちなみにファッション産業は地球温暖化を促す2番目の産業と言わ>>続きを読む

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)

4.6

公共トイレを丹念に掃除するというルーチンな日々を過ごしつつ、100円の文庫本と名盤のカセットを愛し、ささやかな酒を楽しむ平山(役所広司)。鑑賞直後は、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」の一節が不意に浮かぶよう>>続きを読む

市子(2023年製作の映画)

4.0

市子は社会から見捨てられた人、社会には存在しないとレッテルを貼られた透明な存在の、いわば象徴のような存在でしたね。こうした人を掬い上げようとした監督の視点には喝采を送りたい気分です。演劇畑の方のようで>>続きを読む

ほつれる(2023年製作の映画)

4.0

初めてのアマプラで「ほつれる」鑑賞。ピンと張り詰めた生々しい緊張感に吸い込まれ、綿子の心の動きを固唾を呑んで見ていました。とてもユニークな映画体験だった気がします。前作「わたし達はおとな」は見逃してい>>続きを読む

ティル(2022年製作の映画)

4.2

試写会にて拝見。恥ずかしながら「エメット・ティル事件」は映画のチラシで初めて知りました。詳細はWikiで知ることもできますが、些細な出来事から南部で黒人少年がなぶり殺しに遭った事件です。息子の死をムダ>>続きを読む

ほかげ(2023年製作の映画)

4.1

舞台挨拶付きで鑑賞。小さな予算規模の映画ながら、終戦直後の生々しさが、そこに生きながらえた人びとを通して描かれている。空から焼夷爆弾が雨のように降り注ぐ戦中、そして戦場で飢えに苦しみながら命を落として>>続きを読む

私がやりました(2023年製作の映画)

4.4

テンポの良い会話劇。芸達者な役者さんたちが脇を固めていて、終始ニヤニヤが止まりませんでした。犯罪を犯して「可哀想な女性たち」という世間の同情を惹くことで成り上がっていく、言い方を変えれば同情を買うこと>>続きを読む

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?(2022年製作の映画)

4.0

原発技術の海外生産移転を巡る社会派サスペンス、という大上段に構えた部分もありますが、ポイントは主人公が若い頃に受けた肉体的・精神的な苦痛という、一人の人間に収斂した普遍的なテーマ。その構成が現代的だと>>続きを読む

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン(2023年製作の映画)

4.2

マーチン・スコセッシ気迫の作品。先住民族への敬意をベースにした重厚なつくりでした。長い映画でしたが途中でダレることもなく、最後まで見せてくれたのはさすが。ラストの夫婦の対話シーン、そしてラジオドラマ収>>続きを読む

花腐し(2023年製作の映画)

4.2

原作のエッセンスを受け継ぎながらも、自身に引き寄せた荒井晴彦ワールド全開の本作。ロマンポルノやピンク映画への愛憎。シナリオを書くということ。映画を作るということ。往時の時代と共にあった山崎ハコ、山口百>>続きを読む

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)

4.5

「死ぬな、生きろ。」シンプルなメッセージが心を衝く、素晴らしい作品でした。監督の過去作から「どうせ、戦後復興の日本万歳」の映画だろうなと消極的でしたが、杞憂でした。戦後間もない日本を取り巻く状況をうま>>続きを読む

タタミ(2023年製作の映画)

4.5

東京国際映画祭2023で鑑賞。政治的な対立が深いイランとイスラエル。この映画は柔道世界選手権に参加したイランチームのエース選手と監督を主人公にした作品です。見事な投げ技、絞め技で勝ち進んでいくイランの>>続きを読む

クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド(2022年製作の映画)

4.0

ジョン・フォガティのタフな歌声はもちろんですが、バラカンさんが言っていたように、ダグ・クリフォードのドラミングがスリリングでエキサイティングでした。実に熱い演奏でした。

リバイバル69 ~伝説のロックフェス~(2022年製作の映画)

4.5

ロックの夜明けを告げるウッドストックのわずか1か月後、「トロント・ロックンロール・リバイバル」というフェスが開かれ、新旧ロックンロールのスター達が出演したこと。70年代から洋楽を聴いていた僕は全く認識>>続きを読む

(2023年製作の映画)

4.0

巧妙な罠がしかけられた作品。まんまと、分かりやすい罠にはまる人も多そう。僕も正直、少し危なかった感じがします。
見ていて、とても苦しかった。苦しかったのは、自分の正義感が激しく揺さぶられていたから、な
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シモーヌ フランスに最も愛された政治家(2022年製作の映画)

4.2

ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)のフランス版かな、くらいの軽い気持ちで鑑賞しましたが、その壮絶すぎる生涯に絶句。そして今では当たり前とも思える、女性や虐げられてきた人びとの人権や生存権、そして>>続きを読む

ジョン・ウィック:コンセクエンス(2023年製作の映画)

4.4

一級のアクションエンタメ作品に唸りました。ここまで凄いとは驚いたし、満足度が100%です。ひと晩たっても余韻が抜けません。
もともとは応援しているミュージシャン、Rina Sawayamaの映画デビュ
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燃えあがる女性記者たち(2021年製作の映画)

4.0

最下層に近いダリト、ダリトのなかでも存在を否定され続けてきた女性たちが、一からジャーナリズムの骨格を形成していく姿は、一見青臭さも感じてしまったのですが、この青臭さこそが、ジャーナリズムの基本にあるべ>>続きを読む

星くずの片隅で(2022年製作の映画)

4.1

中国に首根っこをつかまれて民主化運動の挫折を味わい、社会の先行きが見えなくなった香港。コロナ禍で経済活動が止まり、生活費を稼ぐ手段すら失ってしまった時代。こうした環境下で身を落とすのは容易ですが、主人>>続きを読む

はこぶね(2022年製作の映画)

4.1

視覚障害者に限らず、24時間介助を必要とする身体障害者などの場合に、生活を支援してくれる介助者やボランティアは命綱でしょう。その人のことが好きか・好きじゃないかはともあれ、誰かの支援を受けないと命を繋>>続きを読む

ジェーンとシャルロット(2021年製作の映画)

4.0

カメラという道具を使うことで母ジェーン・バーキンと向き合い、対話を深めることを試みた、娘シャルロット・ゲンズブールの初監督作品。
一見、撮りためていたホームビデオ、二人の日常会話を編集しただけの作品か
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アウシュヴィッツの生還者(2021年製作の映画)

4.3

ドイツ兵たちを楽しませる余興として行われたユダヤ人捕虜たちのボクシング、そこで勝ち続けた結果、命を長らえた男の物語。
という前知識だけで観に行きましたが、幾重もの過酷さが描かれていて、想像を絶する物語
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福田村事件(2023年製作の映画)

4.1

役者さんたちの熱量にただならぬものを感じた作品でした。森達也監督がこの企画を通したいと粘り強く取り組んだこと、そして今の時代と社会を覆っている空気が近しい100年前の出来事を、いま映画化することの意義>>続きを読む

バービー(2023年製作の映画)

4.1

「バービー」が映画化されると知り、ピンク一色の予告編を見た時点では「絶対に観ないだろうな」と思っていましたが、その後の噂を聞くにつれ、「絶対に観たい映画」になりました。
まずは冒頭のシーンで、胸ぐらを
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To Leslie トゥ・レスリー(2022年製作の映画)

4.0

アルコール依存症の女性をリアルに演じた、アンドレア・ライズボローのお芝居にともかく感嘆。これだけでも観る価値があるが、当事者を抱え、機能不全に陥った家族には直視できない作品かも。
アルコール依存症の妻
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CLOSE/クロース(2022年製作の映画)

4.2

親子、兄弟姉妹といった定義しやすい人間関係の枠から飛び出し、家族の外にさまざまな濃淡の人間関係が次々と生まれていく13歳。カテゴライズしにくい関係を、他人は分かりやすく定義・整理しようとする。その他愛>>続きを読む

マルセル 靴をはいた小さな貝(2021年製作の映画)

4.1

小さな貝・マルセルが、離ればなれになっていた家族との再会を夢見て大冒険に出る。そのストーリーや感涙ポイントもさることながら、制作者の視点や描き方が素晴らしく、そちらに感動を覚えました。
ハチミツでネバ
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ぼくたちの哲学教室(2021年製作の映画)

4.0

映画「ベルファスト」の数十年後の現実。「考える力」を養う術、その一端を見せてもらいました。
「こんな先生が日本の教育現場にもいたら良いのにね」。そんな感想を抱くのは容易ですが、今の日本で、こういう先生
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怪物(2023年製作の映画)

4.3

坂元裕二さんの脚本は『花束みたいな恋をした』でもそうだったけど、とてもテレビドラマ的なニヤリの台詞が多く、『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫』では、いかにも「良い台詞でしょ」と言わんばかりのド>>続きを読む

パリタクシー(2022年製作の映画)

4.3

うだつの上がらない中年タクシー運転手が、高齢の婦人を乗せ、彼女から聞く人生語りがキッカケになって、自らの生き方を見つめ直していく映画。
…という想像だけはしていました。凡庸なほのぼの映画だろうからと先
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せかいのおきく(2023年製作の映画)

4.0

今の世にこれだけの質感を持った時代劇が誕生したことを素直に喜びたいです。章区切りの物語、章末に添えられたカラーのカットが効果的。そして雪のシーンが胸をうつ。
黒木華さん、池松壮亮さん、そして長屋住まい
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TAR/ター(2022年製作の映画)

4.4

ズバリ、ケイト・ブランシェットをひたすら楽しむ作品でした。とくにアコーディオンを弾きながら歌うシーンなんて最高だった。オーケストラの迫力、チェロの音色も素晴らしかったですね。
あちこち意味が解せないシ
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午前4時にパリの夜は明ける(2022年製作の映画)

4.0

特段の盛り上がりがあるわけではないですが、人と人の繋がりや心の支え、社会としての豊かさが感じられる作品でした。こういう映画は暖かい気持ちになりますし、救いのようなものを感じます。シャルロット・ゲンズブ>>続きを読む

ザ・ホエール(2022年製作の映画)

4.0

妻と子どもを捨て、愛する男性を自殺で亡くし、幾重もの後悔を抱いたまま緩慢な自殺を志向する主人公・チャーリー。死期が近いことを自覚しながらも、何か一つでも人のためになることをしたい、自分の存在価値につい>>続きを読む

飢餓海峡(1965年製作の映画)

4.4

WOWOWでテレビ鑑賞。戦後の貧しい、ひもじい時代の記憶を濃厚に焼き付けた名作。三國連太郎、左幸子が抜群に良い。内田吐夢監督作品は初見だったが、とくに布団ごと絡み合うシーンは凄い演出だなあと唸った。昭>>続きを読む

生きる LIVING(2022年製作の映画)

4.0

第4回ベルリン国際映画祭でベルリン市政府特別賞を受賞した、黒沢明監督「生きる」(1952年作)のリメイク作。オリジナル作はテレビ放映でしか観ていませんが、当時ならではの大仰な芝居、聞き取りづらくなった>>続きを読む