あしからずさんの映画レビュー・感想・評価 - 3ページ目

あしからず

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トルブナヤの家(1928年製作の映画)

4.0

夜明けと共に目覚める街と、ドールハウスの断面図のようにアパートを縦切りして住人たちが朝の活動を始める様子をカメラの縦移動で撮る一連は映画史に残るようなシーンだし、突然登場したアヒルとそれを追う少女、更>>続きを読む

エール!(2014年製作の映画)

3.6

コーダの漁業に対し本家のこちらは農業で、朴訥としたフランスの田舎の雰囲気にぴたり。アメリカ版で感じた聾唖者への壁がほぼなく周囲がみんな自然体で、フランスゆえなのか単に描写されなかったのか不明だけど、ど>>続きを読む

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)

3.8

冒頭から歌、無線、問いかけと声を意識させる始まりが良い。オリジナルのフランス版をそつなくブラッシュアップさせてる印象で、家族と仕事と進路に加え湖ダイブなどマイルズとの青春がより鮮明に撮られてたのが好印>>続きを読む

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)

4.3

他者からラベリングされないパーソナルな空間で、純粋な私という一個体の存在、一人の生き物としての私が、床や壁に溶け出し、物質との境目を忘れた原子のように部屋と一体化する。家具を運び出しマットレスの位置を>>続きを読む

牛泥棒(1943年製作の映画)

3.7

正義の暴走と集団心理の恐ろしさを大戦中に撮るウェルマン。正義中毒に陥る人が大量生産されるこの大SNS時代に観るとより沁みるが、こちらは銃もあり縄もあり苛烈なマチズモありと即戦の実行力が伴ってるから厄介>>続きを読む

東洋の秘密(1928年製作の映画)

4.4

伊豆のみかん畑で長い間眠っていたというフィルムは目が覚めるような艶やかなオリエンタリズム。発掘された喜びに満ち溢れるような溌剌とした瑞々しさに釘付け。なんと言っても見所は版画のようにフィルムを切り抜い>>続きを読む

五本の指(1952年製作の映画)

4.2

スパイ映画の名に相応しい騙し合いの多重奏。情景描写の丹念さが呼ぶ静かな緊張感と愚直さがそのままキケロの人柄に伴ってすばらし。ダイヤル式金庫、フィルムカメラ、電気スタンド、ベルなどこれぞといった装置の数>>続きを読む

国境の町(1933年製作の映画)

4.0

真の敵とは。敵国という理由で壊れる友情があるかと思えば戦地で敵兵同士の瞬間的交流があり、靴職人という共通項で敵国人へ救いの手を差し伸べ、それらの布石が敵兵への単身の歩みを引き立てる。更に一貫したエレー>>続きを読む

アスファルト(1929年製作の映画)

4.5

すごい。川端康成も賛美したベティ・アマンのむせ返るような官能性に気を失いそう。女泥棒と警官の倒錯自体は通俗的なのに、アマンの誰とも既視感のない黒豹のような野生的な色香と美貌、更に巧みな編集とカットの繋>>続きを読む

ヴァリエテ(1925年製作の映画)

3.9

本作を分岐点に語られる古典ドイツ映画。「最後の人」と同じカメラマン、カール・フロイントの解放されたカメラがサーカスという場で更に水を得た魚のように動き回ってる。空中ブランコなど正に適材適所。因果応報と>>続きを読む

パリのランデブー(1994年製作の映画)

3.6

3話ともそれぞれ滑稽なのにあまりに軽やかで、大量の言葉のあと急にポンと宙に投げ出されるような感覚が変に心地良い。全部好きだけど、蔑ろにしたスウェーデン女性にバックれられて帰宅し彼女の言ったとおりに絵を>>続きを読む

曽根崎心中(1978年製作の映画)

3.6

始終目ぇがん開きの梶芽衣子。歌舞伎を意識してかコテコテの舞台芝居を呑み込むのに時間がかかったけどあまりにドラマチックに釣り行灯の火を消す描写に完敗。先日観た「死滅の谷」や落語の「死神」のロウソクに連な>>続きを読む

死神の谷/死滅の谷(1921年製作の映画)

4.2

いい意味でラングのイメージが覆った。死神と人間の邂逅という怪奇と幻想は古典ドイツ映画を踏襲しながら、オリエント・ヴェネチア・中国と3つの時代の描写はファンタジックかつエキゾチック、さらに果てはキリスト>>続きを読む

夜の女たち(1948年製作の映画)

3.7

モンペ→着物→膝丈スカートと服装でみる田中絹代の戦中戦後。これが監督作「女ばかりの夜」に繋がるのが納得。人間の弱い部分につけ込んでくる魔とどこまでもついてくる戦争。教会の焼跡でリンチにあう時の悲痛な叫>>続きを読む

制服の処女(1931年製作の映画)

4.3

良すぎ。「贅沢は敵だ」さながら「貧困は名誉なり」とプロイセン主義を謳う最悪院長が牛耳る最悪女学校で常にはらぺこの“制服の捕虜”たち、縦縞の服がいかにもな権威主義と全体主義はすぐ後台頭するナチズムを暗示>>続きを読む

嘆きの天使(1930年製作の映画)

4.0

耳を塞ぎたくなる断末魔のような鶏の鳴き真似は冒頭の燃やされた鳥から繋がり、唯一の教授という地位さえ失くして古巣に堕ちるという救いのなさ。ディートリッヒ出世作という割に脚一本(二本?)勝負でこれはやはり>>続きを読む

最後の人(1924年製作の映画)

4.3

制服を奪われたホテルの老ポーターと露骨な権威主義。メリーゴーラウンドのように光り輝く回転扉が一転して運命の輪のように掌を返し、ポーターは薄暗い地下トイレに追いやられる。惨めなヤニングスの精神を代弁する>>続きを読む

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)

3.3

感情と趣意優先で作品そのものへのアプローチが不足してる印象があって、特に終盤の出たとこ勝負みたいな雑さはラスト未定で走る是枝手法が裏目に出てるように感じてしまった。勿論個々のシークエンスでみると開けな>>続きを読む

女ばかりの夜(1961年製作の映画)

4.2

売春防止法制定後、道に迷う女たちの更生を阻む人々の残酷に抗う原知佐子のストイックさに脱帽。「夜の女たち」で運命に翻弄される娼婦を演じた後、今度は娼婦を撮る側にまわった田中絹代の、厳しくも庇護に溢れた視>>続きを読む

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 4K リマスター版(1968年製作の映画)

4.5

多様化するモダンゾンビの原点であり頂点。ゴア描写を競いがちな現代作品とは真逆の正統なクラシックホラー的演出で、ジャック・ターナーやポランスキーのような麗しい陰影が最高に魅力的。恐怖以上に美の勝利で画面>>続きを読む

ファウスト(1926年製作の映画)

4.8

圧倒的ダイナミズム。どこまでも絵画的でありながら映像の魔力に満ちた結晶体。映画とはかくあれ。悪魔と天使の派手バトルから疫病発生、ファウストの苦悩とメフィストの誘惑、恋と追いかけっこからおばちゃんトラッ>>続きを読む

北の橋(1981年製作の映画)

3.9

リヴェット作品のゲーム性と無常感を浴びる。現実の中のファンタジーとファンタジーの中の現実、そうじゃなきゃ人生やってられない。パスカル・オジェがドンキホーテならビュル・オジェはドゥルシネア姫なのか。パリ>>続きを読む

メリー・ゴー・ラウンド(1981年製作の映画)

3.7

ほどけそうで全然ほどけない縺れがたのしい。劇伴/物語/心象と3つのレイヤー(+1)の絶妙な調和と不協和音。この展開なら死体は必須だけどそこか〜となった。前情報なく観てマリアシュナイダーじゃない人を深読>>続きを読む

赤い砂漠(1964年製作の映画)

4.6

世紀末SFのような絵画性の高い映像の連続と神経を患ったモニカヴィッティの不均衡さが良すぎる。異世界に迷い込んだ異星人のように、怯えた野生動物のように世界を拒絶するヴィッティ。
工場内で緑のコートの彼女
>>続きを読む

湖のランスロ(1974年製作の映画)

4.0

特有の金属音と不自由な動作。まるで枷のような甲冑はフィジカルのみならずそのまま騎士たちの精神の束縛であり、ランスロとグニエーヴルの障害の象徴。ただただ身体が痒くなったらどうするのかひたすら心配。跪く時>>続きを読む

明日は日本晴れ(1948年製作の映画)

4.1

バスの停止でみせる邂逅はロード無きロードムービーで少し某ライカートを思い出したり。
同じバスロケーションとはいえ「有りがたうさん」との類似性は想像より淡くて、足・目・子どもそれぞれなにかを失った人々の
>>続きを読む

ピロスマニのアラベスク(1985年製作の映画)

3.8

ピロスマ二とパラジャーノフ、一見対照的な2人の芸術家を結ぶトビリシの過去と現在。ピロスマ二の素朴で原始的な絵画を画面上でコラージュするアプローチ面白い。動物たちの真っ黒な視線を切り取りその後肉塊になっ>>続きを読む

ラヴ・パレイド(1929年製作の映画)

3.7

情事の証拠をガーターリングで表すの色っぽい。フランス帰りの遊び人が逆玉の輿で女王と結婚するも彼女は公務に忙しく、退屈なすれ違いの日々に不満が募るという見事な風刺的男女逆転劇。ジャネット・マクドナルドと>>続きを読む

Kiev Frescoes(英題)(2019年製作の映画)

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パラジャーノフ的映画言語の断片。既に「ざくろの色」の前衛的要素が見てとれ更に制作中止になった欠片なのでシュールが加速。第二次世界大戦余波の作品だったらしくて珍しく現代の兵士が登場したりソフィア大聖堂を>>続きを読む

小さな兵隊(1960年製作の映画)

3.8

アルジェリア戦争只中で自国へ真っ向に反戦を唱える抵抗は世界で本格的に戦争が始まった現状を踏まえると尚更染み入る。戦時では何もしなくてもその行動に意味が付随し、もはや山師トマのように夢と現実を一体にする>>続きを読む

奇跡(1954年製作の映画)

4.5

余分を全て削ぎ落とし磨き上げた宝石のような感触でまさに神がかり。予想通りの結末に静かに歩むただそれだけなのに涙。教派を超えた奇跡とそれに反発するようなリアリズムの弁証法の説得力。緻密な銅版画のような映>>続きを読む

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)

3.3

ドでかフォントで構成されたゴシップ誌。GUCCIというか構成がほぼほぼパトリツィアの映画なので彼女から視点がずれていった時点でノレなくなった。アダム・ドライバーもここじゃない感。レディ・ガガは適材適所

茶釜音頭(1935年製作の映画)

3.6

無声の長尺版で腑に落ちた。蓄音機やスキーにバイクなど現代的表現や御用の提灯もった末っ子狸がキュート

難船ス物語 第一篇 猿ケ島(1931年製作の映画)

3.6

政岡憲三デビュー作の切り絵アニメ。猿の島で起こる異端差別や相互不理解、どこかで見たような暗部。コミカルな動画を突き抜けてくる白猿表現

L'Inferono(原題)(1911年製作の映画)

3.7

ダンテの地獄ツアー。予習にと思って永井豪の神曲を読んだら圧倒的迫力で本作の地獄に不覚にも癒されるというミス。当時の特撮技術や美術を駆使した空飛ぶ罪人や180度回転する首、ケロベロス、蛇に変わる人間、巨>>続きを読む

あるじ(1925年製作の映画)

4.0

家庭で暴君のように振る舞う父親への警告は未だ現在に通じてしまうし、シスターフッドの描写が既にあることに感嘆と旧態依然を感じながら、市井の暮らしを真摯に描いた現代劇をドライヤーが主題に選んだ効果は当時の>>続きを読む