片山幹生さんの映画レビュー・感想・評価

片山幹生

片山幹生

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KCIA 南山の部長たち(2018年製作の映画)

3.5

気になっていたが未見だった映画。『ソウルの春』の予習もかねて、Amazon primeで見た。韓国を揺るがした大統領暗殺事件が題材の作品。暗殺が実行される40日前から、朴正煕の忠実な側近であったKCI>>続きを読む

大いなる不在(2023年製作の映画)

4.6

傑作。
老齢になり、認知症になったことで、自分が最も慈しんできた人、大事にしていた記憶を、傷つけて、破壊して、失ってしまう。でもそれは認知症という病気のせいであり、彼のせいではない。謎が徐々に明らかに
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クレオの夏休み(2023年製作の映画)

4.6

母親を病気で亡くした5歳の女の子が、母親代わりとして自分の世話をしてくれた乳母を夏休みに訪ねる。乳母は大西洋、アフリカ西岸の島国、カーボデルでの出身で、島には子供二人を残して、フランスで乳母をしていた>>続きを読む

チャレンジャーズ(2023年製作の映画)

4.4

女性一人、男性二人の情熱的で濃厚すぎる三角関係、10代後半の青春期から30代はじめまでの13年間の愛憎を、男二人が女一人をめぐって真剣勝負する最後のテニスの試合の進行を軸に描き出す。こうしたスポーツ+>>続きを読む

スリープ(2022年製作の映画)

3.3

小さな不安が徐々に増大し、人がどんどんおかしくなっていく話。
ホラー映画だが、これはいかにもありそうな話だ。身近にいた人が知らないうちに「変」をこじらせて、ある日、突然、異常に気がついて「ギョッ」とす
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ちゃわんやのはなし ―四百年の旅人―(2024年製作の映画)

3.4

薩摩焼の第15代沈壽官へのインタビューを中心に、400年前に朝鮮から日本に連れてこられた陶工の子孫たちによる伝統の継承のありかたを描く。第15代沈壽官と薩摩焼研究者の女性研究者、深港恭子へのインタビュ>>続きを読む

告白 コンフェッション(2024年製作の映画)

3.5

想定外のバイオレンス・ホラーで、見ていて何回か「ヒヤッ」と叫び声がでてしまった。
この手の映画、実は苦手なんだよね。ビクッとするような場面がいくつもあり心臓に悪い。
ヤン・イクチョン、怖すぎ。

悪は存在しない(2023年製作の映画)

3.5

よくわからない映画だった。冒頭30分は見ているうちに落ちてしまった。
思わせぶりなタイトルの観念的な映画だった。濱口竜介監督作品のファンではあるが、この作品はいまひとつ。音楽がやたらと饒舌にかぶさる映
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スープとイデオロギー(2021年製作の映画)

4.2

済州島四・三事件を経験した監督の母親の生涯は、国家に翻弄された苦難を象徴するものだった。このドキュメンタリー映画で監督は、自身の母親を取材し、撮影することで、その歴史と向き合っている。

監督の父母は
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バッカス・レディ(2016年製作の映画)

4.2

67才で街頭に立つ老人相手の娼婦、ソヨンの物語。
悲痛な老娼婦の生き様を淡々と提示するなかで、韓国の戦後史のなかで置き去りにされた人たちの悲痛な状況を浮彫にする。
海外養子、シングルマザー、米軍基地、
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リンダはチキンがたべたい!(2023年製作の映画)

4.4

いい意味でフランス的な洒脱さ、軽やかな諧謔と風刺を楽しむことのできるアニメーションだった。明るい色調の不透明水彩絵具でサッと描かれたような絵は、美術作品として面白い。その明るさと軽やかさのなかで、ニワ>>続きを読む

整形水(2020年製作の映画)

3.3

藤子不二雄Ⓐの黒いユーモア作品を想起させるようなホラー・ファンタジー。エスカレートしたルッキズムの行く末を描き出すグロテスクな悲喜劇。ルッキズム批判というよりは、この現実をシニカルに観察しているような>>続きを読む

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)

4.5

ユ・ヘジンのおっさん顔を見るだけで泣きそうになってしまう。
朝鮮語の使用が禁止された日本統治下の朝鮮で、民族性の重要な拠り所である「母語」を守るために、連帯し、弾圧に立ち向かう人たちがいた。実際にあっ
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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキスト(2017年製作の映画)

4.2

これは日本が向き合なければならない問題だが、この映画は日本では作ることはできない。韓国だからこそ作ることができた。この映画では私たちがまともに語ることができない天皇制について痛烈な批判が行われている。>>続きを読む

WILL(2024年製作の映画)

4.2

不倫スキャンダル後、マスコミやSNS上で散々たたかれ、離婚し、三人の子供とも離ればなれとなった東出昌大が抱える孤独と葛藤をまっすぐ見据えた、作り事が感じられないドキュメンタリー映画だった。
山中で狩猟
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ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー(2023年製作の映画)

4.2

非正規底辺労働者の若い女性二人組の殺し屋のコメディ・アクション。長髪女性の殺し屋、高石あかりののヤサグレ演技、定型的だが実にさまになっている。うまい。殺し屋たちに依頼される殺しの理由や動機が徹底的にく>>続きを読む

AKAI(2022年製作の映画)

3.7

新型コロナのころに行った現在の赤井英和へのインタビュー映像を外枠に、かつて赤井が大阪西成のスターだったころ、《浪花のロッキー》と呼ばれていた時代の赤井の映像を再構成したものだった。私は赤井とほぼ同年代>>続きを読む

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日(2012年製作の映画)

4.3

11年ぶりに見た。
虎と海洋を漂流しながらサバイバルするスリリングで緊張感に満ちた場面や幻想的な海洋の風景に見ている最中は引き込まれるが、やはりあの結末にぐんと突き放されたような衝撃を覚える。冒頭で「
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市子(2023年製作の映画)

4.2

オリジナルは戯曲とのことだったが、舞台でどんな風に上演されたのか見てみたくなった。
プロポーズの直後に失踪した恋人の過去をたどる、という構造のよくあるドラマではあるのだけど、その過程で露わにされる悲惨
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秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)

4.1

森のなかで展開する静謐で優しいファンタジー映画だった。双子の女の子がかわいい。子供の頃持っていたけれど、その後成長とともにずっと喪失していた気持ちを取り戻すことを、夢想するかのような物語だった。最後の>>続きを読む

別れる決心(2022年製作の映画)

3.7

少々いびつで状況のなかで展開するロマンチックな物語であり、男女二人の屈折したかけひきのなかでの心理描写はいいのだけど、パク・チャヌク監督作品としては、こちらをぎょっとさせるようなえげつなさがないのが物>>続きを読む

バンリューの兄弟(2019年製作の映画)

4.0

フランスの大都市の外側に広がるバンリュー(郊外)の貧困と荒廃は、フランスの植民地主義とそれに起因する民族・宗教差別とも深く結びついている。パリの中央の華やかさから疎外され、警察など国家権力との緊張関係>>続きを読む

You Will Remember Me(英題)(2020年製作の映画)

4.7

大学を退職した歴史学者が認知症になる。
徐々に症状が悪化していく歴史学者を持て余した妻は夫を捨て別の男性と暮らし始める。恋人と暮らす40代の娘が父を引き取るが、彼女にとっても老いた父の介護は大きな負担
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福田村事件(2023年製作の映画)

4.5

見る前に予想していた以上に、心胆を寒からしめる内容だった。「事件」の発生の前に延々と、この事件を生み出したじっとりと粘つくような時代の雰囲気が描き出される。ただ集団の同調圧力のおぞましさは、過去のある>>続きを読む

TAR/ター(2022年製作の映画)

4.3

組織、集団内の関係性のなかで、おそらくそれまで抑えられていた黒い衝動が解放され、それがどんどんエスカレートしていく例は、身近にいくつもあるし、私自身にもそうした可能性はある。多くの人間はどす黒い欲望を>>続きを読む

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)

5.0

このレビューはネタバレを含みます

やはり、マクドナー。どうやったらこんな展開の脚本を思いつくことができるのか?!
アイルランドの架空の島を舞台に、退屈な生に絶望しながら、諦念のなかに生きる人の姿を、容赦ない冷徹なユーモアとともに描く傑
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トリとロキタ(2022年製作の映画)

4.9

無音のエンドロールを見ながら、作品のメッセージの重さを受け止める。
ダルデンヌ兄弟の作品は、社会的セーフティネットからこぼれ落ちた人たちの存在を可視化する。アフリカからの移民の少女と少年は、堅い疑似姉
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生きる LIVING(2022年製作の映画)

3.5

オリジナルの黒澤明版にもそれほど心動かされなかったのだが、オリヴァー・ハーマナス監督、カズオ・イシグロ脚本、ビル・ナイ主演のこの版にもあまり感動しなかった。「生きる」ことの証が、あのささやかな、ありふ>>続きを読む

なんくるないさぁ劇場版 生きてるかぎり死なないさぁ(2021年製作の映画)

4.0

主演の仲田幸子は1933年生まれで90歳。彼女は沖縄芝居の「喜劇の女王」と呼ばれ,沖縄では知らない人がいない偉大な存在なのだそうだ(私はこの映画を見て初めて知ったのだが)。仲田幸子が本人役でこの映画に>>続きを読む

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)

4.0

緊迫感に満ちたスリリングな試合の展開に、リョータを中心に、超個性的な各プレイヤーの内面の描写や過去の回想のエピソードが挿入される。試合の場面の身体の表現やカメラワークが作り出す迫力とリアリティは圧巻。>>続きを読む

少女は卒業しない(2023年製作の映画)

3.7

卒業式前日と当日の4人の女子高生のはかなく、せつない恋を美しく描く青春《少女》映画。女子高生青春映画の傑作、つみきみほが出演した中原俊監督『桜の園』を思い出す。各高校生の世界、内面を丁寧に描き出す秀作>>続きを読む

エルヴィス(2022年製作の映画)

3.6

彼をアメリカ国内に縛りつけたマネージャーの視点からエルビスの生涯を描く。エルビスというと白人の音楽という気がするが、彼の音楽のルーツは黒人の大衆音楽・文化に由来する。ロック歌手という存在のエロチックな>>続きを読む

PLAN 75(2022年製作の映画)

3.7

父母だけだけでなく、自分ももしかするとすでに人生の晩年に入っているのかもしれない。75歳まであと20年。万人を待ち受ける老いの現実に向き合わされる。陰鬱な気分になる映画だった。