こーたさんの映画レビュー・感想・評価 - 2ページ目

不思議惑星キン・ザ・ザ(1986年製作の映画)

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合言葉は、クー(Kuh)!
うっかり押してしまった謎のボタンは、あっという間に宇宙の彼方へと飛ばされる瞬間移動装置だった。
寒空のロシアから、荒れ果てた砂漠のど真ん中へ。
現れる謎の飛行体。檻笑。鼻の
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ダンケルク(2017年製作の映画)

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脳を音が揺さ振る。
空間を圧する、音、音、音。
星間(interstellar)には音が無かった。
ダンケルクの海岸には、ただ音のみが充満している。
遠い空の彼方から、微かに聞こえる金属音。敵軍の爆撃
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エル ELLE(2016年製作の映画)

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映画は恋に似ている。
鑑賞のひととき、わたしは画面に魅せられ、劇中の人物たちと想いをおなじくする。
かれらと世界のあちこちをめぐり、ときに焦らされながらも、愉快なひとときをともに過ごす。
だが、そんな
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少女ファニーと運命の旅(2016年製作の映画)

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少女の目線が、とても低い。
大人たちの雑踏にまぎれると、視界は遮られ、周囲はたちまちのうちにぼやけてしまう。はぐれた仲間を探すのも、ひと苦労だ。
そんなか弱い13歳の少女が、指揮官に指名される。任務は
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裁き(2014年製作の映画)

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壇上で歌う老人の顔に張りついているのは、怒りだ。
猛々しい歌声に乗せて、内側からふつふつと湧き上がってくるような、静謐な怒り。
社会が急速に発展し、いたるところに生じた隙間を、法律は埋めることができて
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ロスト・イン・パリ(2016年製作の映画)

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足は口ほどに物を言う。
めくるめくステップに誘われて、道化と歩く異国の街は、どこまでも幻想的で美しい。
女は最愛の叔母を訪ねて、憧れの都パリへ。
愛する姪をよびよせた老婆は、自由を求めて自ら迷子に。
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タレンタイム〜優しい歌(2009年製作の映画)

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あらゆる言語の飛び交うさまが、この国の多様性を端的に顕している。
英語、マレー語、中国語、それに手話まで。ひとりの話し手が、はなしているその途中で、急に言語をかえたりする。その切り替えは実に軽やかで、
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ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)

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本を読むなら、紙の本がいい。
紙の本なら、兵士が戦場へ携えていける。
戦場へ携えていくなら、物語よりも詩がいい。
詩は魂だからだ。
討たれた兵士が胸におしあて、たとえ一片の肉塊となろうとも、その胸の内
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20センチュリー・ウーマン(2016年製作の映画)

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 わたしの母は、わたしがまだ赤ん坊のころに彼女の夫と離婚して、生家へと戻った。
 わたしは父親の存在を知らずに育ったが、母の両親や姉夫婦、それに、たくさんいる彼女の友人たちに支えられて、すくすくと成長
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パトリオット・デイ(2016年製作の映画)

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テロに打ち勝つのは、愛、なのだそうだ。
愛があれば、テロリストのふるう暴力にも決して屈しない。
愛によって団結し、わたしたちはテロに立ちむかう。
そのおぞましさに、寒気をおぼえる。
では、テロリストた
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ナイトクローラー(2014年製作の映画)

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いつの時代も若者とは純粋なもので、その純粋さは、若者を若者たらしめている幼児性に直結している。純粋さは若さの特権であるはずなのに、さいきんは社会全体がどんどん純粋な方向へとむかっていくようで、つまりは>>続きを読む

フレンチアルプスで起きたこと(2014年製作の映画)

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 「ナゾな映画だったね」
 目の前に座る彼女が、グラスの麦酒にちょっと口をつけてから、云った。
 いっしょに映画を観るのは、きょうが三度目だ。
 ふたりで会うのもこれが三度目で、いつも映画を観にいき、
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ローマ法王になる日まで(2015年製作の映画)

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わたしにとって映画とは教会のようなものだな。
教会へ行って、祈りを捧げる。
心にわだかまっている悩みを打ち明ければ、その心の結び目を、聖母がやさしく、ほどいてくれる。
信仰を持たないわたしの心の結び目
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光をくれた人(2016年製作の映画)

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傷痍軍人、帰還兵。
戦争の傷痕が、まだ生々しい時代、死はいまよりもずっと身近だった。
絶海の孤島に、ふたつの海が打ちよせる。そのぶつかる音が、騒がしい。
波のざわめきが、男の心をかき乱す。
女の天真爛
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スノーデン(2016年製作の映画)

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 出かけたさきでの予定が突然キャンセルになった週末のある日、ぼくは久しぶりに映画館へ行った。
 そこはいまではめずらしい、スクリーンがひとつだけの小さな映画館で、その時間に観られる映画も、当然だがひと
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メッセージ(2016年製作の映画)

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戻る、という字の旧字には、点がひとつ余計にあって、「戸」の下が「大」ではなく「犬」であった。
開けておいた戸に犬が戻ってくる、というほうが、ずっと雰囲気が出ている。
かつてそう言っていたのは、吉行淳之
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マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016年製作の映画)

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年をとるということは、葬儀の指示をできるということかもしれない。
司馬遼太郎『坂の上の雲』で、子規の死にさいして、陸羯南がいった言葉を思い出す。
兄の死にまつわる手続きを通して、弟は壊れた心を再生する
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カフェ・ソサエティ(2016年製作の映画)

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なんでもない瞬間に、ふっと笑みがこぼれる。
シーンのあいだに挿まれる「間」が、なぜか可笑しい。
人生の隙間を埋めるのに、ぴったりの映画だ。

舞台は古き良き時代のハリウッド。そしてニューヨーク。
映画
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パーソナル・ショッパー(2016年製作の映画)

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わたしはしばしば映画館へ行き、2時間ほど他人の人生を生きる。
自覚しているわけではないが、それはわたしの深層心理に眠る、変身願望の顕われなのかもしれない。
モウリーン(クリステン・スチュワート)は、セ
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台北ストーリー(1985年製作の映画)

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恋は都市が作る。
80sの台北。都市が急速に発展し、ひとびとの暮らしが、それに追いついていない。
着るユニフォームは立派でも、プレーは拙い、少年野球のよう。
若者はその未熟さに気づかず、異国への無垢な
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ノー・エスケープ 自由への国境(2015年製作の映画)

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ささやかなリーダーシップ、ということを考える。
それは先頭にたって、みなを引っ張っていくような、わかりやすいリーダーシップではない。
むしろ最後尾を進み、遅れそうなものがいれば自分もペースを落とし、へ
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惑星ソラリス(1972年製作の映画)

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首都高速の長いトンネルを抜けると宇宙ステーションであった。
長い長いドライヴに疲れて、廃墟のようなソラリス・ステーションを彷徨っているうちに、催眠術にかけられたように、ウトウトしてくる。
そこに”あれ
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ストーカー(1979年製作の映画)

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これは「ゾーン」へとむかう人びとを描いた物語なのか、はたまたこの映画自体が「ゾーン」なのか。観ているうちにわからなくなる。
案内人〈ストーカー〉に導かれて、映画を観ているわたしも、いっしょになって「ゾ
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恐怖分子(1986年製作の映画)

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分子をあつかう化学の世界に、「自己組織化」という、きみょうな現象がある。
小さな分子のかたまりに、ちょっとした刺激を与えると、それら分子が自然にそなえている凝集力がはたらいて、勝手に集まり、一個の巨大
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スウィート17モンスター(2016年製作の映画)

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17歳は人生のふち(Edge)だ。
この世に「世界」はひとつしかなくて、ネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)はそのへりでひっそりと生きている。
ひとに好かれる方法が彼女にはわからないし、好きなひ
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午後8時の訪問者(2016年製作の映画)

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医者にかぎらず、あらゆる「仕事」というものは、ひとのはなしを聞くことなのではないか、と思うことがある。
商品を売る、であるとか、サービスを提供する、といった行為は、あくまで副次的な口実にすぎず、その根
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キャロル(2015年製作の映画)

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恋愛はサスペンスにぴったりの題材だ。
ふたりが出会い、徐々に惹かれあっていくさまは、緊張感に満ちて、観るものをハラハラさせる。ふたりの関係性と、それを見守る第三者。この構図こそが、サスペンスなのだ。
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ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(2013年製作の映画)

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アメリカの真ん中はモノクロだ。
きらびやかな「色」があるのは、海岸沿いにある一部の大都市(それはぼくたちが想像する、夢の国アメリカでもある)だけで、この映画で描かれる中西部および南部には、長閑な風景以
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LION ライオン 25年目のただいま(2015年製作の映画)

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獅子(ライオン)は我が子を千尋の谷に突き落とす、というが、戻ってくるまでに25年とは、その谷底、深すぎるぜ。
タイトルの真の意味が明かされるエンディングが圧巻だ。実話らしく実際の映像と相まって(ニコマ
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汚れたミルク/あるセールスマンの告発(2014年製作の映画)

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この映画を作ろうとしている製作者の視点、というワンクッションをはさむことで、映画のなかと、われわれ観客とが、ひとつづきになる。
と同時に、告発者の証言は真実なのか、というメタ的なサスペンスまで生み出さ
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ジャッキー ファーストレディ 最後の使命(2016年製作の映画)

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記者のインタヴューにこたえる、というカタチで、映像の断片を繋いでいく。そんな入れ子構造になっているあたりが実に巧妙で、よくできている。
ジャッキーが語る「物語」を、わたしたちは観ている。この感覚が、な
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パッセンジャー(2016年製作の映画)

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ツッコミどころ満載の珍映画だったが、ヒロインであるオーロラの美しさが命綱となって、なんとか最後まで興味を保つことができた。彼女の、狂気に満ち満ちた葛藤が素晴らしい。
ジェニファー・ローレンスはやっぱり
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隠し砦の三悪人(1958年製作の映画)

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六郎太の強さとカッコよさ、又七と太平の慾深さと情けなさ。
人間の美しさ醜さ。これだから人生 (映画) は楽しい。
仲良く分けよ、喧嘩はならぬぞ!(笑

わたしは、ダニエル・ブレイク(2016年製作の映画)

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何でブレグジットが支持されたのか、この映画観てるとよくわかる。
移民問題は映画の直接的なテーマじゃないけど、移民がいま置かれてる状況って、映画で描かれる貧困層と似ていて、その似たもの同士が互いを排除し
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マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ(2015年製作の映画)

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ジョンのダメさ加減といい、そのダメなところがモテちゃう感じといい、マギーのこじらせ具合といい、すべてが絶妙で、いとおしい。軽妙かつコミカル。mess(散らかった)という語が、とっても印象的だった。

僕と世界の方程式(2014年製作の映画)

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真ん中あたりの何気ないシーンでも随所にじんわりきて、最後はアホみたいに泣いちまった。ていねいに並べたドミノを、ラストで一気に倒すような展開は、あたかも数学的帰納法のようで、見事というほかない。