イホウジンさんの映画レビュー・感想・評価 - 3ページ目

イホウジン

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スパイの妻(2020年製作の映画)

3.9

“恐怖”の対象としての戦前日本

第二次世界大戦をめぐる戦争映画に日本軍はほぼ確実に登場するが、それは常に、どんなに彼らの行いが残虐であろうとも、同じ「国民」として幾分かの同情の目を向けるものであった
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台北ストーリー(1985年製作の映画)

3.9

人の心の傷や喪失を癒す「万能薬」はあるか?

今作は80年代の台北の都市風景や社会情勢など同時代的な要素が主軸に添えられつつも、テーマ自体は極めて普遍的なものとなっている。それ故に今もなお愛され続けら
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ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)

3.9

生の苦しみに抵抗する「私のための芸術」

今作で主人公が常に立ち向かうことになるのは、「芸術は誰かのためのものである」という社会からの強要だ。それは序盤におけるナチスドイツに始まり、社会主義リアリズム
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82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)

3.9

(原作未読)
無意識の暴力と沈黙にどう立ち向かう?

今作が特殊なのは、被害者は明らかに主人公ただ一人なのに、加害者の存在が終始はっきりしない点だ。DVとか強姦を扱うような映画であれば明確な「悪」が映
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ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)

4.1

不幸もまた人生のスパイス

それなりの社会的地位がある人達が受け得るであろう不幸という不幸を、これでもかと詰め込んだ映画だ。登場人物達にはトラブルが常に降りかかり、残念ながらそれらが(劇的な)解決をす
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蜘蛛巣城(1957年製作の映画)

3.8

疑心暗鬼は人生の転落の始まり

「マクベス」を未鑑賞のためどこまでが原作のシナリオでどこまでが独自のそれなのかの区別はつかないが、比較的シンプルな物語の中に、人間のダメな部分が詰め込まれているような映
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TENET テネット(2020年製作の映画)

3.8

ノーラン版「ミッション:インポッシブル」

ノーラン監督のこれまで作品の中では、最も娯楽性を追求した映画になるのではないだろうか?過去作に見られる独特な人間の心理の表現や重苦しい展開は影を潜め、全編に
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ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)

1.9

所詮は“健常者”向けの感動ポルノ

安易に“感動”や“共感”を得ようとする日本の大衆文化の成れの果てのような映画だ。
正直色々酷すぎてどこから手を付けていいか分からないほどだが、一つ全体を通して言える
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メメント(2000年製作の映画)

3.9

「記憶」と「記録」の共犯関係

近年はすっかり大作ばかりを撮るようになったノーラン監督だが、今作では彼独自のスペックがその脚本に全振りされている。それ故に他の作品以上に難解かつカタルシスに欠ける映画に
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惡の華(2019年製作の映画)

4.0

生の虚無に抗い続けるための妥協

ポスターや予告からただひたすらに悪趣味なビジュアルが続く映画なのかなと想定していたが、蓋を開けてみると、起承転結が複雑に入り組んだ骨太なストーリーと個性の際立つ登場人
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キングスマン(2015年製作の映画)

3.8

「ブリカスvsアメ公」

スパイ映画の娯楽性を極限まで高めたような映画だ。振り返ってみると、「007」シリーズも「ミッション:インポッシブル」シリーズも、目玉は派手なアクションであるにも関わらず、表面
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サンライズ(1927年製作の映画)

4.5

欲望はカネで買えても、愛はカネで買えない

資本主義社会における恋愛の問題をテーマに据えたという意味で、今でも全く色褪せることのない映画である。
今作がおもしろいのは、「都会と田舎」という典型的な二項
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インターステラー(2014年製作の映画)

4.3

SFで人間賛歌は可能か?

今作は『2001年宇宙の旅』のオマージュであるという話が広く知られているが、それは後者へのリスペクトでありながらある種の抵抗であったようにも受け取れる。確かに、スペースモジ
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ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから(2020年製作の映画)

4.3

ゴールとしての恋愛ではなく、未来へ進むための恋愛

映画冒頭で明言される通り、この映画は決して恋愛映画ではない。恋愛が主体となる映画ではあるのだが、ストーリーの主軸はまた別のところにあり、それは「自分
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凶気の桜(2002年製作の映画)

3.3

世界は“思想”で変えられるか?

振り返ると、現代史は“思想”の敗北と“カネ”の勝利の歴史だ。例えば「アーリア人国家」「大東亜共栄圏」の思想うたった独日は、アメリカの圧倒的な資本の下で敗北を喫した。6
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はりぼて(2020年製作の映画)

-

事件の泥沼化がもたらす、ジャーナリストの疲弊と出来事の忘却

今作のエンディングは劇映画で言うところのバッドエンドだ。最後の最後まで不正を犯した張本人たちは権力の椅子に座り続けるし、にも関わらず世論の
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ラスト・ワルツ(1978年製作の映画)

-

現実の困難を覆い隠す夢

今作を観て連想したのは市川崑監督の「東京オリンピック」だ。両者共に単なる記録映画の域を軽く越えている。当然撮影の対象は実際にカメラの目の前で起こっている素晴らしいイベントなの
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裁かるゝジャンヌ(1928年製作の映画)

4.3

男社会の醜さ愚かさ

90年以上前の今作が不朽の名作たらしめているのは、なにも映像美に限った話ではない。同時に際立つのは、現代のフェミニズムにも通ずる男性性の暴力を顕在化させるストーリーだ。正直なとこ
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欲望の翼(1990年製作の映画)

3.8

欲望が行き着く先は虚無

今作の主人公はまるで欲望を擬人化したかのような存在だ。金を得たい欲や女を手に入れたい欲,自分の本当の親を知りたい欲,などなど、人間を強く見せるための欲望から自分の弱さをさらけ
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ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)

3.4

夢で現実が喪失するホラー映画

今作の主人公はまるで「インセプション」のディカプリオのようだ。夢と現実が交錯する世界に立ち入って己の中の内なる自分を見出して、最後は夢であれ現実であれ“最適な”世界に暮
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スポットライト 世紀のスクープ(2015年製作の映画)

3.9

真実に力をもたらすのは「ソトからの目」と「チームワーク」

まず最初に言及しなければならないのは、今作におけるカトリック教会の事件の酷さだ。自分たちの神への近さという優越を口実に無実の人間に辱めを強い
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インセプション(2010年製作の映画)

4.2

うーん…
「楽しかった!」以外の感想がまとまらない。
視覚的にはすごく面白い映画でストーリーの濃さも適切で満足なのだが、それ以上の深みにうまくハマれない。たぶんテーマが深いようで実はけっこう浅いものだ
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海辺の映画館―キネマの玉手箱(2019年製作の映画)

4.4

「映画は心のマコト」

劇映画であれドキュメンタリー映画であれ、映画(もとい文化芸術)は虚構でしかない。それゆえ現実に目の前で起こる出来事に対して映画は無力である。有用性が第一とされる資本主義社会にお
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日本沈没(1973年製作の映画)

3.0

もっとタフだった在りし日の日本の姿

今作が他の特撮系映画と一線を画すのは、日本が沈没するという一大事に対してそれを防ごうとする策を練るパートが一切ないということだ。どの登場人物も沈没という事態を割と
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炎628(1985年製作の映画)

4.5

(一部終盤に関するネタバレあり)
戦争映画は映像美を追求すればするほど地獄になる?

快楽と地獄は紙一重な存在ということだろうか。
今作を観て気付かされたのは、戦争映画でもっとも戦争自体の狂気を感じさ
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猿の惑星(1968年製作の映画)

3.7

(西洋)人は地球の永遠絶対の支配者なり得るか?

確かに今作のラストのインパクトは大きく、結果的には「人間の私利私欲が招く自滅の危機」という明確なメッセージを持つことになるが、実のところそれはストーリ
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秋刀魚の味(1962年製作の映画)

2.5

小津の晩年の境地は男社会と戦争への淡いノスタルジー?

「家に帰ったら高齢の父親がネトウヨ化してた」という話を昨今よく耳にするが、今作を観るとそれはとうの昔から始まっていたことなんだなと実感できる。
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ざくろの色(1971年製作の映画)

4.0

生の根源に内在する“美”

ヴィジュアル重視かつ観念的なセリフや演出の多い作品ではあるが、そういう映画にしては珍しくちゃんとストーリーが存在している。脚本を放棄しがち(否定してる訳ではない)なアートム
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夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)

3.6

「四畳半神話大系」のセルフオマージュ

監督,脚本,原作,一部の登場人物,一部の設定に至るまで、テレビアニメ「四畳半神話大系」と重複する要素がとても多い。ここまで世界観がかぶると、今作の舞台もまた四畳
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しあわせの隠れ場所(2009年製作の映画)

3.2

「風と共に去りぬ」からほとんど進歩しない黒人の描かれ方

まず一つ前提として置きたいのは、今作に起こった出来事や実際に起こった出来事に対して否定する気はないという事だ。純粋な家族愛やアメリカの持つ善の
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ミス・レプリゼンテーション: 女性差別とメディアの責任(2011年製作の映画)

-

メディアが生産してきた悪しきルッキズム。解決できるか否かは私たち消費者にかかっている。

男女が登場する映画を一度でも観たことがあるこのアプリの利用者なら、1度はこのドキュメンタリーを観るべきだ。今作
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ダークナイト(2008年製作の映画)

3.6

“未知”は人を盲目にする。この罠に監督自身も引っかかった?

「未知」という言葉には相対的なものと絶対的なもの、2つの意味があると考える。まず相対的な「未知」だ。これは「既知」の対極にあるものとしての
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パルプ・フィクション(1994年製作の映画)

4.5

“アメリカ”の濃縮還元

一般的に考えて、“名作”映画には一定の品が付随するものである。温厚な人であれアウトローな人であれ登場人物には何かしら観客に憧れを抱かせる要素をもってるし、その上に立つストーリ
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バットマン ビギンズ(2005年製作の映画)

3.8

ポスト9.11の超利己主義ヒーローここに誕生

今作のストーリー自体はヒーロー映画の第1作という意味でとても王道だ。主人公が「正義のヒーロー」になるために修行を積んで実際にヒーローになり、中盤で登場し
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許された子どもたち(2019年製作の映画)

3.3

歪んだ愛と暴力

今作が良かったのは、最初の日野編と全編に渡る母親の狂気だ(逆に他の部分については特筆するものがない)。
まず最初のパートである日野編について。軽快なテンポで事態が急速に悪化していく様
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千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)

4.1

“大人になる”とは“愛すべき存在が生まれる”ということ

今作が面白いのは、話が進むにつれて徐々に「両親を救う」目的意識が次第に薄れて「ハクを救う」方向にシフトしていくことだ。つまり、主人公が救おうと
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