耶馬英彦さんの映画レビュー・感想・評価 - 7ページ目

耶馬英彦

耶馬英彦

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TAR/ター(2022年製作の映画)

4.0

 音楽と饒舌に満ちた作品である。主人公リディア・ターは音楽至上主義でプライドが高いけれども、すべてを相対化して捉えたりもするし、世間的な価値観に流されたりもする。対人関係はおしなべて強気だが、親しい者>>続きを読む

MEMORY メモリー(2022年製作の映画)

4.0

 意外に面白かった。映画紹介サイトでは、痴呆症を発症した殺し屋が、かねてから断ってきた子供殺しを依頼してきた組織と対決するという話で、それだけなら殺し屋がピンチをくぐり抜けて大団円に至る展開しか浮かば>>続きを読む

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)

4.0

 シャンソン歌手の金子由香利のリサイタルに一度だけ行ったことがある。本作品に出てくる介護施設でみんなで合唱するのが、彼女の持ち歌である「サンジャンの私の恋人」だ。

 アコルディオンの流れに誘われいつ
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ブラフマーストラ(2022年製作の映画)

3.0

 タイトルは「ブラフマーストラ パート1:シヴァ」である。どうしてもバラモン教やヒンドゥー教の神話に依拠した壮大なファンタジーを期待してしまう。しかし本作品はあまりにもこじんまりとした作品であった。>>続きを読む

ジュリア(s)(2022年製作の映画)

4.0

 原題は「La tourbillon de la vie」(直訳「人生の渦巻き」)である。「tourbillon」は時計のメカニズムのひとつで、腕時計が縦横前後に動いても正確な時を刻み続けることができ>>続きを読む

ハマのドン(2023年製作の映画)

3.5

 俺は自民党員だと藤木幸夫は言う。戦前の日本はどんどんおかしくなっていった。俺は子供心にそう感じたことを憶えている。そして今、あの頃と同じようにおかしくなっている。そんな風に感じられてならない。91歳>>続きを読む

ウィ、シェフ!(2022年製作の映画)

4.0

 本作品は難民問題の映画である。難民といっても、ひとりひとり事情が異なるし、能力や適性も様々だ。フランス政府はそのあたりを踏まえて、単に国の負担になるだけの人間なのか、国のために役に立ってくれる人間な>>続きを読む

銀河鉄道の父(2023年製作の映画)

4.0

「お父さんのことを書いたのス」宮澤賢治のそんな本心が聞こえてくるようだ。役所広司の演じる政次郎が力強く諳んじる「雨ニモマケズ」には、モデルとされている人物もいるが、本作を見る限り、偉大な父のことを詠ん>>続きを読む

せかいのおきく(2023年製作の映画)

4.5

 素晴らしい。阪本順治監督は2020年の「一度も撃ってません」では、お人好しの登場人物たちの群像劇を上手に演出していて、本作品でも愛すべき市井の人々の喜怒哀楽を余すことなく表現している。人々が漏らす本>>続きを読む

セールス・ガールの考現学/セールス・ガール(2021年製作の映画)

3.0

 両親に言われた通り、社会の通念通りになんとなく生きてきた女の子が、大人のオモチャの店番をしながらオーナーのマダムと触れ合うことで少しだけ成長する話で、セックスショップという舞台を除けば、ありふれた物>>続きを読む

私、オルガ・ヘプナロヴァー(2016年製作の映画)

3.5

 ワクワクもハラハラもドキドキもなく、重苦しいシーンがモノクロで映される。楽しいシーンが皆無で、意味不明なシーンや辛いシーンの連続なのに、何故か見入ってしまう不思議な作品だ。それはかつて誰もが味わって>>続きを読む

不思議の国の数学者(2022年製作の映画)

4.0

 とても感動的な作品だった。韓国らしくヒエラルキーの上位者による暴力や威圧的な言動のシーンはあるが、総体的には自由な精神が息づいている。

 高校生の時にとても数学が得意なクラスメートがいて、E=mc
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劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室(2023年製作の映画)

4.0

 面白かったし、感動する場面もたくさんあった。ドラマシリーズも全部観たし、本作品の公開に先駆けて4月16日に放送された「隅田川ミッション」も観た。それでも飽きることはない。生きるか死ぬかの瀬戸際で冷静>>続きを読む

search/#サーチ2(2023年製作の映画)

4.0

 阿佐田哲也の麻雀小説の中で、ベテラン雀士がバイニンについて教える台詞がある。「不器用だな、下手だなと思わせる打ち手に注意しろ。そいつはバイニンだ」という台詞だ。牌の扱いが下手に見せたり、間違って捨て>>続きを読む

ヴィレッジ(2023年製作の映画)

4.0

 綾野剛と佐藤浩市がダブル主演した瀬々敬久監督の「楽園」に似た作品だ。同じように「ムラ社会」を扱っている。「楽園」が余所者が主人公だったのに対して、本作品はムラで生まれ育ったユウが主人公である。必然的>>続きを読む

午前4時にパリの夜は明ける(2022年製作の映画)

4.0

 パリでのシングルマザーの生活は不安で一杯だ。経済的な問題もある。しかし一方では子供たちが与えてくれる喜びや幸せがある。エリザベートはいい娘と息子を持った。フランス映画らしく、互いの人格を尊重して、パ>>続きを読む

べネシアフレニア(2021年製作の映画)

3.5

「中国の旅」や「殺される側の論理」などの著作で有名な、朝日新聞の編集委員だった本多勝一が「観光に来られる側の論理」という小文を発表したのを何処かで読んだ記憶がある。内容は忘れてしまったが、身勝手な観光>>続きを読む

世界の終わりから(2023年製作の映画)

4.0

 村上春樹の小説「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を思い出した。タイトルの一部が共通しているだけでなく、作品としての味わいに似たところがある。村上春樹はその一冊しか読んでいないので、村上春>>続きを読む

幻滅(2021年製作の映画)

4.0

 フランスの貴族の名前には、姓と名の間にde(ド)が入る。本作品のヒロインを演じたセシル・ド・フランスもそうだし、フランス大統領だったシャルル・ド・ゴールやヴァレリー・ジスカール・デスタンもそうだ。ジ>>続きを読む

サイド バイ サイド 隣にいる人(2023年製作の映画)

3.5

 失礼だが雰囲気だけの映画で、哲学や世界観に欠けている気がした。登場人物たちの葛藤が伝わってこないのだ。こういう世界があってもいいよねとでも言いたげな、御伽噺みたいな作品である。
 坂口健太郎の演技が
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パリタクシー(2022年製作の映画)

4.0

 老いて矍鑠としているパリジェンヌの物語である。家を出てタクシーで老人ホームに向かう道すがら、パリのそこかしこに立ち寄り、そこで起きた出来事を運転手に語るのだが、その波瀾万丈の人生に驚く。
 前日にイ
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聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)

4.0

 面白かった。リアリティがあり、緊迫感がある。歪んだ精神が集団に蔓延すると、腕力に乏しい女性にとって、恐ろしい社会になる。

 原題は英語で「Holy Spider」だ。内容からすると「Psycho
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ノートルダム 炎の大聖堂(2022年製作の映画)

4.0

 この3月に観た「エッフェル塔〜創造者の愛〜」の中で、エッフェル塔の高さについて、ノートルダム寺院より高いのはけしからんという意見があったことが紹介されていた。本作品の序盤で鳥瞰のシーンがあって、そこ>>続きを読む

ガール・ピクチャー(2022年製作の映画)

3.5

 原題の通り、ミンミとエマとロンコの三人の女の子の物語である。5歳から15年というエマのキャリアからすると、三人とも20歳くらいか。学校に通っている二人は18歳かもしれない。
 80年代アメリカの青春
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ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう/見上げた空に何が見える?(2021年製作の映画)

3.0

 おそらくジョージア国民が鑑賞したら面白い作品なのかもしれない。多分流れる時間が日本人と違うのだ。ずっと間延びした描写が延々と続くので、かなり飽きる。オルガンのBGMで長々とドアを映すシーンに何の意味>>続きを読む

仕掛人・藤枝梅安2(2023年製作の映画)

4.0

 2月に先立って公開された第一作に続いて、期待通りの面白さだった。
 本作品は時代劇としては斬新でスタイリッシュだ。出会いも別れもあっさりしたもので、とてもリアルである。そこには他人に何も求めない諦観
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ノック 終末の訪問者(2023年製作の映画)

3.0

 新約聖書の「ヨハネ黙示録」の第七章から第九章を要約してみると、第七章には、地と海を損なう権威を授かった四人の御使いが世界の四隅に立っていると書かれている。第八章には、子羊が第七の封印を解くと、七つの>>続きを読む

オオカミ狩り(2022年製作の映画)

4.0

 面白かった。登場人物の殆どは悪人で、盲目的な役人や、職務にテキトーな刑事たちが間を埋めている。昭和の日本映画みたいな権威主義やパターナリズムが見受けられるのは、暴力に直結する精神性だからだろう。ゴア>>続きを読む

エスター ファースト・キル(2022年製作の映画)

4.0

 念のため動画配信サービスで2009年の第一作(原題「Orphan」=「孤児」)を観てから鑑賞した。当時12歳だったイザベル・ファーマンが主人公のエスターを演じたのは特に違和感なく観ることが出来たが、>>続きを読む

トリとロキタ(2022年製作の映画)

4.0

 変な言い方だが、人間は物心ついたときには、すでに生まれている。自意識が目覚めて自分の生を認識したときには、否応なしに自分には生命があって、現実に存在しているということを思い知るのだ。そして他の動物が>>続きを読む

映画 ネメシス 黄金螺旋の謎(2023年製作の映画)

4.0

 面白かった。テレビドラマはあまり人気がなかったようだが、当方は興味深く鑑賞していた。本作品はテレビドラマと同様に、遺伝子操作やマインドコントロールマシンなど、現代のテクノロジーに対して疑問符を投げか>>続きを読む

生きる LIVING(2022年製作の映画)

3.5

 ミュージカルの「生きる」を2度観劇した。主演は鹿賀丈史と市村正親のダブルキャストだ。一度目は2018年10月に鹿賀丈史が主人公渡辺勘治を演じた回、二度目はその2年後の2020年10月に市村正親が渡辺>>続きを読む

丘の上の本屋さん(2021年製作の映画)

4.0

「読書百遍意自ずから通ず」という諺がある。そのままの意味だから解説不要だ。当方も難解な本は何度も読んだ。聖書などの検索をしたい本は、自分でPCのドキュメントに入力してある。自分で打ち込むと言葉のひとつ>>続きを読む

BLUE GIANT(2023年製作の映画)

4.5

 聴覚や嗅覚や味覚は直接本能に響いてくる。大きな音や耳障りな音、嫌な臭いなどは、生存の危機に直結する恐れがあるのだ。そんな音や臭いや味に触れると、逃げたり鼻や口を覆ったり、または食べ物を食べなかったり>>続きを読む

ロストケア(2023年製作の映画)

4.5

 介護の現場は時として悲惨である。本作品より前に、介護の現実を扱った邦画をいくつか鑑賞した。昨年(2022年)12月に公開された「光復」や2017年5月に公開された映画「八重子のハミング」などである。>>続きを読む

ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー(2023年製作の映画)

3.5

 前作の「ベイビーわるきゅーれ」が出来がよすぎたのだろうか。どこか哲学的だったふたりの会話は情緒的になってしまい、凡俗化してしまった。前作では女子高生の殺し屋という設定自体から生まれるギャップで自然に>>続きを読む