踊る猫さんの映画レビュー・感想・評価 - 7ページ目

踊る猫

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グリーンブック(2018年製作の映画)

4.2

知性とはなにかについて考えさせられた。無学だがハッタリ/ブラフを噛まして巧妙に下層社会を渡り歩くイタリア系アメリカ人の白人トニーは、幼い頃からクラシックを学んだ音楽的にも知的にもエリートなアフロ・アメ>>続きを読む

ダーク・プレイス(2015年製作の映画)

4.2

ギリアン・フリンによる原作は未読。イヤミスとして観る、というのもひとつの鑑賞の作法ではあるだろう。だが、そうするとこの映画がサスペンスのスリルで人を釣っていかないことに物足りなさを覚えるのではないか。>>続きを読む

サラの鍵(2010年製作の映画)

4.5

この映画はなにを書きたかったのだろう。サラの身に起きた悲劇だろうか。もちろん、それだけでも興味深い達成を示していると思われる。だが、それ以上に「今を生きる」人々の再生を描きたかったということではないか>>続きを読む

東風(1969年製作の映画)

4.0

そんなに(ゴダールの作品としては、という但し書きがつくが)面白くない。というのは、この映画はモノローグ的に進むからだ。他の作品(名作『気狂いピエロ』『勝手にしやがれ』など)が、男と女のロマンスを骨組み>>続きを読む

ロング・グッドバイ(1973年製作の映画)

4.2

ロバート・アルトマン作品は慣れていないのだが、基本的には人間讃歌の真裏を行く人なのではないかと思う。人間の醜さを、ユーモア抜きで描くという。しかし露悪的ではなく抑制の効いた筆致で。この作品も色気はなく>>続きを読む

ローリング・サンダー・レヴュー マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説(2019年製作の映画)

3.8

ボブ・ディランはもちろんそれなりに聴き込んできたのだけれど、このドキュメンタリーを観て誤解していたのかもしれない、と己の浅学を恥じさせられた。みうらじゅんの似顔絵の印象で、マイルドにブルースハープを吹>>続きを読む

ドント・ウォーリー(2018年製作の映画)

4.5

ガス・ヴァン・サントが描いた美談が、ここまで心に響くとは……と改めて(今に始まったことではないが)自分の不明を恥じさせられた。ひとりの男の復活/人間成長を描いた本作は、実話ベースであるというところが驚>>続きを読む

500ページの夢の束(2017年製作の映画)

4.6

小粒な映画だな、と思った。それでいてピリッとしている。ウェルメイド……と言い換えても良いかもしれない。自閉症/発達障害を扱う映画を一当事者として――狙ってではないにせよ――鑑賞して来た身の上なのだけれ>>続きを読む

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)

3.5

点は低くなってしまうが、駄作・愚作だとは思わない。この映画は日本で観る場合、一種の「アウェイ」になるのではないか。バーティ/ジョージが英国王として立ち向かわなければならなかったプレッシャーが、一体どう>>続きを読む

ルート・アイリッシュ(2010年製作の映画)

4.3

改めてケン・ローチの凄味を思い知った。どの作品でもケン・ローチは、それまでの己自身のアプローチとは異なる方法を試しているようでいて、それはケン・ローチとしては珍しい「コンゲーム」を扱った、二転三転する>>続きを読む

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)

4.2

個人的な繰り言を書かせてもらうと、私自身アルコール依存症で断酒会通いを続けている身なので、この映画をフェアな視点から観られそうにない。何度となくドラッグに手を染めてしまう息子と、それを受け容れようとし>>続きを読む

マイ・プレシャス・リスト(2016年製作の映画)

3.9

私はJ・D・サリンジャーの小説を理解出来ない。登場人物たちの奇矯さ、理屈っぽくタカビーな態度を本能的に受け容れられないのだ。この映画もサリンジャーの小説と似たようなものを感じた。『フラニーとゾーイー』>>続きを読む

ボブという名の猫 幸せのハイタッチ(2016年製作の映画)

4.5

イヤミに聞こえるのを承知で書くが、「嫌いになれない映画」だなと思った。好きになったとか愛したとか、そんな映画ではない。なるほどアラはある。この話は実話ベースだが、著者が体験したであろう家族との決別、ミ>>続きを読む

やさしくキスをして(2004年製作の映画)

4.5

信頼出来る相棒/脚本家ポール・ラヴァーティと撮ったこの映画は実にタフ。宗教と家族の絆、そしてそれを超える恋愛について綴られたものなのだけれど、贅肉は何処にもなくこちらを釣っていく。なるほどラストはやや>>続きを読む

男性・女性(1966年製作の映画)

4.1

こちらの期待値が高過ぎたのか、前のめりになって観ることが出来なかった。時代を反映した、つまり古臭いはずの(「コカ・コーラ」「ペプシ」という言葉が象徴的だ)作品なのに、それが退屈に感じられないのは流石ゴ>>続きを読む

グッバイ・ゴダール!(2017年製作の映画)

3.7

評価が難しい映画だ。ゴダールを知らないと分からない面白さがある。それはジャンプカットや、画面に現れる文字列、長回し、カラフルな色使いのセンスの良さ、書物のタイトルの引用の多用、カメラ目線での台詞の語り>>続きを読む

天国の日々(1978年製作の映画)

3.4

若き日のテレンス・マリックの秀作。流石に後の/近年の映像美を期待すると肩透かしを食らうだろう。いや、秀逸な映像もないでもない。イナゴに襲われた麦畑を焼き払う場面の炎の美しさは素晴らしい。あるいは、この>>続きを読む

シン・レッド・ライン(1998年製作の映画)

3.5

大岡昇平『野火』を連想した。戦場という奇妙に空虚な場所/異常な極限状態で展開されるヒューマン・ドラマを、各兵士の心理に寄り添い丁寧に描いている。だが、テレンス・マリックの興味はそういうヒューマン・ドラ>>続きを読む

ウイークエンド(1967年製作の映画)

4.9

奇怪な作品だ。エロティックであり、実験的であり、エンターテイメントであり、思弁的であり、映画で出来ることは殆ど(と言って言い過ぎなら、少なくとも「当時」出来ることは)詰まっている、という感じ。渋滞の長>>続きを読む

エタニティ 永遠の花たちへ(2016年製作の映画)

4.0

映像はなるほど美しい。スタンリー・キューブリックやデヴィッド・フィンチャーに比肩するほど、であると言える(テレンス・マリックにまで届くかな、とさえ言える)。だが、中身がすっからかんな印象を受けたのも確>>続きを読む

女は女である(1961年製作の映画)

4.9

実にチャーミングな映画だ。ジャン=リュック・ゴダールの映画だからといって構えて観る必要はないだろう。ただただ、ジャン=クロード・ブリアリとアンナ・カリーナの戯れに見惚れてしまい90分ほどの時間が過ぎて>>続きを読む

ラストデイズ(2005年製作の映画)

4.1

どうだろう、この作為のなさ。フラットにミュージシャンの悲劇を描いており、それは宮台真司言うところの「終わりなき日常」に、結局のところは自殺という悲劇もなにもかも呑み込まれてしまうという端的な事実を告げ>>続きを読む

女と男のいる舗道(1962年製作の映画)

4.3

ストーリーが心を動かすわけではない。また、これと言ってデーハーなショットで魅せるわけでもない。地味な作品……なのだけれど、アンナ・カリーナが煙草を持っているだけでサマになるのは流石としか言いようがない>>続きを読む

ネルーダ 大いなる愛の逃亡者(2016年製作の映画)

4.1

逃走劇/追跡劇なのだけれど、ネルーダとペルショノー、追われる者と追う者は直接言葉を交わし合うことは殆どと言って良いほどない。いわば、彼らの言葉はモノローグ的に語られるだけで、それはポリフォニーを形成し>>続きを読む

ナチュラルウーマン(2017年製作の映画)

4.3

心の性と身体の性が異なる、ということはアイデンティティにおいて重大な矛盾を抱えるということを意味する。その生きづらさは相当なものがあるだろう。愛する者の死に直面し、葬儀に出たいと思いつつも変態呼ばわり>>続きを読む

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版(1991年製作の映画)

4.8

実に重い余韻を残す映画だ。とはいえ、シリアス一辺倒ではなくところどころ笑いを取ったり、意表を突く展開が待ち受けていたりしてこちらを飽きさせないのはエドワード・ヤン監督の底力故なのか。例えば襲撃の事件を>>続きを読む

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)

4.5

ジョン・アーヴィングの小説を連想した、と書くといつもながら頓珍漢に過ぎるだろうか。誰に感情移入して観させるでもなく、一家族の姿を淡々と映し出す。ショットが玄人好みに凝っており、その意味では観衆を選ぶ映>>続きを読む

タクシードライバー(1976年製作の映画)

4.3

この映画を間違っても、「娼婦にまで落ちぶれたアイリスをタクシードライバーのトラヴィスが救う話」と受け取ってはならない。トラヴィスはそんなヒーローではない。むしろ逆だ。アイリスは娼婦として心優しきスポー>>続きを読む

勝手にしやがれ(1960年製作の映画)

4.1

クール/ヒップなもの、洗練されたセンスの塊といった感じ。映画を「気狂い」みたいに観まくった監督が撮った作品なので、当然こちら側もそれなりのセンスを要求される。ゴダールの難しさとはそういうハードルの高さ>>続きを読む

気狂いピエロ(1965年製作の映画)

4.4

映画初心者の頃にこの作品を観て、見事に玉砕した思い出がある。今思うとストーリーテリングにばかり拘泥していたので、映像の旨味を見落としてしまっていたのだ。映画をある程度観た今ならこの映画の真価が分かるよ>>続きを読む

サクリファイス(1986年製作の映画)

4.1

饒舌過ぎるほどの説明口調の台詞回し、そしてロングショットと長回し。その凝りようにやや辟易してしまったのだけれど、ともあれタルコフスキーが最後にたどり着いたのがこの境地だったのかと思うと胸熱なものを感じ>>続きを読む

インヒアレント・ヴァイス(2014年製作の映画)

3.7

あまり前のめりになって観ることが出来なかった。ストーリーテリングにおいて(原作は未読なのだけれど)難解な素材を上手に整理しているとはいえ限界を感じてしまう。だが、この映画を例えばフィリップ・K・ディッ>>続きを読む

殺人の追憶(2003年製作の映画)

3.6

さしずめ韓国版『ゾディアック』といったところか。観ながら、この映画をどう捉えて良いのか分かりかねた。刑事たちが子どもたちにコケにされたり、難事件を解き明かそうと必死になり過ぎてオカルトに走ったりすると>>続きを読む

アンダー・ザ・シルバーレイク(2018年製作の映画)

4.6

もしかすると、自分はとんでもない才能の開花を目撃してしまったのかもしれない……と感じさせる映画だ。それは言われるようなデヴィッド・リンチ的というのでもなく、その他どんな固有名詞を引き合いに出して分析し>>続きを読む

複製された男(2013年製作の映画)

4.0

流石はドゥニ・ヴィルヌーヴ。サスペンスでこちらをじわじわと蜘蛛のように釣って行く。だが、彼の資質はあくまで長編にあるみたいで、小品というにはやや長いこの作品では伏線をバラ撒くことに終始しており、ジェイ>>続きを読む

NO(2012年製作の映画)

4.2

最初の内は「下手だなあ」と思ってしまった。シロウトの芝居じゃないか……と。しかし、有無を言わせない力を感じたのもまた確かだった。このタッチはケン・ローチの映画に似ているかな、と。次第に無骨な(褒めてま>>続きを読む