秋日和さんの映画レビュー・感想・評価 - 2ページ目

秋日和

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寝ても覚めても(2018年製作の映画)

4.0

バイクから放り出された、地面に横たわる二人。そして、長い長い運転を終えた東出昌大が、帰宅したとたんにリビングの床に横たわる。唐田えりかは、その上から身体を重ねるように横たわる。猫みたいに。
この映画で
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正しい日 間違えた日(2015年製作の映画)

4.0

もしも自分が単なる「絵を描く人」だったとして、突然見知らぬ男に声をかけられたらどうだろうか。その男がどうやら名前だけ聞いたことのある有名な映画監督だったらどうだろうか。握手のために手を差し出されたらど>>続きを読む

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)

4.5

ある女性に翻弄された中年男がやがてその身を滅ぼしてゆく、というノワール的な映画が好きで、更には屋敷の内側から外部の人間の手によってじわじわと支配されていく映画も好きなのだから、やっぱり『ファントム・ス>>続きを読む

万引き家族(2018年製作の映画)

3.5

名前を二つ持っている人たちが鏡の前で自問自答する。そんな映画がこの世に一体何本あるというのだろうか。バスの窓ガラスに映るリリー・フランキーに至るまで、なんて古典的なことをやってのけているのかと思ってし>>続きを読む

それから(2017年製作の映画)

4.0

沈黙に弱い人間というのが世の中には沢山いて、ホン・サンスはそういう人がどんな行為をするかだなんて当然のことながら分かっている。
妻に真正面から浮気を問われたとき、男の口から言葉はでない。最初の一言二言
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身をかわして(2003年製作の映画)

4.0

女の子に告白をしたらすぐにでも返事が欲しいのは分かるけど、「返事は家に帰って電話でするわ」と答える彼女に「いま返事くれよ。電話代が……」だなんて口を滑らすのは絶対に駄目。幼馴染みのあの子と二人っきりで>>続きを読む

泳ぎすぎた夜(2017年製作の映画)

3.5

もしも自分が6歳の男の子だったなら、たとえ夜中にポテトチップスが食べたくなったとしても、あんな風に一階まで降りていく勇気はなかったと思う。仮に自分がその作戦を実行したとしても、棚の高い場所にしまってあ>>続きを読む

愛されちゃって、マフィア(1988年製作の映画)

4.5

「ピカピカ」のカッコいい自分になりたいのなら、喩えキッチンに浴槽のあるヘンテコな部屋に住むハメになったとしても、職場の覗き魔上司に目掛けてミルクシェークをぶっかけるくらいの気持ちで生きていかなくちゃい>>続きを読む

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)

4.5

少し汚い言葉を吐いただけで、すぐに校長室へ行かなければいけない三人の悪ガキたち。「Nice to meet you,ass hole.」なんて素敵な挨拶は、頭のお堅い奴らの耳には届かない。その部屋の扉>>続きを読む

三月生れ(1958年製作の映画)

4.5

「一生物よ」という言葉と共に渡されたネグリジェはいつしかパジャマへと変わり、ダブルベッドは二つのシングルベッドとして間を引き裂かれる。あの頃と今は違う。けれど、25年分の喧嘩をたった数週間で果たしてし>>続きを読む

ナタリー・グランジェ(女の館)(1972年製作の映画)

3.5

ジャンヌ・モローの吸う煙草の灰がじりじりと伸びていく様は、ジェラール・ドパルデューがどれ程の時間をその場所で過ごしたのかを気づかせてくれる、時計のようなものだった。
ナタリーと名付けられた少女が乳母車
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勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)

4.0

自分の持っている思い出と自分の好きな人の思い出を近づけて、それがもしも割符みたいにピッタリくっついたら嬉しいだろう。好きな人に名前を忘れられていたら悲しいだろう(けれど名前を忘れてしまっているのはブー>>続きを読む

ジャングルの掟(2016年製作の映画)

4.0

ヘリコプターが巨大な像を運んでくるだなんて、なんて挑戦的な監督なの?と思わずにはいられない。だから、不味そうな機内食を後ろの座席にポイッと放り投げるシーンで思わず笑ってしまっても、決して油断なんてでき>>続きを読む

血煙高田の馬場(1937年製作の映画)

4.0

ラストへと向かって駆け抜けていく韋駄天走りも、舞うように斬っていく様も、もっとずっと眺めていたい気持ちになる。マキノが引き連れてくる群衆に毎回わくわくさせられるのは(群衆を撮る、という想いが先にあるか>>続きを読む

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)

3.5

一人ぼっちの映画なのだから、一人ぼっちでいるところだけを映せば良いというわけでは勿論ない。誰がどこにいて、どんな状況にいるのかを濃やかに切り取ってきたホン・サンスは、「一人ぼっちの捉え方」を誰よりも知>>続きを読む

パターソン(2016年製作の映画)

4.5

レインコートを着ながら、ひたすらシャワーを浴びる時間。
喩え毎日が同じことの繰り返しだと思えたとしても、決して同じではないんだぜと、ジャームッシュが囁いているかのようだった。それは丁度、外見上では同じ
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飛行士の妻(1980年製作の映画)

4.5

彼女が金魚鉢に餌を落とすと、鉢の中に雪が降る。彼がスノードームを手に取ると、ドームの中に雪が降る。同じ時間に同じ場所で、けれど別のカットで行われる二つの降雪。なんでもない手持ち無沙汰の時間だって、ロメ>>続きを読む

僕は戦争花嫁(1949年製作の映画)

5.0

新婚夫婦がいつまでたっても同じベッドで寝ることを許されない、いつだって何らかの邪魔が入る……映画のラストでは達成されるに決まってるその目的。寧ろ、引き延ばされれば引き延ばされるほど、後に味わう幸福が大>>続きを読む

この世界の片隅に(2016年製作の映画)

3.5

風呂敷に包まれた荷物を壁に押し付けて固定し、身体の前に垂れ下がった布をきゅっと縛って、主人公・すずはそれを背負う……映画の冒頭に用意されたこの何気ないシーンは、別に何かの伏線になっているわけではない。>>続きを読む

皆さま、ごきげんよう(2015年製作の映画)

4.0

生きていれば必ず、名前も知らない誰かが自分の視界にフレームインして、そして直ぐ様フレームアウトする(ときにはローラースケートを履いていたりする)……と、まとめてしまえば綺麗に収まる気がする。けれど実際>>続きを読む

女咲かせます(1987年製作の映画)

4.5

家の中で舞う吹雪もあれば、木の下で舞う吹雪もある。家の中で咲く花火もあれば、海岸沿いに咲く花火もある。どんなに馬鹿げた無茶でも、この人なら大丈夫なんだと思わせてくれる強さが、森崎にはあるような気がする>>続きを読む

街の天使(1928年製作の映画)

5.0

とっておきのドラムは破れる為にあるし、破れたドラムはジャネット・ゲイナーを隠す為にある。帽子を斜めに被るのか被らないのかは人それぞれで、はたまた肩に羽織らせたストールを敢えてはだけさせるのかどうかも個>>続きを読む

ブルーに生まれついて(2015年製作の映画)

3.5

イーサン・ホークが自身の顔に触れるとき、彼はこっそりと一つの告白をしている。映画の中腹で呟かれる女の台詞によって暴かれる彼の無言の告白が、後に訪れるとあるショットと哀しい関係を結んだとき、決して幸福と>>続きを読む

雪 Neige(1981年製作の映画)

4.0

原色の街の夜の人々。ジュリエット・ベルトは世界を大雑把に昼と夜の二つに分け、昼の世界に少しだけ暗闇を注ぎ込ませている。
ストリップ小屋に映画館。時間を問わず闇に覆われ、見世物にのみ灯りを向けているあの
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メーヌ・オセアン(1985年製作の映画)

4.5

服装が持ち主の職業を本人に無断で告げてしまうのは、よくあることだと思う。例えば列車の乗務員、例えば弁護士、例えば漁師。それぞれが服と共に職業を纏い、自らに与えられた職務を全うする。中には服を脱ぐことで>>続きを読む

あなた自身とあなたのこと(2016年製作の映画)

4.5

麺を口元に運んだところで箸を置き、両手をぶらつかせた状態でずるずる音を立ててすすり出す。脚を負傷した男が夜に一人でそんなことをしていたら、誰だって「寂しそうだ」と思ってしまうに違いない。後ろを振り向い>>続きを読む

ポルノグラフ(2001年製作の映画)

4.0

余計なものが足され、大切なものは引かれていく。ポルノ映画監督であるジャン=ピエール・レオーが望んでいるのはゼロの状態なのに、彼の周りがそれを許さない。「部屋の埃は拭えず、叩くと増える」し、誰かに会うと>>続きを読む

スーサイド・スクワッド(2016年製作の映画)

3.5

悲しいときには雨が降ってもいいと思うし、何かの決意と共に思い出をむしり取って投げ捨ててもいいのだとも思う。何故って、それはたぶん映画だからだ。
周囲から一目置かれているらしい狙撃主の撮り方が、特に工夫
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幸運の星(1929年製作の映画)

5.0

チャールズ・ファレルからジャネット・ゲイナーへプレゼントされたレコードが暗闇の中できらりと光った瞬間、画面上に星が現れた、と思った 。二つの意味に於いて汚れた手をサッと隠す彼女。その悪いクセさえをも洗>>続きを読む

鶴八鶴次郎(1938年製作の映画)

4.5

「しかしなんだね、ああして並べておくと危ないね……」。映画の序盤に呟かれるこの台詞を聞いて、ハッとせずにはいられなかった。もしかしたら、その台詞の更に前、長谷川一夫と山田五十鈴が列車の中で「並んで」座>>続きを読む

ジョナスは2000年に25才になる(1976年製作の映画)

3.5

ある教師が言うには、真っ直ぐに進んでいくのが「時間」で、肉を閉じ込めながら曲がっていくのが「腸詰め」らしい。題名からもはっきりと分かる通り、この映画は終始「時間」について語っているのだけど、その、確信>>続きを読む

青髭(1944年製作の映画)

3.5

オフィーリアのように、横たわった美しい女性が川を流れていく。死体と人形。その、あまりにもありきたりな二つの要素を何の躊躇いもなく描いていくのだろうと、映画の序盤では根拠もなく思わされる。何故なら男と女>>続きを読む

スリの聖ベニー(1951年製作の映画)

4.0

「装いを変えれば奇跡が起こるかも」

映画の序盤でこんな台詞が囁かれてしまった日は大変だ……劇中の人物が「装いを変える」瞬間を絶対に見逃せなくなってしまうじゃないか。ウルマーの言うことに逆らえないのは
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ヤング・アダルト・ニューヨーク(2014年製作の映画)

3.5

グラスの中に入ってる液体がウィスキーかジュースかなんて、そんなことどうだっていいのにね。それなのにこの映画に出てくる人たちは、どうしてか、矢鱈と物事を二つに分けたがる。映画に於ける嘘と本当。何かを作ろ>>続きを読む

たぶん悪魔が(1977年製作の映画)

4.0

ブレッソンの映画は、体温が低いから好きだ。譬え男女が木の下で、或いは路上で抱き合っていたとしても、譬え女の瞳から涙が零れ落ちていたとしても、男の肩に手を置いたとしても、その圧倒的な低さは決して変わらな>>続きを読む

白い夏(1957年製作の映画)

4.5

例えば、バスの中でお土産を落としてしまうこと。泳ぎに夢中で海に帽子を落としてしまうこと。或いは、達磨を階段から転げ落としてしまうこと。何かが落ちる度に観る者をドキリとさせるこの映画は、最早「落下の映画>>続きを読む