海さんの映画レビュー・感想・評価 - 2ページ目

台風クラブ(1985年製作の映画)

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この唇から、ただなんとなく出てくる言いなれた言葉が、あのときは涙みたいだと思った。何もかもわかったような顔して話すことに、「そうだよね」って言うときあなたの友だちでいたくて、「そんなはずない」って言う>>続きを読む

慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ(2014年製作の映画)

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酔いが回った帰り道のおぼつかない足取りのように、音や温度だけを頼りに残っている記憶のように、わたしが知っているわたし自身のことやあなたのことは、あまりにあいまいで、ある日突然にすべての意味を失ってしま>>続きを読む

東京上空いらっしゃいませ(1990年製作の映画)

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わたしのしたいことからはじめはなくなって、次にあなたにしてほしいことがなくなるんだろう。わたしはあなたの手をひらいて言う。あるべき姿なんて放して、辞めたくなったら仕事を辞めて、くだらない冗談で一晩中わ>>続きを読む

愛しきソナ(2009年製作の映画)

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はじめての深い悲しみは、家族のもとで起きたはずなのだから、さいごの深い悲しみも、家族のもとで起きるのかもしれないとおもう。けれどどんな苦痛も、わたしがあなたを愛しているからうまれるのだということを、忘>>続きを読む

トラスト・ミー(1990年製作の映画)

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生きてきたあなたの時間のすべてを知って愛してあげられたとき、わたしはもう二度と泣かなくていいくらいつよくあたたかいわたしになっているとおもうの。ねむるまえ、話せることと話せないことのさかいめを何度もあ>>続きを読む

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)

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恋は人知れない夢のようで、愛は退屈なほどおだやかで、壮大な絶望はそれ自体がはげしく瞬いて、そして清らかで、誠実だ。いつもこの心の藪の奥にかくれて世界をみているつもりだったから、わすれものをすることも、>>続きを読む

スターフィッシュ(2018年製作の映画)

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数日まえ、夢をみて目がさめた。わたしは泣いていて、だけど悲しかったわけじゃなくて、安心していた。夢の中で、だれかと二人きりで、そのひとのかおすら見なかったけれど、ただわたしは顔さえ知らないそのひとのす>>続きを読む

お引越し(1993年製作の映画)

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 だれといても孤独であるようにと絡繰られて生まれてきたわたしたちにとって、映画は魔法だ。映画はイメージであり、詩であり、小説であり、音楽であり、ダンスであり、物語であるけれど、映画はイメージでなく、詩>>続きを読む

ノー・ホーム・ムーヴィー(2015年製作の映画)

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完成した家族がこの世のどこかにたったひとつでもあるだろうかと思う。美しいだけの親子が、幸せなだけの展望が、嘘ひとつない過去が、暮らしを覆い隠してきた家の中にはたして存在し得るだろうかと思う。暗い空のも>>続きを読む

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)

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夏休みももうすぐ終わる頃だった。わたしと、ママと妹と、そのひとの4人で、夕方、幹線道路沿いにあるファミレスに入った。彼はわたしの父親じゃない。ママの恋人だった。覚えているかぎりでは、わたしが彼に会った>>続きを読む

永遠が通り過ぎていく(2022年製作の映画)

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わたしは狂っているから、夜になったらこの肌に日焼け止めを刷き、空をあおいで狭すぎると泣き、冬がくると下着一枚になり、海まで出たのち「飛んでゆきます!」とさけぶ。何百年も読むものには困らないくらいのたく>>続きを読む

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)

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伸ばした首、曲げた膝、息を吸うたび膨らむ胸、あなたの持つ心がどんなかたちをしているのか知りたくてただみえている体をみつめている。あなたのからだが彼と彼女を通り過ぎ、わたしのところまでその温度を波打たせ>>続きを読む

《ジャンヌ・ディエルマン》をめぐって(1975年製作の映画)

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20代の監督に何度も質問や意見を繰り返す40代の役者。シャンタル・アケルマンとデルフィーヌ・セイリグのその姿を見ていた。ジャンヌという女性をひたすら追い続けるあの静かな作品の裏で、ここまでの対話や受け>>続きを読む

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)

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生きるわたしたちの手はよごれ続けること、わたしただひとりの存在に何の価値も意味もないこと、苦痛と闘っていくことはやさしくないこと、あいするということはやさしいだけではいられなくなっていくということ、悲>>続きを読む

たまねこ、たまびと(2022年製作の映画)

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小西修さんが、長い救済活動を通して世界は少しでも変わったかと聞かれたとき、変わっていないと言い、終わらないと言い、自分が死んだあとも続くんだと言い、そのかおや背景の河川敷の姿を見ながら、この90分で映>>続きを読む

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)

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広島の映画館に本作を観に行った6年前の今頃のことをよく覚えていて、あの頃まだ自分が10代だったことに驚く。映画を観たあと乗り込んだエレベーターの中で、この作品に圧倒され何も言えなかったにも関わらず、何>>続きを読む

セイント・フランシス(2019年製作の映画)

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わたしが傷だらけであることが、わたしが疲れ切っていることが、わたしがもう後戻りなんてできないことが、今までずっと何でもないことで、これからもずっと何でもないことでありつづけるみたいに、照らし出される日>>続きを読む

アフター・ヤン(2021年製作の映画)

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スーパーマーケットの出入り口へ向かっていると、西陽がまっしろで、なにもみえないくらい眩しくて、するとチリンチリンチリンと鈴の音がきこえて、それが不思議すぎて、わたしだけにきこえる音みたいで、何の音だろ>>続きを読む

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)

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わたしが今死んだら、猫はどう思うだろうかと考えたことがある。調べてみると、猫の中には死という概念がなくて、たとえば飼い主が、ある日突然死んでしまったら、ただ、「帰ってこないな」と不思議に思うらしい。そ>>続きを読む

CURE キュア(1997年製作の映画)

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黒沢清の映画からきこえてくる「たすけて」は「わたしをたすけて」じゃなく「わたしの感じているような暗やみそれ自体をたすけて」だから、そこにある、孤独と悲しみには終わりがないんだ。電球の切れた物置の片隅や>>続きを読む

メッセージ(2016年製作の映画)

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あなたは、真夜中、窓を打つ雨の音に眠りから呼び起こされ、伸びをした指先にふれた窓枠の冷たさに今が冬であることを思い出す。顔を出せるくらいまで、音を立てないようにそっと窓を開けて、吹き込んでくる風が、あ>>続きを読む

アイ・アム・レジェンド(2007年製作の映画)

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この一匹の犬と、その一人の飼い主が、居なくなったあとの世界に関心を持てず世界が救われたとか伝説になったとかどうだっていいよといつも思ってしまう自分が少し怖い。文明の末路を描いた、いわゆるポスト・アポカ>>続きを読む

ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)

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あなたをさらっていった幾重もの眠気の波が、わたしの耳もとに這いより、瞼や頬をすべり落ち、あたまの奥にまで、やがて届きはじめる。風と風とがもつれあい、窓を外側から叩くけれど、その間隔もすこしずつ意味をう>>続きを読む

Exit The Matrix(2021年製作の映画)

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数年前の、ある夏の雨降りの朝、閉まったカーテンの向こうから聞こえる雨音を聞きつけ、見えない雨を見つめていた猫の姿を思い出す。この子は、このいきものは、なんてうつくしいんだと、心の底から思い、泣き出した>>続きを読む

トガニ 幼き瞳の告発(2011年製作の映画)

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この子たちはいつか、かならず、誰かの手により「大切な子」とその頭を撫でられているはずで、そのいつかというのは、過去と未来の両方のいつかで、そんな尊く重要な何ものにも代えられないこの子たちの人生の全ての>>続きを読む

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019年製作の映画)

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タランティーノの映画はフェミニズム的にもミソジニー的にも捉えてる人がいるから面白いよねと友人が言っていて、確かにわたしは、この人の映画をフェミニズム的だと受け取ったことがあるし、それを、逆説的にミソジ>>続きを読む

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)

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今は、こんな最高の暴動を見ても、わたしの頭はそこに理性と、我慢と、孤独の、その美しさを重ねて、最高の抵抗を、最高の暴動を、簡単に打ち消してしまう。アメリカ人の男性に生まれたら、こんなふうなことに憧れた>>続きを読む

悪魔(1972年製作の映画)

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わたしの、本当に極私的な解釈として、人間の欲望に対する(それも、主に性欲)厭悪が、表れているような気がした。何を見せられてるんだろうかと、画面を見つめ続けた2時間、幾つか違和感が残る、気になる場面があ>>続きを読む

ケス(1969年製作の映画)

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動物の剥製が物心ついたときから苦手だった。苦手というか、その程度で済むものじゃなくて、写真で見るだけでも気が狂いそうになるし、目の前にすると腰が抜けそうになり、叫び出したくなり、生きた心地もせず、「い>>続きを読む

ナイルの娘(1987年製作の映画)

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温もった布団の中で、夏みたいな薄着で、丸くなって画面を見つめつづけて、映画がおわれば、電気をつけないまま暗い浴室の、湯舟に膝を抱え浸かって外の、この狭い区画に這入ってくる車の音や、聞こうとしなければ認>>続きを読む

私はあなたのニグロではない(2016年製作の映画)

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そこに居ると錯覚する。本当はそこには居ないのに魂を引き摺られるような感覚がある。喉が渇いて心臓が煩くなる。暗い部屋の中に、貴方は一人で居て、明るい街の中に、私と貴方たちとが居る。窓に垂れた雨の粒が車の>>続きを読む

イングロリアス・バスターズ(2009年製作の映画)

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映画でもいいし小説でもよくて詩でもいいし絵画でもよくて、ただその中だけに在れる、フィクションに拠る現実の救済は、あるときから変わらずずっとわたしに感動を届け続けてくれているし、これからの人生にも絶対的>>続きを読む

風たちの午後(1980年製作の映画)

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始まりがいつかなんてわからなくて、ただとなりにいるあなたの体に、わたしのすっかり力の抜けた体で、もたれかかってみたい、そんなことばかり考えている。秋に雨がふると、おもいだすひとつの夜があって、わたしは>>続きを読む

ナンシー(2018年製作の映画)

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人の嘘すべてを悪いことだとは思わないけど、他人の生きた物語を自分の物語ですと語ることはやってはいけないことだと思うし、もう居ない人の口を借りて言葉の続きを語ることも、やってはいけないことだと思う。けれ>>続きを読む

エクソシスト(1973年製作の映画)

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こんなに怖い映画がこの世にあるんだなとエクソシストを観るたび思うし、初めて観てから10年は経っているけど、あらためてここまで震え上がったのは今回が初めてだったかもしれない。8本続けて好きなホラー映画を>>続きを読む

リリィ(2003年製作の映画)

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わたしにとって、あなたや世界のことを考えないただ純粋なわたしにとって、本当に大切なものは、未来じゃなくて過去の中にあって、未来がある今じゃなく過去にとりつかれている今の中にあるんだとまた解らされた。1>>続きを読む