海さんの映画レビュー・感想・評価 - 4ページ目

この窓は君のもの(1995年製作の映画)

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授業でやるプール、大嫌いだったな。夜風で白く波立つ小学校のプールの前でそう言ったら、そんな感じがするねと嬉しそうに笑ったそのひとを見て、泣きたくなるくらい安心した。夏は苦手だけど、たぶん嫌いじゃない。>>続きを読む

佐々木、イン、マイマイン(2020年製作の映画)

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定位置から一番目に入る場所に置かれている物。家具の配置。一番多い色。電球の色の種類。壁、床、机とベッドの上。その人が暮らしている部屋というのが、どれだけその人を表すのかといえば、言葉や表情以上だと思う>>続きを読む

SOMEWHERE(2010年製作の映画)

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スマホのメモのなかに、自分が大切に思ってるひとの名前があること、そのひとにあてた言葉や、何気ない日記、そういったものが、わたしをときどき楽にさせる。ひとりじゃない、って感覚は、ひとりだ、っていうのをず>>続きを読む

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)

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ひとが、知らず知らずとらわれてきた呪縛から解放されることの、それを望み動くことの、苦しみと痛みと恐ろしさと、見捨てなければいけない莫大な時間と能力と労力を、ひしひしと思い知った。誰かと話していて、時々>>続きを読む

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)

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ここに描かれている、芸術家のことには、頷けるし、むしろ感心さえした。芸術に従事するということは、自分の中にある愛よりも、その愛で何を作り出せるかに重点を置くということである、とそんな身勝手というか、厚>>続きを読む

天国にちがいない(2019年製作の映画)

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やわらかい、ふれているのが、わからないくらいに。たとえるなら太陽の光り、眠っている猫の毛並み、緑の葉を撫ぜる風。だれも天使をつかまえられないように、あなたを傷つけない、わたしを笑わない。ゆるすこと、と>>続きを読む

レディ・バード(2017年製作の映画)

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昼過ぎに目がさめて、ふと海を見たくなって、水色のTシャツとジーンズを着て、家を出た。海岸には、いろんなひとがいて、夏がきたことを知らされる。子連れの家族。一人で座り込んでたそがれているお兄さん。アイス>>続きを読む

タクシードライバー(1976年製作の映画)

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死ぬまで出会わなくても別にかまわなかった、今のわたしにとってはそれくらいの映画であったけれど、誰かと関わることでうまれる苦い失望に、泣くほどの熱ももう無くただ、一人死んだように目を開けつづける夜や、そ>>続きを読む

ウェルカム・バクスター(1998年製作の映画)

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絵画をみるとき、それが風景画ならば、絵の真ん中に大切なひとのすがたを想像してみる。海岸を歩いているすがた。草原に立ち尽くしているすがた。夜中、街頭の下で歩いているすがた。そのひとはどうしてるか?笑って>>続きを読む

PROSPECT プロスペクト(2018年製作の映画)

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鳥が、とんでいる。白と茶色のまざった羽毛に、もうまともに見えはしない、粉塵の奥にあるはずの空から、ひかりが差し、おもわず息を呑む。美しいものを目で追うというのが、ひととしてあたりまえの感覚だというのは>>続きを読む

かもめ食堂(2005年製作の映画)

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小さい頃、風邪をひくとすぐご飯が食べられなくなって、近所の医院に点滴のため通っていた記憶がある。いま猫がご飯を食べるすがたを見ながら、大事におもっているいきものがちゃんとご飯を食べているその光景はなん>>続きを読む

はちどり(2018年製作の映画)

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ウニへ
久しぶり。会ったことはないけど、ひさしぶりと言わせて。ついこのあいだまで14歳だったはずなのにわたしは、気づいたらもう大人だ。一人だと気にならないけど、仕事を早退するのにいちいち報告してるとき
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mid90s ミッドナインティーズ(2018年製作の映画)

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いつか、死に急ぐようにどんなときも一番に飛び出していく子の背中を見て、ただただ「うらやましい」という気持ちでいっぱいになっていた日のことを思い出した。まったく、認められるとか、愛されるという感覚もわか>>続きを読む

パルプ・フィクション(1994年製作の映画)

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わたしの映画好きを遡れば、幼い頃に繰り返し観ていたジブリや世界名作劇場からきているんだろうけれど、映画を「映画」として本当に好きだと自覚したのは中学で二年間不登校になったとき、毎日毎日観ていた、B級映>>続きを読む

ザ・ライダー(2017年製作の映画)

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夕焼けをみるとき、風をかんじるとき、いつかそのたびに、なにか書かずにはいられなかった。いまは逆だ。黙りこんでしまうことが増えた。新しい発見より、思い出す記憶のほうが、多い。わたしのこの手から、逃げ出し>>続きを読む

三月のライオン(1992年製作の映画)

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3時ごろ、これを観終わって、テレビを切って、気をうしなうみたいに眠った。夢を見た。よく知る海辺の町の、古い錆びた、狭いアパートにわたしは住んでいて、朝はやく、彼を送り出した。さむがりの彼は、紺色のジャ>>続きを読む

廃市(1984年製作の映画)

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そこに在る景色が消えそうにひずむ、そこに居ないあなたがふれられそうに映る。すこしだけ目をとじるとき、あの日のままのわたし、われしらず続けてきた儀式よ。となりにいるひとの、声の向こう側、閑寂な町の中の、>>続きを読む

風の電話(2020年製作の映画)

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東日本大震災から10年が経ったということを、先週の木曜日にラジオで番組が入れ替わるたびに話していた。いろんな人がメッセージを送っていて、いろんな人がそれを読み上げた。九州の人もいたし、東北の人もいた。>>続きを読む

EUREKA ユリイカ(2000年製作の映画)

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心が、行き場所をうしなうときがある。わたしの大切に思っとるひとを苦しめたことのある誰かが、幸せになろうともがいとるのを知ったときとか、本当に大好きやったひとが、別れたあとでもわたしのことを下の名前で呼>>続きを読む

セブン(1995年製作の映画)

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このレビューはネタバレを含みます

人殺しは怖いし、虐待も絶望も怖い。だけどそれらを前にしても尚、無関心を装う、あるいは直ぐに忘れて笑っていられる、そういった人達の方がよほど怖いじゃないかと、情報をただ受け取るだけでいい者たちの安定した>>続きを読む

千年女優(2001年製作の映画)

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夢を見た。どこか遠くへ向かう船に乗っていた。天気は曇りで、今にも雨が降り出しそうで、時間もろくにわからないくらい暗くて、すぐそこにあるのが海だと知らせるのは波のぶつかる音だけだった。冷たい風が剥き出し>>続きを読む

ひかりのまち(1999年製作の映画)

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ふと目がさめて、スマホをひらくと午前2時だった。何か夢をみていた気がするけど思い出せない。猫が部屋中を走り回ってる音が聴こえる。眠れなくなって、買おうと思ってるギタレレを楽天で検索したり、気になってる>>続きを読む

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)

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絶望とは、冷たく硬い地面に叩きつけられ死んでしまうことなのかもしれない、それならばもしもいつかあなたがこの世に絶望する時がくれば、どうか鳥をまねて羽をひろげてくれ。ひとは言う、あの人はいい人。あの人は>>続きを読む

チャイルド・イン・タイム(2017年製作の映画)

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きいたことがあるでしょう。貝殻がずっとくりかえしている波の音を。空洞に耳をぴったりあてて目をつむるときこえてくる。海辺からずっとはなれた高速道路の上。あなたの手のひらがいっぱいになるくらいの大きな貝殻>>続きを読む

ハニーボーイ(2019年製作の映画)

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大きな音が嫌いだ。特に嫌なのが、大人の怒鳴り声、ゲームセンターやライブハウスから漏れ出す爆音、ドアを閉めたり食器を片付けたりするときの音。心臓がどきっとして、時には生きてる心地がしないくらい不安になる>>続きを読む

コロンバス(2017年製作の映画)

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何年か前の冬、酔っ払って駅までの道を歩きながら、でたらめな会話をしてたとき、ふと気になって、どうして煙草を吸わないのと聞いた。まわりの友達みんな吸ってるのに、吸いたくならないの?それに、真面目な顔をし>>続きを読む

羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来(2019年製作の映画)

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先月の今頃、会社でラジオを聞いてると、今年の野生動物写真家大賞作品が発表されたと流れてきて、今年はどんな写真だろうと思いながらエクセルの横にグーグルを開いて検索をかけた。その写真を見た瞬間、涙がこぼれ>>続きを読む

ジョン・F・ドノヴァンの死と生(2018年製作の映画)

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夜の空に飛行機の灯りが点滅しているとき、街でぼんやり人の波を眺めているとき、泊まるホテルの受付で家族とすれ違うとき、銭湯の脱衣所で髪を乾かしあってる親子を見つけたとき、そういう、ところどころで、わたし>>続きを読む

左様なら(2018年製作の映画)

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生きることは、地獄だと、その感覚は大人になるにつれ薄れていくものだと思っていた。だけどどうやらわたしは、救われないことよりも救えないことの方を苦しく感じる人間のようだった。あの子が死のうとした意味もあ>>続きを読む

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2019年製作の映画)

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ママが、いつかわたしに言ったことがあるの。「海は天使だったのよ。ずっとずっと待って、やっとママのところに来てくれた天使だった。」おばあちゃんが大丈夫だろうと言ったわたしの僅かな不調を、ママが疑わなけれ>>続きを読む

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)

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私が初めて「男の人から変な目で見られている」と感じたのは小学3年生か、4年生の時だった。当時私は、夕方放課後クラブ(学童保育というのかな)に迎えに来てくれる母と、家に帰る前に夕飯の買い物をするのが常で>>続きを読む

汚れた血(1986年製作の映画)

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なにをもって、わたしか、きっと死んだってわからない。なにをもって、あなたか、なにをうしなっても手にいれてもあなたはあなただろう。声、手、目、くちびる、頬、背中、あなたに与えられたからだ、そこにわたしが>>続きを読む

Home(原題)(2012年製作の映画)

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猫と暮らし始めてから、動物のいのちについて考えることがずっと増えた。引っ越しを何度か繰り返してから、家にもたましいが宿っていると信じるようになった。ひと以外の何かを、まるでひとのようだ、と感じることが>>続きを読む

ボーイ・ミーツ・ガール(1983年製作の映画)

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18歳だった、これを観たとき。今日わたしは驚いた。あの頃、こんなに知らないこと多かったっけ。「しあわせだったろうな、なにもおもわないなんて。」「しあわせだろうな、なにかおもえるなんて。」おまえたち、二>>続きを読む

パーフェクトブルー(1998年製作の映画)

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嫌われたいわ、貴方がたのその、成長を目の前にして黙り込む他できなかったくせに匿名下や画面の向こうではふんぞり返って自己中心的幻想に縋り付くしかない害悪さやら、若さを信用できないからその部分を犯す以外に>>続きを読む

海がきこえる(1993年製作の映画)

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日曜日の午前中、風があって、眠っているねこの毛をなぜている。陽が、えらんで射すのは人間よりねこだ。ねこは、光合成をするらしいから。そとから、鳥の声と、一時間に一回くらいの電車の音、踏切の音、住宅街のむ>>続きを読む