あろはさんの映画レビュー・感想・評価

あろは

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ザ・ホエール(2022年製作の映画)

3.8

死を目前にした鯨の決意。

あまりにも辛い精神的苦痛は、過食による肉体的苦痛を持ってしても和らぐことはなく、結果的に他人の目を避けるように、自分を偽るように生きていくが、邪悪と呼ばれた娘の言動に、一筋
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正欲(2023年製作の映画)

3.8

性欲で描かれる他人とは違う個性。

人と違うことが良しとされない日本社会において、それは個性ではなく、変わり者というレッテルを貼られ、自分を偽りながら生きていくことを強いられるが、言葉だけで語られる多
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オッペンハイマー(2023年製作の映画)

4.5

原爆開発という悪の凡庸さ。

純粋に物理学を愛し、論理に心血を注いできた科学者は、悪意の限りを尽くして大量殺戮兵器を作り上げた訳ではなく、論理の実現という探究心を利用する本物の悪によって、英雄に祭り上
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哀れなるものたち(2023年製作の映画)

4.5

哀れなる男たち。

大人の体と子どもの心という、心と体のミスマッチに、既成概念に生きる男たちは振り回され、男の常識を押し付けようとするが、それはまるでLGBTQを認めようとしない、旧態依然とした過去の
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PERFECT DAYS(2023年製作の映画)

4.5

日本人には撮れない日本映画。

口数少ない主人公が重ねる判で押したような毎日に、どこか退屈さすら感じていたはずの自分が、その古き良き時代の日本人のような生き方に、次第に憧れのような感情が芽生え始めるが
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LAMB/ラム(2021年製作の映画)

3.8

羊をめぐる境界線。

山々に囲まれた白夜広がるアイスランドで、家畜として飼われている羊から産み落とされた子羊を、驚きもなく受け入れた、その夫婦が手を染めた禁断の領域は、人と羊の境界線を超えて、既存の生
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落下の解剖学(2023年製作の映画)

4.2

落下から始まる家族の解剖学。

夫の落下事件に端を発して、家族が抱える様々な問題が露呈し、隠されていた秘密はあらわになるが、視覚障がいを持つ息子の存在が、ミステリー要素として観客を巧みにミスリードしな
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ストップ・メイキング・センス 4Kレストア(1984年製作の映画)

4.5

臨場感、躍動感、没入感。

始めは座って鑑賞していたスクリーンに映し出される観客たちも、気づいたら総立ちになって踊り出してしまうほどに、煽りなしでも会場全体を巻き込んでしまうトーキング・ヘッズ伝説のス
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ジャッキー・ブラウン(1997年製作の映画)

3.8

「トゥルー・ロマンス」とは対極にある大人のクライムサスペンス。

大金を巡って繰り広げられる、90年代フィルムノワール作品は、表向きこそ敵と味方が複雑に入り交じって、サミュエル・L・ジャクソン、デ・ニ
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地球に落ちて来た男(1976年製作の映画)

3.5

地球に落ちて来て、人生崩壊した男。

砂漠と化した故郷の星に、家族を残して地球に落ちて来た容姿端麗なその男は、莫大な資産を生み出す地球外のテクノロジーを持ち込むが、その目的は果たされることなく、人類の
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バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>(1987年製作の映画)

3.8

砂漠のカフェに突然現れた、ドイツからの救世主。

主題歌「コーリング・ユー」があまりにも有名で、映画を食ってしまった感もある本作だが、映画も主題歌同様に掴みどころのない世界観で、派手さはないものの、そ
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ラルジャン(1983年製作の映画)

4.8

一枚の偽札が引き起こす、負のバタフライエフェクト。

些細なイタズラのように放たれた10代の出来心は、手に渡った人々の悪意によって運ばれ、犯罪とは縁遠いはずの、真面目に働く1人の男にたどり着くが、人生
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炎628(1985年製作の映画)

4.5

視覚的なグロさより、精神的にエグられるのに、きっとまた観てしまう負のエネルギー。

この作品が他の戦争映画と一線を画すのは、目を覆いたくなるような虐殺シーンよりも、1人の無垢な少年が、目を背けたくても
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由宇子の天秤(2020年製作の映画)

3.8

重厚なテーマのモキュメンタリーだが、細部の詰めの甘さを都合よく受け流す。

真実を都合よく編集する、メディアの商業主義を批判した本作は、それと同時に、真実と向き合うことは、失うものと天秤にかけることだ
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シークレット・ヴォイス(2018年製作の映画)

4.0

記憶を失った歌姫と、彼女を完コピするシングルマザーの人間交差点。

ミステリアスな雰囲気で進んでいくストーリーには、謎解きのような明確な答えが用意されている訳ではなく、互いが抱える"秘密"の上に成り立
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ゾディアック(2006年製作の映画)

4.0

ゾディアック事件に取り憑かれ、その後の人生が激変した男たち。

犯人がマスコミに声明文を送りつける、いわゆる劇場型犯罪として有名な事件だが、さらには暗号文であったり、筆跡やDNA鑑定を巡る証拠の壁であ
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ザ・キラー(2023年製作の映画)

4.2

20分間に及ぶ独白で幕を開ける、仕事の失敗から人生を再構築した殺し屋。

個人的な感情を排除して、暗殺という目的を遂行することが信条のはずなのに、"憤怒"という個人的な感情全開で、無謀とも思えるミッシ
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ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)

3.8

他人から始まって他人で終わるふたり。

出会って恋してすれ違って別れるという、恋愛の一連の流れを、7月26日というピンポイントで遡っていくが、主演の池松壮亮と伊藤沙莉の実力派2人の演技力は、本当の恋人
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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022年製作の映画)

4.0

お下劣な表現も多様性の一部とばかりに、アカデミー賞7部門を総ナメ。

マルチバースの世界を縦横無尽に飛び回り、異なる人生を行ったり来たりする様は、単純なパラレルワールドのレベルではないカオス感と共に、
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ハッピー・デス・デイ(2017年製作の映画)

4.2

誕生日を何度も繰り返す、殺され女子。

バッドエンドを迎えては、ゲームのようにやり直すデス・デイは、まるで天罰を下されるかのように、悔い改めるまで何度もスタート地点の朝に戻されることで、ただ犯人探しに
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MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない(2022年製作の映画)

3.0

タイムループありきのアイデアの寄せ集め。

結果的には、この映画を観る意味が見出せなかった訳だが、ループするような仕事人生から抜け出すには、夢が必要だ!がメッセージなのかな?にしても構造が極薄過ぎる。
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ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(2023年製作の映画)

3.5

チャーリーとチョコレート工場が有名な英国人作家、ロアルド・ダール原作の短編4部作。

複数の話者によって、入れ子構造?で進んでいく物語は、早口で浴びせてくる"語り"の言葉数が、字幕だと40分という尺で
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クーリエ:最高機密の運び屋(2020年製作の映画)

4.0

コードネーム"HIRO"と呼ばれたペンコフスキーと、もう1人の"HIRO"ウィン。

人類滅亡の危機を回避するに至った、ソ連の数々の機密情報を、アメリカに送り続けたペンコフスキーはあまりに有名だが、そ
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マグダレンの祈り(2002年製作の映画)

3.8

修道院の顔をした更生収容所として実在した、マグダレン洗濯所。

未婚で出産した女性、レイプ被害にあった女性、男たちを惹きつける美貌の女性と、本来男性側に非があるようなことが罪とされ、その罪を洗い流すよ
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ミュンヘン(2005年製作の映画)

4.0

英米に翻弄される、ユダヤ人とアラブ人の憎悪の歴史と報復の連鎖。

奇しくもドイツで起きたテロ事件は、ユダヤ系のスピルバーグ監督作品ではあるが、一方的にイスラエルの正義を主張するわけではなく、その根底に
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あの夏、いちばん静かな海。(1991年製作の映画)

4.2

字幕すらない完璧な静けさ。

先の欠けたサーフボードに引き寄せられるように、サーフィンと出会うことになったあの夏のふたりは、言葉などなくても理解してくれる周囲の優しさに見守られ、誰もが羨む、でもごくあ
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花様年華(2000年製作の映画)

4.0

"人生で最も美しい瞬間"に巡り合った男と女。

互いの夫と妻の関係と同じく、その裏切りに気づいたふたりの関係も、勘づいてしまった時点でもう始まっていたかのように、どちらからともなく惹かれ合っていくが、
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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版(1991年製作の映画)

3.8

中学同級生女子殺傷事件が、1961年当時の同世代に与えた衝撃。

その衝撃のど真ん中にいたエドワード・ヤン監督の思いが溢れた大作だが、事件の断片をかき集め、想像力を働かせることで事件の全体像を描く、ヤ
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象は静かに座っている(2018年製作の映画)

3.5

人間関係がもたらす孤独と悲しみ。

モノクロかのような淡い色彩で綴られる4人の群像劇は、4時間という長さを感じさせない、ちょうどいい塩味の飽きることない味加減は、このままずっと観ていられるようでいて、
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ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)

4.2

終戦23日後、ニューギニアで処刑された2人の日本兵を巡って奔走する。

見るからにクセ強めの元日本兵、奥崎謙三が、処刑の真相を求めて、当時の上官たちを問い詰めるドキュメンタリーだが、カメラを向けられた
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蜘蛛の瞳/修羅の狼 蜘蛛の瞳(1998年製作の映画)

4.0

暴力のある日常、獲物を捉える「蜘蛛の瞳」

前作「蛇の道」から続く復讐の殺戮は、ついに終着点に辿り着くが、そこには差し込む光などなく、暴力の日常がさらに続く暗闇であり、夫婦2人だけの家庭にさえも、光で
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蛇の道(1998年製作の映画)

3.8

復讐心に駆られた男が歩む「蛇の道」

ヤクザと暴力に柳ユーレイと、北野作品を思わせる設定とキャストではあるが、そこには優しさなどというものは一切なく、後味の悪いエンディングに向かって、雨あられのように
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台風クラブ(1985年製作の映画)

3.8

青春は密な部活「台風クラブ」

台風が直撃した週末に訪れた、青春ど真ん中、中3男女の思春期の暴風雨は、この年頃と切っても切り離せない性が暴れ狂うが、その根底には生と死という、人間の根源的で哲学的な問題
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ビジターQ(2000年製作の映画)

3.8

思いつく限りの問題を抱えて崩壊した家族。

エンケンさんの近親相姦買春から始まる衝撃のスタートですら、まだ悪夢の序章に過ぎないほどに、完璧に崩壊した家族の元の、突然居候を始めた謎の男が降臨すると、悲劇
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不安は魂を食いつくす/不安と魂(1974年製作の映画)

4.2

差別と偏見に晒された愛が、その困難を乗り越える。

人種や肌の色、年齢や職業と、他者との差異を否定する差別と偏見が渦巻く世の中で、ファスビンダー監督は、最高善である"幸福"と、その一部である"楽しい"
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マリア・ブラウンの結婚(1978年製作の映画)

4.2

戦後ドイツを生き抜いた、例えば、マリア・ブラウンという女性。

当時と言えば、例え旦那と死別しようとも、1人の男性と添い遂げるというのが、女性の結婚観だったであろうと思われ、悪い言い方をすれば、したた
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