死を目前にした鯨の決意。
あまりにも辛い精神的苦痛は、過食による肉体的苦痛を持ってしても和らぐことはなく、結果的に他人の目を避けるように、自分を偽るように生きていくが、邪悪と呼ばれた娘の言動に、一筋>>続きを読む
性欲で描かれる他人とは違う個性。
人と違うことが良しとされない日本社会において、それは個性ではなく、変わり者というレッテルを貼られ、自分を偽りながら生きていくことを強いられるが、言葉だけで語られる多>>続きを読む
原爆開発という悪の凡庸さ。
純粋に物理学を愛し、論理に心血を注いできた科学者は、悪意の限りを尽くして大量殺戮兵器を作り上げた訳ではなく、論理の実現という探究心を利用する本物の悪によって、英雄に祭り上>>続きを読む
哀れなる男たち。
大人の体と子どもの心という、心と体のミスマッチに、既成概念に生きる男たちは振り回され、男の常識を押し付けようとするが、それはまるでLGBTQを認めようとしない、旧態依然とした過去の>>続きを読む
日本人には撮れない日本映画。
口数少ない主人公が重ねる判で押したような毎日に、どこか退屈さすら感じていたはずの自分が、その古き良き時代の日本人のような生き方に、次第に憧れのような感情が芽生え始めるが>>続きを読む
羊をめぐる境界線。
山々に囲まれた白夜広がるアイスランドで、家畜として飼われている羊から産み落とされた子羊を、驚きもなく受け入れた、その夫婦が手を染めた禁断の領域は、人と羊の境界線を超えて、既存の生>>続きを読む
落下から始まる家族の解剖学。
夫の落下事件に端を発して、家族が抱える様々な問題が露呈し、隠されていた秘密はあらわになるが、視覚障がいを持つ息子の存在が、ミステリー要素として観客を巧みにミスリードしな>>続きを読む
臨場感、躍動感、没入感。
始めは座って鑑賞していたスクリーンに映し出される観客たちも、気づいたら総立ちになって踊り出してしまうほどに、煽りなしでも会場全体を巻き込んでしまうトーキング・ヘッズ伝説のス>>続きを読む
「トゥルー・ロマンス」とは対極にある大人のクライムサスペンス。
大金を巡って繰り広げられる、90年代フィルムノワール作品は、表向きこそ敵と味方が複雑に入り交じって、サミュエル・L・ジャクソン、デ・ニ>>続きを読む
地球に落ちて来て、人生崩壊した男。
砂漠と化した故郷の星に、家族を残して地球に落ちて来た容姿端麗なその男は、莫大な資産を生み出す地球外のテクノロジーを持ち込むが、その目的は果たされることなく、人類の>>続きを読む
砂漠のカフェに突然現れた、ドイツからの救世主。
主題歌「コーリング・ユー」があまりにも有名で、映画を食ってしまった感もある本作だが、映画も主題歌同様に掴みどころのない世界観で、派手さはないものの、そ>>続きを読む
一枚の偽札が引き起こす、負のバタフライエフェクト。
些細なイタズラのように放たれた10代の出来心は、手に渡った人々の悪意によって運ばれ、犯罪とは縁遠いはずの、真面目に働く1人の男にたどり着くが、人生>>続きを読む
視覚的なグロさより、精神的にエグられるのに、きっとまた観てしまう負のエネルギー。
この作品が他の戦争映画と一線を画すのは、目を覆いたくなるような虐殺シーンよりも、1人の無垢な少年が、目を背けたくても>>続きを読む
重厚なテーマのモキュメンタリーだが、細部の詰めの甘さを都合よく受け流す。
真実を都合よく編集する、メディアの商業主義を批判した本作は、それと同時に、真実と向き合うことは、失うものと天秤にかけることだ>>続きを読む
記憶を失った歌姫と、彼女を完コピするシングルマザーの人間交差点。
ミステリアスな雰囲気で進んでいくストーリーには、謎解きのような明確な答えが用意されている訳ではなく、互いが抱える"秘密"の上に成り立>>続きを読む
ゾディアック事件に取り憑かれ、その後の人生が激変した男たち。
犯人がマスコミに声明文を送りつける、いわゆる劇場型犯罪として有名な事件だが、さらには暗号文であったり、筆跡やDNA鑑定を巡る証拠の壁であ>>続きを読む
20分間に及ぶ独白で幕を開ける、仕事の失敗から人生を再構築した殺し屋。
個人的な感情を排除して、暗殺という目的を遂行することが信条のはずなのに、"憤怒"という個人的な感情全開で、無謀とも思えるミッシ>>続きを読む
他人から始まって他人で終わるふたり。
出会って恋してすれ違って別れるという、恋愛の一連の流れを、7月26日というピンポイントで遡っていくが、主演の池松壮亮と伊藤沙莉の実力派2人の演技力は、本当の恋人>>続きを読む
お下劣な表現も多様性の一部とばかりに、アカデミー賞7部門を総ナメ。
マルチバースの世界を縦横無尽に飛び回り、異なる人生を行ったり来たりする様は、単純なパラレルワールドのレベルではないカオス感と共に、>>続きを読む
誕生日を何度も繰り返す、殺され女子。
バッドエンドを迎えては、ゲームのようにやり直すデス・デイは、まるで天罰を下されるかのように、悔い改めるまで何度もスタート地点の朝に戻されることで、ただ犯人探しに>>続きを読む
タイムループありきのアイデアの寄せ集め。
結果的には、この映画を観る意味が見出せなかった訳だが、ループするような仕事人生から抜け出すには、夢が必要だ!がメッセージなのかな?にしても構造が極薄過ぎる。>>続きを読む
チャーリーとチョコレート工場が有名な英国人作家、ロアルド・ダール原作の短編4部作。
複数の話者によって、入れ子構造?で進んでいく物語は、早口で浴びせてくる"語り"の言葉数が、字幕だと40分という尺で>>続きを読む
コードネーム"HIRO"と呼ばれたペンコフスキーと、もう1人の"HIRO"ウィン。
人類滅亡の危機を回避するに至った、ソ連の数々の機密情報を、アメリカに送り続けたペンコフスキーはあまりに有名だが、そ>>続きを読む
修道院の顔をした更生収容所として実在した、マグダレン洗濯所。
未婚で出産した女性、レイプ被害にあった女性、男たちを惹きつける美貌の女性と、本来男性側に非があるようなことが罪とされ、その罪を洗い流すよ>>続きを読む
英米に翻弄される、ユダヤ人とアラブ人の憎悪の歴史と報復の連鎖。
奇しくもドイツで起きたテロ事件は、ユダヤ系のスピルバーグ監督作品ではあるが、一方的にイスラエルの正義を主張するわけではなく、その根底に>>続きを読む
字幕すらない完璧な静けさ。
先の欠けたサーフボードに引き寄せられるように、サーフィンと出会うことになったあの夏のふたりは、言葉などなくても理解してくれる周囲の優しさに見守られ、誰もが羨む、でもごくあ>>続きを読む
"人生で最も美しい瞬間"に巡り合った男と女。
互いの夫と妻の関係と同じく、その裏切りに気づいたふたりの関係も、勘づいてしまった時点でもう始まっていたかのように、どちらからともなく惹かれ合っていくが、>>続きを読む
中学同級生女子殺傷事件が、1961年当時の同世代に与えた衝撃。
その衝撃のど真ん中にいたエドワード・ヤン監督の思いが溢れた大作だが、事件の断片をかき集め、想像力を働かせることで事件の全体像を描く、ヤ>>続きを読む
人間関係がもたらす孤独と悲しみ。
モノクロかのような淡い色彩で綴られる4人の群像劇は、4時間という長さを感じさせない、ちょうどいい塩味の飽きることない味加減は、このままずっと観ていられるようでいて、>>続きを読む
終戦23日後、ニューギニアで処刑された2人の日本兵を巡って奔走する。
見るからにクセ強めの元日本兵、奥崎謙三が、処刑の真相を求めて、当時の上官たちを問い詰めるドキュメンタリーだが、カメラを向けられた>>続きを読む
暴力のある日常、獲物を捉える「蜘蛛の瞳」
前作「蛇の道」から続く復讐の殺戮は、ついに終着点に辿り着くが、そこには差し込む光などなく、暴力の日常がさらに続く暗闇であり、夫婦2人だけの家庭にさえも、光で>>続きを読む
復讐心に駆られた男が歩む「蛇の道」
ヤクザと暴力に柳ユーレイと、北野作品を思わせる設定とキャストではあるが、そこには優しさなどというものは一切なく、後味の悪いエンディングに向かって、雨あられのように>>続きを読む
青春は密な部活「台風クラブ」
台風が直撃した週末に訪れた、青春ど真ん中、中3男女の思春期の暴風雨は、この年頃と切っても切り離せない性が暴れ狂うが、その根底には生と死という、人間の根源的で哲学的な問題>>続きを読む
思いつく限りの問題を抱えて崩壊した家族。
エンケンさんの近親相姦買春から始まる衝撃のスタートですら、まだ悪夢の序章に過ぎないほどに、完璧に崩壊した家族の元の、突然居候を始めた謎の男が降臨すると、悲劇>>続きを読む
差別と偏見に晒された愛が、その困難を乗り越える。
人種や肌の色、年齢や職業と、他者との差異を否定する差別と偏見が渦巻く世の中で、ファスビンダー監督は、最高善である"幸福"と、その一部である"楽しい">>続きを読む
戦後ドイツを生き抜いた、例えば、マリア・ブラウンという女性。
当時と言えば、例え旦那と死別しようとも、1人の男性と添い遂げるというのが、女性の結婚観だったであろうと思われ、悪い言い方をすれば、したた>>続きを読む