未島夏さんの映画レビュー・感想・評価 - 5ページ目

メアリと魔女の花(2017年製作の映画)

3.9

魔法が息衝くファンタジックな世界へ飛び込むメアリの真っ直ぐで等身大なリアクションが、観客をあっという間に雲の向こう側へと連れ出す。

全年齢的な簡潔さを優先した結果、終盤のプロットのスケールダウンがと
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ジョン・ウィック:チャプター2(2016年製作の映画)

3.8

全アクションに見られるこのスピード感は、前作同様やはり殺陣そのもの。
動きがやや形式的に見えるアクションも散見されたが、前作以上の身のこなしには感服。
アクションそのものだけでなく、視覚を刺激する舞台
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忍びの国(2017年製作の映画)

3.7

忍の心身両面の身軽さに応えた笑いを誘う軽い描写に、その忍達が持つ残忍性の常態がありありと重ねられる異様。

横たわる憐れみと無償の愛を前に遂に立ち止まる無門は、人か忍か。

終盤のとある圧巻の殺陣は、
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セールスマン(2016年製作の映画)

3.7

主人公、その妻である被害者、加害者、加害者家族。

一つの事件によって平静を失った人々の乱れが、様々な感情の「押し売り」を浮き彫りにする。

その乱れが人間関係全てに波及して夫婦の心の狭間に亀裂を生み
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時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)

3.7

序盤はとんだ気持ち悪い映画を観始めてしまったなとひたすら不愉快に思うが、「治療後」からは溜飲が下がる。

主人公の主観的すぎて共感は無いものの、「救い用のない」切なさと面白さと恐ろしさ。

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)

3.8

「殺し」と「救い」が同時に充満する戦地で痛感するのは、救い切る事の出来ぬ無力と尚も救い続ける事で射す希望。

決して無意味でなく、また戦争映画として多大なる意味を担った傑作。

救えた数、アメリカ、日
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TAP THE LAST SHOW(2017年製作の映画)

3.5

良質なムードの中に乗り切らない演出も幾つか見られるが、ショー終盤のタップダンスに込み上げる熱量が、登場人物の行方に最上の感慨を残す。

ショーの喝采と共に散り行くその生き様には、充足と哀愁が同居する。
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22年目の告白 私が殺人犯です(2017年製作の映画)

3.6

顛末が想定から外れる事は無かったものの、クライマックスに人を殺める行為への根源的な罪の意識と主張が提示された事で、価値のある内容へとそれまでの展開を昇華出来ている。

事件を現実の史実に準えた導入や、
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夜明け告げるルーのうた(2017年製作の映画)

3.9

多様な意味で「恐ろしい」傑作映画。

音楽に合わせた体感的な予感と躍動する映像演出の反復に感動した直後、自己本位や集団心理の坩堝に在る人々の愚かしさを突き立てられ息が詰まる。

同じ人間として苛まれた
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20センチュリー・ウーマン(2016年製作の映画)

3.5

時代と年齢期の相違が生む摩擦に、パステルとビビッドの色彩を散りばめたオフビート。

軽率な言語化を慎みたいデリケートな人生の機微を、文字通り剥き出しに詰め込む。

母と子の物語に直線的な解答はあるが、
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映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ(2016年製作の映画)

4.0

居場所への拒絶と抑圧、その狭間で出会う二人。

膨れた心を破裂せぬ様抱えた登場人物たちが、閉塞感に苦悩する中ユーモアも綻ばせ描かれる。

二人が再び愛に辿り着くまでを見届けた時、言い様の無い不安から少
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メッセージ(2016年製作の映画)

4.2

冒頭の編集が簡潔かつ鋭利で素晴らしく、ありふれた話にも関わらず過去を抱えた主人公に没入。

そしてその過去が、まさかこの「SF映画」の中枢として概念ごと覆されていくとは。
一連の構成力に感服。

未知
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マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016年製作の映画)

3.8

心が何処にあろうと、どう動こうと、繕われぬ日々は潮の香りと曇り空の街に流れ行く。

物語が必要としない様な営みにある機微も剥き出し、物語の輪郭へと昇華させる。

結末は到達点でなく、その営みの機微と心
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無限の住人(2017年製作の映画)

3.7

大衆映画としての説明的譲歩とやや無謀なカッティングが散見するが、タイトルバックまでの視覚意図、拳で殴り合う様なノーガード殺陣の豪快、生身のアクション主体の堅実さに混在する奇怪な世界観…等々に圧倒。>>続きを読む

美女と野獣(2017年製作の映画)

3.6

今や古典とも形容出来る互いの劣等感の交わりを描いたロマンスだが、このストーリーに共感出来る理由は主人公が野獣ではなく美女側であるから。

野獣=男性側を主人公とすると、美女は男性側からの一方的な理想像
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夜は短し歩けよ乙女(2017年製作の映画)

4.3

如何なる映画にも劣らぬ超凝縮の93分。

どこまでも奔放で柔軟で大胆なプロットの飛躍。
人物の行動や目的移行への豪快な動機付けは、それらをアニメの利点に符合させた脚本の手腕。

主人公とヒロインの両視
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ムーンライト(2016年製作の映画)

3.6

客観的視点を維持しながら、それは紛れもなく一人の男の人生の追体験。

性的マイノリティーへの主張を過度に求めると平凡な映画だが、様々な意味での垣根を超えた一つの愛を追えば、それは月明かりより美しく漂う
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ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜(2017年製作の映画)

3.7

交差頻度の高い夢と現実の二重構造ながら、どの人物にも垣間見える振る舞いの緩さが物語の凝りをほぐす。

家族の真相と隠された愛情が、夢による空想との垣根を越え共通する時、その夢もまた愛情だと知る。

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哭声 コクソン(2016年製作の映画)

3.7

二転三転…四転、五転、その先へ。
混合する宗教性から成るスピリチュアルな狂気が、閉鎖的環境での集団心理へ雪崩れ込む。

幾重にも重なるミスリードが、その度に姿形を変貌させる物語を加速させ、「見事な不時
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SING/シング(2016年製作の映画)

3.8

シナリオの道筋は単調ながら、それ故にアニメーションらしい大胆な障壁や枷が登場キャラクターを鼓舞する。

可愛らしく大衆性に溢れたポップな作品性による期待を遥かに超えた、夢追い人のフラストレーションが音
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雨の日は会えない、晴れた日は君を想う(2015年製作の映画)

4.0

喪失への違和感をオフビートに描きながらも、最高にエネルギッシュな傑作。

妻の死に涙出来ない自らの違和感を開放的に生きる事で少しずつ「解体」し、他者への愛を取り戻す姿に感涙。

曇り空がどこまでも清々
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モアナと伝説の海(2016年製作の映画)

3.6

生まれ育った島を旅立つまでの導入は非常にスムーズかつドラマティックで、為す術なく感涙。

しかしその後は海を行くシークエンスが非常に多い為、密室劇によく見られる様な展開の制約が見られた。
アニメーショ
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はなればなれに(1964年製作の映画)

4.2

映画という表現手法を精一杯愉しむ粋な作品に主張性なんて大層な物はそれ程見出したくもないが、本質的に自己本位な人物たちが垣間見せる「他人事」な姿が男と女の関係図を形作っていくのが分かる。

誰かの悲しみ
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ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)

4.2

美しい夢で満ちる世界に溢れ出た「代償」が、こんなにも静かで膨大な余韻を残す。

ミュージカル映画の「夢と希望」はおそらく全てここに詰まっていて、一つ一つが鮮やかに発色しているけれど、その「夢と希望」は
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ナイスガイズ!(2016年製作の映画)

3.8

心地良いタガの外れ方をした快作。

親子間のあれこれや、善悪がどうだという描写も、あくまで勧善懲悪の娯楽ベースを徹底しながらさり気無く添える。

娘が父の影で見せる笑みが100点。

転校生(2015年製作の映画)

3.6

スクールカースト内の境界線を身を持って実感した事のある全ての人に、苦痛と救いと笑いと感動をもたらす。

ありのままで居る事はこんなにも難しいけど、全てを受け入れた先に待つのはきっと宝石の様な日々。

虐殺器官(2015年製作の映画)

3.5

順序が変わってしまったものの、ようやく辿り着いたProject Itohの結末。

「屍者の帝国」、「ハーモニー」と比較して娯楽性とカタルシスにやや欠けるが、ボーイ・ミーツ・ガールの魅力は堅実に物語へ
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ドクター・ストレンジ(2016年製作の映画)

3.9

決して軽んじぬ命への意識を始めとした既存の娯楽大作へのアンチと、時空を操ることによる大胆で爽快なシーン移行がてんこ盛り。

かつての大作映画に対峙する、こういう洋画を待っていた。
待望の傑作。

ヴィクトリア(2015年製作の映画)

3.3

一夜にして悪人となってしまう気の毒な女の子ヴィクトリアの話。
それだけ。

同情は出来る。
感情移入は出来ない。
結局は悪人だから。
ロマンティックでは誤魔化せない。

ワンカット撮影の制約が脚本の精
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嵐を呼ぶ男(1957年製作の映画)

3.8

石原裕次郎がスターたる所以を、皮膚から骨の髄まで直接思い知った様な心境。

「おいらはドラマー」の爽快感から母と子の人情まで。
それらの周囲を帯びる恋愛模様。
正しく嵐の如く、素晴らしき人間活劇。

幸せなひとりぼっち(2015年製作の映画)

3.8

妻を亡くし寂しさを抱えた偏屈な老人が、強情にやたらと構う近隣住民の優しさに触れ少しずつ綻びる。

遮断していた人間関係が他者の優しさで再び色付いていく様子は堪らない。

主人公が笑顔になる度涙が溢れる
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聖杯たちの騎士(2015年製作の映画)

3.6

物語としては地に足を付けず、傍観と主観を漂いながら断片的なカットの連続性を繋ぐ。
行動理由の説明はほぼ無い為理解する映画ではない。

ひたすら浮遊すると、「人生」の輪郭が見えてくる。
抽象的だからこそ
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砂の器(1974年製作の映画)

3.5

この映画がもはや「歴史を学ぶ手段の一つ」となった現代に生きていることに、もっと感慨を持たないといけないのかもしれない。

ハンセン病にまつわる偏見、差別の歴史についての事実を知るだけでも、劇場ですすり
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すれ違いのダイアリーズ(2014年製作の映画)

3.9

出会えない二人の日記による想いの受け渡しが、立場を入れ替えながら上手く通信手段を遮断しつつ描かれる。
結末までの王道的な歯痒さに魅せられた。

日本の数多のラブコメディに輪郭を寄せつつも匹敵する、力量
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ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(2016年製作の映画)

3.8

「大冒険」を期待する観客へのレスポンスはやや弱いが、トランクの中に拡がる世界と魔法生物の躍動に対する高揚感は絶品。

ニュートが見せる表情から明確に差異が現れている、人への不器用さと魔法生物への慈愛の
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湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)

3.4

あらゆる伏線の回収が母の不動の愛への実感を生む。

血の繋がりも、束の間の旅が生む出会いも、その愛の波及が包み結ぶ。

血生臭く優しいラストシーンも見事。

しかし唯一、「いじめ」に対する娘の変化の描
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