緑雨さんの映画レビュー・感想・評価 - 2ページ目

緑雨

緑雨

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小早川家の秋(1961年製作の映画)

3.5

小津が東宝に出張って撮った作品。基本的には変わらぬ小津スタイルだが、音楽がいつもの斎藤高順ではなく黛敏郎、撮影も厚田雄春ではなく中井朝一というあたりがテイストの違いを生むのに寄与している。

役者の顔
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マルサの女(1987年製作の映画)

3.8

戦後日本の煩悩が、はち切れんばかりに膨らんだ、あの時代を象徴する作品。

本多俊之によるテーマ曲、不協和で扇情的なサキソフォンの旋律に乗って繰り広げられるのは、領収書、通帳、印鑑、そして札束を巡るアナ
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TENET テネット(2020年製作の映画)

2.8

ノーラン自身が『メメント』でやった順逆の時制のコントロール、それを別々の流れを再編するに留まらず、一つ時制、一つの画面に統合するというチャレンジングな試み。

アイデアとしてはとても面白いし、映像とし
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タンポポ(1985年製作の映画)

3.5

正直、改めて観ると大した映画じゃないんだけど、バブル期らしい享楽主義が懐かしくも楽しい。改装後の店が小綺麗になって、却って美味くなさそうな店になっちゃうあたりが如何にもバブルっぽい。

主演が山崎努で
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彼岸花(1958年製作の映画)

4.0

お喋りで厚かましくも憎めない浪花千栄子と、人懐っこい満点美人の山本富士子。この母娘のキャラが、映画全体にカラッとした明るさをもたらし、もはや化石としか思えない家父長絶対主義者・佐分利信の仏頂面や有馬稲>>続きを読む

バグダッド・カフェ<ニュー・ディレクターズ・カット版>(1987年製作の映画)

3.5

埃っぽい乾いた空気の中横たわる薄暗いカフェ、流れる"Calling you"。じんわりわいた汗がすっと引いていくような感覚が心地よい。

滲んだような、原色のグラデーション色調の画面、夕焼けに染まるカ
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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022年製作の映画)

3.0

映画館に入場するときに、曼荼羅図みたいなオリジナルポストカードを貰ったが、まさに曼荼羅図みたいな映画。

マルチバースにぶっ飛んでからは、話の筋を追うのもバカらしくなってくる。法則の一貫性を無造作に無
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ドライビング Miss デイジー(1989年製作の映画)

3.8

片や、善良さと清廉さを根本に持つが故に、その矜持を保とうと狷介を譲れぬ者。此方、差別される苦難と闘い続けたけてきたことで、誰よりも本質を衝く見識眼を身につけるに至った者。

その両者が、絶妙な間合いを
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I am Sam アイ・アム・サム(2001年製作の映画)

3.0

愛すべき映画なのは分かるのだが、ちょっと話が出来すぎてて鼻白らむ。

何よりダコタ・ファニングがあまりに可愛くて天真爛漫で、そりゃ皆んな心情的には肩入れしたくなっちゃうわな、と。夜中に訪ねてくる件りの
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ジャック・サマースビー(1993年製作の映画)

3.0

設定、プロットはとても興味深いのに、演出の凡庸さがスポイルしていて残念。前半はもっともっとサスペンスフルに撮ってほしい。それがあれば法廷場面での妻の複雑な感情がさらに痛切に立ち現れたはず。

というか
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FALL/フォール(2022年製作の映画)

4.0

こりゃもう、ある種のホラー。観ていてこんなに疲労困憊する映画は他にない。感情移入ではなくて、状況移入。鑑賞中ずっと全身力んで、身悶えしながら観た。

相棒の女友達のクレイジーさにイラつかされるが、いろ
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ラストエンペラー(1987年製作の映画)

4.0

物心つく前に皇帝に据えられた男は、やがてその地位の虚構性を自覚するにつれ、アイデンティティの崩壊と必死で戦いながら、全世界全歴史においても他に類を見ない数奇なる運命を生き抜く。

達観と矜持の間を行き
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野良犬(1949年製作の映画)

4.8

「なに!ピストルをすられた?!」

一切の前置きなくいきなり核心に入るオープニングにぐっと心捉まれた。あくまで直情的で一途な村上(三船敏郎)の姿が、暑い暑い戦後の街に映え、最後まで目が離せない。

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恋におちたシェイクスピア(1998年製作の映画)

4.0

冒頭から続く長回しでの状況説明台詞や、シェイクスピアとヴァイオラが結ばれる展開の性急さや軽薄さに、どうも興が乗らず眺めていたのだが、途中からアクセルがかかる。

劇中劇『ロミオとジュリエット』が創り上
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七人の侍(1954年製作の映画)

5.0

農民根性と武士道精神。日本人の血に流れる相反する二つの要素を余すところ無く盛り込んだ社会派ドラマでありながら、活劇としても最高級の質を実現しているという奇跡。

搾取され続ける百姓は、じっとしてこそこ
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ボルサリーノ(1970年製作の映画)

3.8

フランス版『仁義なき戦い』。チンピラの成り上がり物語、耳馴染みのあるテーマ曲など、共通点もあるが、テイストはずいぶん違うね。

美術装丁、ファッション、ロケーション、時代考証が素晴らしい。

愛嬌のあ
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リオの男(1964年製作の映画)

4.0

これは楽しい!

ルパン三世の元ネタになったと言われているが、キャラクタも話の展開もテイストも、ホントそのまんま。

バイクでのチェイス、空港、国際線、トラム、展望台、海沿いのホテル、モーターボートv
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プロジェクトV(2020年製作の映画)

3.0

ジャッキー・チェン主演…なのだろうか。確かに、最初から最後まで画面には出ている。アクションもしていないわけではない。が、大した見せ場もなく、爆笑問題の田中裕二みたいになった容姿で管理職役に徹せられると>>続きを読む

ベニスに死す(1971年製作の映画)

3.8

芸術に人生を捧げ、己れの限界を悟り絶望に至った男は、静養地で少年の美と若さに遭遇し、羨望と躊躇いを抱えたまま熱風にあてられて死んでいく。なんと残酷な生き様、そして死に様なのだろう。

その残酷さをある
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タリーと私の秘密の時間(2018年製作の映画)

3.5

ワンオペ育児の壮絶さ。ヘッドホンしてベットでゲームに興じる旦那の姿に、今そこにある危機へのイノセントな無頓着さの残酷が表象される。

デ・ニーロばりの肉体改造で迫るシャーリーズ・セロンの鬼気。重い肉体
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月の満ち欠け(2022年製作の映画)

3.5

佐藤正午の原作映画化作品としては『鳩の撃退法』に続いての鑑賞だったが、『鳩の…』が小説のテイストをしっかり活かしていたのに比べて、こっちは原作のトリッキーさが失われて、すっかりベタな人情モノに変容され>>続きを読む

騙し絵の牙(2021年製作の映画)

3.8

犬の横顔のアップと、職場でコーヒーを淹れるOLがカットバックされるオープニングの不穏さがなかなか印象的。

しかもこの地味なOLが松岡茉優だったなんて、言われないと判らないくらいシーンに溶け込む憑依性
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すずめの戸締まり(2022年製作の映画)

3.8

なんかジブリっぽい、というか宮崎駿っぽい、というのが鑑賞直後にまず出てきた感想。すでに指摘されていると思うが、もののけ姫+ハウルって感じ。

何の予備知識もなく観たのだが、最初のうちは廃墟を通じて過疎
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ジュリア(1977年製作の映画)

4.0

一口に「親友」と言っても、そのありようは区々。決して単純な「友情」だけではない二人の関係を、一方の女性の一人称で見事に語っているところが秀逸。

少女時代の回想を織り込みながら、主人公リリアンの一人称
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大統領の陰謀(1976年製作の映画)

3.8

ウォーターゲート事件は自分が生まれた年の出来事で、当時の政治・社会情勢やニクソン以外の人名には馴染みがないけれど、そんなこと関係なく面白い。

青臭さを感じさせる若きレッドフォードとホフマン、巨悪を暴
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椿三十郎(1962年製作の映画)

4.8

『用心棒』の活劇性を損なうことなく、喜劇としての方向性をとことん発展させることに成功した大傑作。

こんなにも笑いのセンスに溢れた黒澤作品があったのか、と初見時には驚かされるとともに嬉しくなった。
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用心棒(1961年製作の映画)

4.0

卯之助(仲代達矢)のキャラ造形が完璧。やはり敵役が魅力的な活劇は面白い。

もちろん卯之助だけじゃない。両一家に属する連中の、どれもこれも個性的で魅力的なこと。ボケキャラ亥之吉(加東大介)で笑いを取り
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ロッキー4/炎の友情(1985年製作の映画)

3.5

中学生だった公開当時、友達数人と連れ立って観に行った。映画館は満員で立ち見、体中がアツくなりながら食い入るように観たことをよく憶えている。

時を経て観ると・・・さすがに中学生の頃と同じように、とはい
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アフリカの女王(1951年製作の映画)

3.8

イヤだムリだとグズるばかりの凡庸な男が、どこまでもポジティブな女性にインスパイアされ、自分の潜在能力に目覚めていく過程が絶妙に心地良い。

壊れたシャフトとスクリューを二人力を合わせて直す場面が好き。
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ロッキー5/最後のドラマ(1990年製作の映画)

3.8

帰ってきた貧民街のヒーロー。原点回帰の物語。

ロッキーの原点はやはりストリートファイト。どうしようもなくお人好しで器用に立ち回ることなんてできやしないロッキー。最後に勝負をつけるのはやっぱしストリー
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ポセイドン・アドベンチャー(1972年製作の映画)

4.5

「決断をするために必要な、最低限の時間は存在している」という状況が、出色の人間ドラマを生み出している。

パニック・ムービーではあるが、次から次へと襲い来る脅威に急き立てられ、考えてる間もなくひたすら
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激突!(1971年製作の映画)

3.8

小学生の頃、テレビの洋画劇場で放映されてたのを父親が観ていて、一緒に観はじめたら目が離せなくなった。こんなに印象の強い映画は他にない。

久々に再鑑賞。

前半はサスペンス、後半はホラー・アクション。
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ヘタな二人の恋の話(2022年製作の映画)

3.0

坂道と自転車、冷蔵庫、しろくまアイス。

最初のうちは、キャラクタが現実離れしてイタすぎて、ちょっと観ててしんどい感じだったのだが、映画の中で時が重ねられていくうちにちょっと愛おしさが芽生えてくる。こ
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太陽を盗んだ男(1979年製作の映画)

4.8

邦画洋画問わずこれと同類にカテゴライズできそうな映画って、まず思いつかない。だからこそ伝説たり得たんだろう。

ストーリーテリングの放棄ともとれる終盤の暴走も断然擁護したい。主人公が最狂の愉快犯に育っ
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ジュリエッタ(2016年製作の映画)

3.8

ふとした表情や眼差しのずれで、途端に人の間に不穏さや官能が生じる。このあたりの演出力にはさすがアルモドバルと感心させられる。

人だけでなく、木製の人形や列車と並走する鹿も、マドリッドのアパートメント
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あいあい傘(2018年製作の映画)

3.5

あいあい傘で歩く2人が水彩画風の画面に溶け込んでいくタイトルバックがユニークで好い感じ。

時制を組み替えてわざわざ分かりにくくした上でわかりやすい説明セリフでフォローする手法だとか、高橋メアリージュ
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