ルサチマさんの映画レビュー・感想・評価 - 3ページ目

ザ・キラー(2023年製作の映画)

4.2

今年の新作の中ではマシな方だし、フィンチャーのベスト。フィンチャーは過去の作品思い返しても恐らくカメラ一台でほとんど撮ろうとする気概があるアメリカ映画の監督という気はするし頑張ってもらいたい。

(2023年製作の映画)

3.8

元々武のいい観客ではないけど(『みんな〜やってるか!』はかなり好きだが)、北野武作品の中でもこれは全然良くない。何もかも取ってつけたような映像が連なるだけ。
俳優たちの演技も見てられない。加瀬亮の信長
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GIFT(2023年製作の映画)

1.0

石橋英子の即興演奏と共に鑑賞することが前提の作品らしいが、ハッキリ言って最悪。映像(映画とは認めない)は映像の領域で、音楽は音楽の領域で主張すべきなのは当然だが、この作品にはお互いの気の利いた譲り合い>>続きを読む

黒衣人(2023年製作の映画)

3.0

文化大革命については、同時代の例えば68革命よりはるかに興味を抱く歴史的事件ではあるし、今なおこの歴史を深掘りすることは相当な意義があるはずで、そこに斬り込む作品であるとは思うのだが、王西鱗の体験した>>続きを読む

火の娘たち(2023年製作の映画)

4.8

フィルメックスにて。8分の短編ながら今年度の新作ベスト。
マルチスクリーンによって離れ離れの女たちの姿が三者三様のシチュエーションと画面構成で映し出され、顔のクロースアップのみによって映しとられる者も
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タルテュッフ(1925年製作の映画)

4.9

映画内映画という構造だが、作中で上映される映画の方がメインという構成で、現代で頻繁に用いられるメタ構造を今以上のラディカルな形で導入しつつ、しかも映画内映画の前に観客に語りかけるという異化効果がなされ>>続きを読む

ファウスト(1926年製作の映画)

5.0

ウーファ時代の最後のムルナウ。ムルナウの中でも屈指の絵画的な、ムルナウの美術家としての一面が感じられる映画であり、その後のマティスとの交流も予感させる淡いのある陰影に驚愕。叔母さんとメフィストのやり取>>続きを読む

タブウ(1931年製作の映画)

5.0

人工物と自然物の対比をこれ以上の形で描いた映画は(ストローブ=ユイレがそれを引き継ぐ形で迫ったものの)未だ存在しないと言い切っていいと思う。ムルナウはこれまでにも俳優に物理的な重みを付与して動きの制限>>続きを読む

愚なる妻(1921年製作の映画)

5.0

これも大学の授業で出会って以来何度見たか覚えてすらないが、映画史上最も怖い映画の一つとして未だその記憶は更新されてない。人物が空間に出入りする過程を執拗に捉え続けるシュトロハイム特有の長回しの効果含め>>続きを読む

アルプス颪(1919年製作の映画)

5.0

一年前、自作を撮影するにあたって『アルプス颪』を頭に刻むこむようにしていた。サイレントの形式を現代でやりたいということとは違って、且つ今作の中でシュトロハイムが辿ることになる末路のドラマに対する気の利>>続きを読む

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版(1991年製作の映画)

5.0

2023年11月3日 @109シネマズプレミアム

劇場で見るのは5年ぶり?(もしかしたら6年ぶりかも)坂本龍一セレクションにて上映。

エドワード・ヤンの90年代以降のフィルモグラフィー全体に言える
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Ryuichi Sakamoto | Opus(2023年製作の映画)

4.7

坂本龍一の「Playing the Piano 2022」を再編集したもので、時系列的にこちらの「Opus」は坂本龍一が亡くなった後に編集がなされたものかどうかは調べてないのでわからないのだが、演奏の>>続きを読む

犯罪者たち(2023年製作の映画)

4.5

今年の新作でマンゴールドに匹敵できる数少ない作品だった。師匠ラファエル・フィリペッリへの献辞に南米の現代映画の水脈を引き受ける覚悟を感じる。第二部の海辺のシーンのように、なだらかな時間をカメラに内包さ>>続きを読む

Totem(原題)(2023年製作の映画)

4.1

癌に侵された父の最後の誕生日パーティーを
スタンダードサイズの手持ちでホームビデオ的な装いで捉えるあたりに嫌らしさは感じつつ、しかしそうした情緒と隣り合わせに随所に子供を起点としたユーモアが散りばめら
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左手に気をつけろ(2023年製作の映画)

2.0

大学も映画館もカフェも知ってる景色ばかりで、しかしどこも魅力に映ってないどころか空間の再発見をできない。根本的に子供を撮るというのが溌剌な状態を撮ってるだけでそれによって大人の社会を見透かすことはない>>続きを読む

スリープ(1964年製作の映画)

4.7

誰かが眠る姿をこれほど見つめることは実人生の中でもほとんどない。それは恐らく生命の生死にかかわるような場合に立ち会うかどうかという体験だろうが、当然ウォーホルの映す人物はなにか生死の瀬戸際にいるわけで>>続きを読む

エンパイア(1964年製作の映画)

4.9

建築そのものは平面的には動いていないかに思えるが、光や人工的な技術(ヘリコプターなど)、あらゆる生物が周囲を行き来すれば、不動の建築に風が通い、生々しく空間が息衝く。これは当然ウォーホルに影響を受けて>>続きを読む

チェルシー・ガールズ(1965年製作の映画)

5.0

イタリア版のアンオフィシャルBOXを仕入れての鑑賞。
これは本当に凄い。ウォーホルの映画はポップアーティストというより、この即興で撮影したというホテルの人々の捉え方は現代アートの文脈で言えば「もの派」
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J.W.の腰つき(1997年製作の映画)

5.0

モンテイロの中でも最も難解な構造を取ってはいるものだと思うが、リヴェット的に現実と胡散臭い妄想を行き交いつつ、しかしリヴェット以上に詩的さをモンテイロに感じるとすれば、それはポルトガルのロケーションと>>続きを読む

シルヴェストレ(1981年製作の映画)

5.0

赤坂大輔が言うところのポルトガルの上演の映画の系譜に明らかに位置するが、書割と実際の自然のロケーションが全く等価なものとして今作は扱われている。また、民話が物語上大きなプロットの下になっているというの>>続きを読む

白雪姫(2000年製作の映画)

5.0

ドゥボールやデュラスの如き画面の黒みだが、音との緊張関係が映画そのものを活気づけられるかというスレスレの鬩ぎ合いがある。それにこの映画のなかでも画面は蔑ろにされているかというと当然ながらそんなわけはな>>続きを読む

神の結婚(1999年製作の映画)

5.0

俺はカトリックでもシュルレアリストでもないが、モンテイロのデウスとしての振る舞いやカメラと光の関係は現実を捻じ曲げるものではなく、寧ろ独裁政権後の(ファシズムの時代も過ぎた世界の)民主化された時代でも>>続きを読む

黄色い家の記憶(1989年製作の映画)

5.0

3回目

デウスの出世作ではあるが、人の神経を逆撫でするような変態というシュルレアリスム的なキャラではなく、エリッヒ・フォン・シュトロハイムに擬態し、シュトロハイムが偽った「フォン」を低所得者のモンテ
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姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う(2010年製作の映画)

4.0

非常に職人的な姿勢で撮影されてはいるが、夢と現実の境をなくしながら語られた物語がなんともこの映画のつかみどころをなくしていて、しかしそれこそ瓶詰めされた蚕のような時間の蓄積の物語があって、奇妙な印象を>>続きを読む

鯨の骨(2023年製作の映画)

4.4

大江崇允ほど、映画の根源的な形式を思考しながら一般的な娯楽映画を模索する作家はいない。
2000年以降の現代を描く上で停滞はある程度避けられないものだが、その停滞に対するケジメの付け方のほとんどが、停
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春画先生(2023年製作の映画)

4.0

近年の塩田明彦の中では見てられるが、春画の扱い方が単なるネタでしかないんだよな……。結局人間の情念の方に行ってしまうのが、甘えなんじゃないかと思う。
濱口竜介をはじめとして最近の映画を見てると、どうも
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映画が時代を写す時 侯孝賢とエドワード・ヤン(1993年製作の映画)

4.2

エドワード・ヤンと侯孝賢の対比的な描き方がひょっとするとヤンをアメリカナイズされた台湾人という印象を強めすぎてると思うし、実際是枝はそういう文脈でヤンを意識してるんだろうが、とはいえ2人のメイキング場>>続きを読む

アメリカの伯父さん(1980年製作の映画)

4.8

エドワード・ヤン回顧展の別会場@国家電影及視聴文化中心(TFAI)にて。

ヤンが影響を受けた映画10本として特別上映されていたものだが、確かに『恋愛時代』以降のヤンの作品に内容面でもスタイルも深い影
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追風(2007年製作の映画)

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臺北市立美術館「一一重構:楊德昌」回顧展 にて。未完のため採点不可。

以下、今回の大回顧展についての備忘録。

『クーリンチェ』の白色テロを描いた取調べの切り返しに始まり、台湾の政治情勢に翻弄される
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アギーレ/神の怒り(1972年製作の映画)

4.4

エドワード・ヤン回顧展へ向けて久しぶりに再見。ヘルツォークの文明批判の仕方には然程興味を持てずにいたが、この映画に関しては確かに中々いい。終盤にかけて演劇化していくような画面と音声の微妙なズレ(「この>>続きを読む

Likely Consequence(英題)(1992年製作の映画)

4.6

海外版ソフト特典にて。『恋愛時代』の下になった1組のカップルの喧騒を描いた舞台。セットなしに音の効果とパントマイムによって空間を構成するのは優れた舞台演出家ならば当然だが、一番面白かったのはカップルの>>続きを読む

ミレニアム・マンボ(2001年製作の映画)

4.2

ヴェンダースを経て現代の停滞を描いた映画はここから始まったかもという気がする。とはいえこの頃はまだ停滞をいっときのノスタルジーのように感じていたのかもしれないが、夕張のおでん屋を切り盛りするお婆ちゃん>>続きを読む

ちょっと吐くね(2023年製作の映画)

3.5

短編とはいえトイレを中心舞台にして撮ろうとする意気込みと、アングルとモンタージュの選択は他の入選作と比べてもちゃんとしていて悪くなかった。現代的な悩みを抱えた女の子の会話を生むシチュエーションの設計は>>続きを読む

ペットボトルロケットが飛んだら終わり(2023年製作の映画)

3.0

「ゴーイング・ゼロ」久しぶりに聴いたけどいい曲だな。室内のシーン、ヒロインの女の子をもっと別の眼差しから捉えて距離を取る方がきっともっと映画全体に楔を打ち込めたと思う。偶発的な『気狂いピエロ』を呼び起>>続きを読む

うらぼんえ(2023年製作の映画)

2.5

同じ映画祭の中で、またしても記憶の物語(しかもどれもが結局はローカルな個人史でしかない)を見せられ、自分と同世代の作り手の関心領域がどれも似通いすぎていてうんざり。この監督は造形面では多少見てられるが>>続きを読む

じゃ、また。(2023年製作の映画)

2.0

この作品に限った話ではないんだが、死者を不遇な現世の人間の慰めに位置づけることに倫理的な嫌らしさを感じる。見せ場になり得る場面を小手先の編集で見せてることも否めない。芝居演出について言うと、最初の幽霊>>続きを読む