冒頭、カラスの目に映る劇場の風景と、オペラのリハーサルに合いの手を入れ続けるカラスの鳴き声。プリマの女優がカラスにキレて劇場を去っていく様子を、大仰に、延々と主観ショット・ロングテイクで映し出した後>>続きを読む
どの役者を見ても濃い味付けの演技合戦が楽しい。荒木村重役の遠藤憲一の、素朴な、どもりがちの台詞回しが見事。彼が刀に刺さった饅頭に喰らいつくシーンは『アウトレイジ』の歯医者を思い起こさせる。そんな村重>>続きを読む
母からの電話を受けるペトラ・フォン・カント(マルギット・カルステンセン)が振り向く瞬間にカメラ目線のクローズアップとなり、「起きていたわ、本当よ」などと述べながら悪戯な笑みを浮かべる様を捉えると、彼>>続きを読む
モノローグ中心の語りの選択によって、濃密な闇に彩られた高品質な画は、主として主人公の所作の淡々とした積み重ねに徹することができる。これは殺し屋の物語に最適なスタイルで、メルヴィル的だというと褒めすぎ>>続きを読む
ヒロインを演じたリリー・グラッドストーンの、流し目と落ち着いたトーンの発話が生み出す妖艶さが観客を惹きつけるのだが、その後の壮絶な展開で彼女の顔が病んだ無表情で塗りつぶされていく様が痛々しい。
ヘ>>続きを読む
冒頭、圭介の「ビビってる女の子は映える」旨のセリフに、ホラー映画を彩ってきたスクリーム・クイーンという存在は、観客および作り手の暗い、加害的な欲望の視線の反映なのではないかという反省意識が感じられる>>続きを読む
夫婦喧嘩の最中、ニコール・キッドマンが体を折り曲げ、苦しそうにしながら迫真の笑い声を響かせた後、ふと、その横顔に恐るべき不敵な表情を浮かべながら、内心における裏切りについて語り始める。ゾッとするクロ>>続きを読む
物語はとりとめのないエピソードの連なりなのだが、夜には深い闇に包まれる日本の田舎町を美しく切り取るロングショット長回しを、疾走し踊り狂うジュブナイルの衝動で満たした画面を見ているだけで楽しい。ファー>>続きを読む
冒頭、素人配信者特有の痛々しさが中々リアルに出ていていいなと思っていたのだが、遥の演技だけは、どこか異質な、プロ的な演技で異物感をもたらしている。この違和感の正体は後に明らかになる。光が十分に差し込>>続きを読む
発掘現場にふと静寂が訪れた後、不気味な石像とメリン(マックス・フォン・シドー)が切り立った岩の上で対峙する様を側面から捉える特撮怪獣映画のようなカットによって、何かが起動したことをド派手に示す。あま>>続きを読む
時折複雑な影によって画面を彩りながら、奥行きを存分に活用(画面奥を通行する人物)しつつ、(複数の)人物を丁寧に額縁に収めていくような端正なカットが連続し、それらがアクション繋ぎによって流麗に結び付け>>続きを読む
スターリン政権下でこの異形のコメディが作られたという事実自体に驚きがあるな。冒頭から、口を開くと自動的に食べ物が浮かび上がって口内に入るチープな合成によって富める者を表現し、饅頭泥棒を試みた老人は煙>>続きを読む
双眼鏡越しの主観ショットの中で、カメラと主要人物の間をピンボケの人物に横切らせながらの人物紹介がお洒落。とりとめのない日常がひたすら続いていく映画ではあるのだが、緑豊かなロシアの夏を舞台としたジュブ>>続きを読む
『帽子箱を持った少女』『青い青い海』は比較的政治性の希薄なメロドラマという印象だったが、本作はソヴィエト映画らしくしっかりストライキからスタートする。工員たちが一人一人ストライキに同調していき、次第>>続きを読む
冒頭、ひとりでに開く椅子が不気味な映画館。サイレント映画期の、伴奏音楽の演奏者たちがいる映画館の風景を見せてもらえるのが嬉しい。この時代のソヴィエトの光景が記録されている映像を見ているだけで感慨深い>>続きを読む
水平線を画面の上部や下部に配置する面白い構図が散見される。『帽子箱を持った少女』でも地平線が高いショットがあったし、バルネットの手癖なのかもしれない。ドヴジェンコ『大地』、ロンム『一年の九日』等、ソ>>続きを読む
冒頭の鳥小屋のシーン、外部から差し込む強烈な光が少年を突き刺し、光の中で鳩が羽ばたく光景は神秘的ですらある。中盤にカラー映像としてこの空間が披露される際には、同じ光線に鳩の羽を透かす美しいイメージが>>続きを読む
農業大学の女学生との出会いのシーンの、豚を追いかけるスラップスティック・コメディーの後、列車を追いかけて線路を走り、俯瞰の超ロングショットの中で静かに線路上に座り込む二人を捉えるまでの流れ。出会いを>>続きを読む
雪原の地平線を画面上方に配置し、駅員の全力疾走を横から捉える超ロングショットから、彼が室内を一気に突っ切るショットへと繋ぐダイナミックな空間構築。続けて彼は線路上を疾走し、発進した列車を追いかける。>>続きを読む
プラスチックのゴミ箱を齧る少年と開幕早々の子殺し、クローネンバーグ印の人肉無生物としての蠢くベッドへとにじり寄るトラッキングショット。観客の興味を惹く掴みは流石。黒人警官との密談の場など、ノワールに>>続きを読む
複雑な群像劇をひっきりなしのダイアログによってノンストップに駆動しながらも、全ての瞬間で映像演出の強度を下げない驚愕の出来だった。『牯嶺街少年殺人事件』『ヤンヤン 夏の想い出』『恐怖分子』『台北スト>>続きを読む
ダグラス・サーク『天はすべて許し給う』が下敷きになっているようだが、年齢差の障壁を描きつつも、結局は美しいジェーン・ワイマンの配役で観客の需要との間で妥協していたサークに対し、本作はしっかりとガチガ>>続きを読む
神父が少年たちの足を洗い、祝福のキスをする直前に一気にズームインするカメラ。こんな局面にフェティシズムを持ち込むブニュエルは流石の罰当たり加減だなと思っていると、続いて横移動するカメラは参列者の足元>>続きを読む
ファーストシーン、奇妙な電子音に合わせて、暗いトンネルの中の水路を緑色に発光する乗り物が進んでいく光景を見せられて、何事かと思っていると、冗談のような陰謀の空間に辿り着く。全世界のタブロイド紙の担当>>続きを読む
ローアングルのロングショットの中を真っ赤な衣装に身を包んで画面奥へと進んでいくヒロインと入れ違いに、画面手前に向かってくる男が台車に飛び乗り横転するカット、ガラス窓に手を付けて向こう側を覗き込むヒロ>>続きを読む
オマージュというよりはパロディーの領域である『2001年宇宙の旅』の引用によって、女性に対するエンパワーメント、新時代の幕開けを企図したバービー人形の誕生を描き出した直後、バービーランドの鏡世界であ>>続きを読む
開幕早々壁が爆破され、破壊された壁の穴の向こうの誓いの言葉が映し出される。素晴らしい掴みだ。小難しい言葉で語られがちなファスビンダーだが、やはりしっかりエンターテイナーだと思う。
タバコに異常な反>>続きを読む
活動弁士付き上映。上映トラブルで冒頭10分ぐらいがやり直しになったのだが、弁士の方が発するセリフが変わっていて、台詞中にアドリブ部分があるのか、あるいは同じものを2回見せるわけにはいかないというプロ>>続きを読む
以前『奇跡の海』を見て、強烈な印象を受けたものの、その撮影スタイルが生理的に合わない上に、そもそも映画を見て何でこんな気分にならなくてはいけないのかと思って以降苦手意識があったトリアーだが、まあ本作>>続きを読む
この詩的なカットの連なりを眺めていると、もっと良い画質で見てみたいという思いは禁じ得ない。シネフィルが極まった人たちは、サイレント映画の画質は心の眼で補完できるものなのだろうか。
不気味かつ静謐な>>続きを読む
アニメーション的な嘘の頭身の老婆たちの蠢き、躍動する弾力的な自動車、丸々太った魚を飲み込む青鷺の体の変形を眺めながら、宮崎アニメの新作を映画館で見ているんだなあと実感。千と千尋の導入部のように、気づ>>続きを読む
鑑賞本数を重ねるほどに、映画は最初の10分で質が分かってしまうという説が裏付けられていくように思う今日この頃だが、本作は久しぶりにそれを裏切られた。冒頭は、情報伝達の道具に堕したカット割りを眺めつつ>>続きを読む
冒頭、我が子と会話をする安藤サクラが登場した瞬間に、そのナチュラルな台詞回しとリアルな存在感は得難い才能だなと感心する。この人が画面内にいるだけで映画の求心力が上がる。
職員室のシーン、同じ角度に>>続きを読む
スピルバーグ作品で大作に相応しい名メインテーマを奏でるようになる前のジョン・ウィリアムズによる小洒落た劇伴が流れる中で、主人公の猫との生活を流麗なズーム、トラッキングで切り出していくカメラワーク。窓>>続きを読む
極限まで上品なお顔の持ち主であるオードリー・ヘプバーンをヒロインに据えながら、表情、挙動とりわけ大口を開けて繰り出される奇声によって、ヒロインをここまで下品にできるのかと感心した。それ自体が「実験」>>続きを読む
初登場からしばらくの間は、ひたすら美しい真顔を晒し続けるだけで一言も発しないアン・シャーリー。デュークに自首をさせることに反対する“No!!!”の唐突な第一声によって、少々不気味なその沈黙を破らせる>>続きを読む