本作はミステリーとしての外皮を纏っているかもしれないが、その実はアンチミステリーと言っても過言ではない。
ミステリーとは謎を解明し真実を明らかにするものだが、本作では真実という幻影が眼前で幾度となく姿>>続きを読む
本作は「バービー」同様、支配下に置かれていた被造物(実験体・玩具)が社会やジェンダー構造という檻の中で、何人たりとも私を所有・支配できないという事を高らかに宣言する。
女性を所有物として扱う男性中心社>>続きを読む
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現代の若者たちが抱える、不安感、心許なさ、孤独、空虚さ。
そうした心理描写に加え、狂騒的で危険を孕んだ憑依ゲームがSNSで拡散する様や、そうした「ノリ」に乗っからないとコミュニティから排除されてしまう>>続きを読む
デビッド・フィンチャー作品史上最も自己言及的側面が強い作品である。
殺し屋の復讐劇という一見シンプルな物語だが、その実フィンチャー自身の仕事術が描かれているのだ。
計画通りに。即興はするな。誰も信じ>>続きを読む
スコセッシは悪を決して美化しない。
保身と金の執着という、たったそれだけのために倫理の道を踏み外す浅はかで愚かな人物を淡々と描き、悪のちっぽけさ情けなさを浮き彫りにする。
また本作「キラーズ・オブ・ザ>>続きを読む
「ONCE ダブリンの街角で」のジョン•カーニーが7年ぶりに帰ってきた。音楽の素晴らしさと尊さを高らかに宣言すると同時に、不器用であろうと不格好であろうと人生は捨てたものじゃない、と私たちを優しく励ま>>続きを読む
あのグレタ・ガーウィグがバービー人形を映画化。
と聞いて、当時私は一抹の不安を覚えた。
バービー人形を題材とするのであれば、エンタメ性の高い作品を求められるのは必須。
老若男女問わず幅広い客層に受け入>>続きを読む
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異端(アノマリー)による正典(カノン)への挑戦を描いた本作は、スーパーヒーローの存在意義を再定義し、スパイダーマンという物語からの逸脱を試みる。
「運命なんてブッつぶせ。」というキャッチコピーが表して>>続きを読む
監督サラ・ポーリーが述べていたように、本作は決して男性性を糾弾する映画ではない。個人的には、あまりにも惨く酷すぎる行為に及んだ男性に対して、糾弾どころかもっと直接的な復讐を行ってほしいと感じたものの、>>続きを読む
11歳の少女•ソフィとその父•カラム。
本作は彼らのひと夏を通して、父と娘の関係性や親子の普遍的なドラマを描くにとどまらず、曖昧模糊とした記憶と今現在の感情とが結びつくその瞬間を見事に表現しきっている>>続きを読む
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TAR
本作は主人公リディア・ターが自他共にコントロール(支配)できなくなっていく過程を描くことで、権威主義の問題の本質を浮き彫りにしていく。緻密な作りであると同時に解釈の余白も多分に存在している>>続きを読む
善と悪、精神と肉体、肯定と否定、そして希望と絶望。
こうした二項対立の概念には、時と場合に応じてどちらかが正しくどちらかが間違いであると判断される。
しかし本当はこれらに正解や間違いなど存在せず、私た>>続きを読む
「ファーザー」で鮮烈な監督デビューを飾ったフローリアン•ゼレール。
そんな彼が長編二作目として選んだのは、自身の舞台作「Le Fils 息子」だ。
映像を巧みに操り、アンソニー•ホプキンス演じる認知>>続きを読む
本作は荒唐無稽なSFアクションを梱包材としつつ、人生の混沌さとそれにより生じる後悔や絶望に対し、どう立ち向かうべきかを描いていく。
このように書くと哲学的で堅苦しくとっつきづらいと感じられるかもしれな>>続きを読む
現代社会への痛烈な風刺をきかせたブラックコメディである本作は、権威や立場といった虚飾を引き剥がし人間の心理を炙り出す。
シニカルかつ鋭利な洞察力で描かれる登場人物達を前に、我々観客は笑ってしまうと同時>>続きを読む
理想の人生とは人それぞれ千差万別で、そこに優劣やどちらが正しいなどは本来存在しないはず。
だが人々は自身と異なる人生観や価値観を簡単には受け入れない。
それどころか相手の人生観や価値観を拒絶し否定する>>続きを読む
ベテラン灯台守のウェイクは新人ウィンズローに家事や雑務ばかりを押し付け、自身は灯台の頂上を占領する。
毎日毎日重いドラム缶を頂上まで階段で運ぶ作業(「シーシュポスの神話」を彷彿したのは私だけではないは>>続きを読む
ハーヴェイ•ワインスタインによる性犯罪の実態を明らかにするため、奔走する2人の記者。
調査を進めるにつれ次第に明らかになっていくのは、被害者を守るのではなく加害者を守るために法のシステムが存在するとい>>続きを読む
聖夜で幕を開ける本作。
羊が登場するということも相まって、キリスト教モチーフの作品かな?と思い観ているとどうやらそれだけじゃないということが分かってくる。
もちろん、アダやマリアというキャラクター名が>>続きを読む
「スターウォーズ 最後のジェダイ」ではスターウォーズシリーズの神話を覆そうと試み、前作「ナイブズ•アウト」では王道ミステリーをなぞりながらもサスペンススリラーやブラックコメディといったジャンルを組み合>>続きを読む
"未知の映像体験"や"圧倒的没入感"という謳い文句が散見される本作だが、その言葉は決して誇張表現ではない。
海に魅せられたあのジェームズ•キャメロンがタイトルに「ウェイ•オブ•ウォーター」と付ける程な>>続きを読む
世界的に有名な精神科医であるフィル•スタッツ。
彼が編み出した「ツール」と呼ばれるメソッドをより多くの人に知って欲しいと、俳優であり彼のクライアントでもあるジョナ•ヒルがメガホンを取った。
そうして生>>続きを読む
肥大化し続ける消費者を辛辣に風刺した本作。
孤島のレストランが舞台となっているものの客の目的は美味しい料理を食すことではなく、自身の虚栄心を満たすこと、つまり有名な店に行ったことがあるのだというステー>>続きを読む
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監督デビュー作となる「ブックスマート」で青春映画の新たな金字塔を打ち立てた、オリヴィア•ワイルド。
そんな彼女の監督2作目は、女性の生きづらさ•息苦しさ•抑圧が徹底的に描かれており、「プロミシング•ヤ>>続きを読む
「デヴィッド•O•ラッセルの7年ぶりの新作」、「豪華キャスト勢揃い」等の文言には全く心動かされなかったものの、クリスチャン•ベール、ロバート•デ•ニーロを筆頭に個人的に好きな俳優が勢揃いしているため一>>続きを読む
人気スパイシリーズの前日譚となる本作は、シリーズの特徴となるシリアスさを無視した楽しいアクションやシニカルで荒唐無稽なコメディタッチを封印しており、過去作とは一線を画す。
(歴史大作を制作したい、とい>>続きを読む
喪失と向き合い、受容する。
その過程をジャン=マルク•ヴァレは丁寧に、繊細に、美しく紡いでいく。
「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」でもそうだが、彼の手がける作品では過去への回想やフラッシュバッ>>続きを読む
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これまで幾度となく家族の絆を描いてきたディズニーやピクサーだが、本作ではそんな家族が主人公•ミゲルの夢を阻む存在として描かれる。
古くからの伝統や仕来り、家族間の暗黙の了解や価値観。
それらがミゲルの>>続きを読む
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本作を手掛けたジョーダン•ピールといえば、
「ゲット•アウト」で人種差別を描き、「アス」で格差社会を描いてきた。
そんな彼が本作で描いたのは、映画業界、エンタメ業界による搾取。
つまり本作は「映画」に>>続きを読む
ミュージカル映画は苦手だが、音楽映画は大好き。
そんな私だからこそ、ジョン•カーニー監督の音楽に対する溢れんばかりの愛とリスペクトにとても共感してしまう。
どれだけ落ち込んでいようとも、どれだけ気怠>>続きを読む
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信じるということの不安定さ、不確かさ、曖昧さを描いた「哭声」。
登場人物同様我々観客をも試すかのような信仰テスト的描写の数々と、常に予想を裏切り私たちをも疑心暗鬼に陥らせるストーリー展開に心奪われた。>>続きを読む
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何をしようとも繰り返される同じ1日。
タイムループものと呼ばれるその設定は、これまで数多くの作品で使われてきた。
しかし本作ほどその設定と作品の主題がこうも見事に噛み合っている作品はそう多くない。>>続きを読む
人生は選択の連続。
より良い未来のためには、正しい選択を下さなければならない。
でも、そもそも正しい選択って何?
より良い未来って何?
そんな漠然とした疑問は、まるで自分自身が人生の脇役にしかすぎな>>続きを読む
これまで誰からも対等に扱われてこなかったザック。
兄の面影を拭いきれず、厭世的な気分で日々を送るタイラー。
彼ら二人が互いの存在によって次第に前向きになっていく展開はベタではあるものの、俳優たちの見事>>続きを読む
匿名性を保持するという目的のため、アニメという映像表現が選択されて本作。
しかし本作はれっきとしたドキュメンタリーである。
アニメという非現実的な映像表現が用いられているにも関わらず、アミンの語る物語>>続きを読む
本作の主人公フォーク歌手のルーウィンは、やることなすこと全てが空回り。
友人のペットを逃してしまう、女友達を妊娠させてしまう、相方を失ってしまう等、どれか一つを取ってもかなりヘビーな事態なのに、そうい>>続きを読む