ハルさんの映画レビュー・感想・評価

ハル

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PERFECT DAYS(2023年製作の映画)

4.2

木が風に揺れる時に見える光と影のゆらぎを、日本では木漏れ日と呼んでいる。掃除人の平山は、木漏れ日の写真を飽かずに撮り続ける。あたかも、同じように見える風景の中から、二度と訪れることのない瞬間を、切り取>>続きを読む

ゴースト・ドッグ(1999年製作の映画)

3.9

ジム・ジャームッシュの映画は、音楽に例えるなら、通常とははずれたところに拍があって、しかも、そのことによって旋律が破綻しているわけではない。リズムをわざと外すことで生まれる独特の空気感が見る者を心地良>>続きを読む

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)

3.8

「クライ・マッチョ」のある場面を観て、30年前の傑作、「許されざる者」を思い出した。

「許されざる者」でクリント・イーストウッドが試みたのは、西部劇の解体であった。西部劇にはカッコいいガンマンが登場
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ファーザー(2020年製作の映画)

4.0

認知症をテーマにした映画を撮る時、普通なら第三者の視点で描きそうなものだけれど、この映画の場合、認知症患者の頭の中がどうなっているのかを、認知症患者の視点から描いている。認知症の人は記憶が混乱していて>>続きを読む

アラビアのロレンス(1962年製作の映画)

-

第一次大戦時、オスマントルコの支配からアラビアを解放に導いたイギリス軍将校がいた。英雄と祭り上げられた彼は果たしてどんな人物だったのか? その実像に迫る歴史スペクタル巨編である。

4時間近くもある作
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ノマドランド(2020年製作の映画)

4.5

一つの企業が倒産すると、当然のことながら、企業城下町はなくなってしまう。リーマンショック後のアメリカでは、そのような現象が次々と起こった。職にあぶれた労働者(主に60歳以上の高齢者)は車上生活を余儀な>>続きを読む

女が階段を上る時(1960年製作の映画)

4.2

昭和30年代の夜の銀座が舞台である。クラブの雇われママを、往年の大女優・高峰秀子が演じている。女は主人に先立たれて以来、決して他の男に身体を許すまいと、頑なに貞操を守ってきたが、夜毎銀座を訪れる男たち>>続きを読む

Mank/マンク(2020年製作の映画)

4.0

「市民ケーン」は、実在の新聞王ウィリアム・ハーストをモデルにして作られており、アメリカンドリームの本質を突いた内容になっている。本作はアカデミー賞9部門にノミネートされたが、ハースト本人がその内容に抗>>続きを読む

すばらしき世界(2021年製作の映画)

4.5

この監督は5年に一回くらいのペースで新作を撮っている。じっくり時間をかけて題材を選び、丁寧に撮るので、必然的に傑作が生まれる。今回の新作も当たりだった。

「すばらしき世界」というタイトルには生きづら
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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2019年製作の映画)

4.0

仮に「四姉妹モノ」というジャンルが存在するならば、オルコットの「若草物語」は、アメリカのみならず、世界中の人々を魅了した作品として、いついつまでも語り継がれるにちがいない。実際問題として、これまでに多>>続きを読む

サムライ(1967年製作の映画)

3.9

このレビューはネタバレを含みます

孤独な殺し屋の矜持を描いたフレンチフィルムノワールの傑作。

モノトーンの配色も手伝って、全体的に冷たくて乾いた印象がある。淡々としているが、警察と依頼主の双方から追い詰められる、スリリングな展開には
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彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド(2018年製作の映画)

4.0

第一次世界大戦のドキュメンタリー作品。100年前のモノクロ映像に色を施し、さらに兵士たちのインタビュー音声をまじえて、映画としたものである。

16、7のまだ年端もいかぬ少年たちは、年齢を偽ってまで兵
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ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)

4.0

あるコメディアンのギャグに「惚れてまうやろ」というフレーズがあるが、この作品は、「惚れてまうやろ」ならぬ「泣いてまうやろ」の映画である。

戦争を正面から描いていて、しかも、ナチス視点の物語なのに、何
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フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)

4.0

1966年ル・マン24時間耐久レースを基にした実録カーレース映画である。

ヘンリー・フォードを創始者として、アメリカ自動車産業の黎明期を支えたフォードも、60年代に差し掛かると、次第にその勢いに翳り
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家族を想うとき(2019年製作の映画)

4.0

「麦の穂をゆらす風」や「わたしは、ダニエル・ブレイク」をご覧になれば分かるように、ケン・ローチは、弱者のための映画を撮る人である。彼の映画を観ていると、「面白い」という感想よりも、まず、「つらい」、「>>続きを読む

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)

4.0

ノア・バームバックの「マリッジ・ストーリー」を観た。

予備知識なしに観たので、タイトルが「マリッジ・ストーリー」なのにどうして離婚の話になっているのかと最初は思ったけど、本当はその逆で、離婚の話にな
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アイリッシュマン(2019年製作の映画)

5.0

3時間30分は映画の上映時間としては長いかもしれないけど、一人の人間の人生を凝縮したものとして見れば、案外短く感じられるのではないかと思う。

今作「アイリッシュマン」は、闇に葬られたアメリカ裏社会の
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沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)

4.0

遠藤周作の「沈黙」を読んだのは、高校の頃だった。遠藤氏が「神の沈黙」という永遠の主題に切り込んだその作品は、高校生の幼い感性には、残酷な物語としか映らなかった。

日本人のキリシタンたちが拷問の責苦に
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ある船頭の話(2019年製作の映画)

4.0

一艘の舟が山河を縫って水面の上を揺蕩う。櫂を操るのは、一人の年老いた船頭である。船頭は、村人たちを、岸から岸まで渡す役を担っている。だが、それも、長くは続きそうにない。桃源郷の如き山紫水明の風景は合わ>>続きを読む

ジョーカー(2019年製作の映画)

5.0

心優しき青年がジョーカーへと変貌していく経緯を描いたアメリカの犯罪映画、サイコスリラー。ストーリーは、テッド・フィリップス監督による完全オリジナルである。

この映画は色んな映画の良いところを寄せ集め
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荒野の誓い(2017年製作の映画)

4.0

時は1892年のアメリカ。大陸間横断鉄道が敷設され、長かった開拓時代も終わりを迎えようとしている。滅びゆく西部に、やがて、時代とともに忘れ去られるであろう軍人の姿が重なり、贖罪と多くの喪失を伴った物語>>続きを読む

永遠に僕のもの(2018年製作の映画)

3.8

巷では、「アンパンマンのアンパンチを見た子供が暴力的になるのではないか」という論争が起こっていて、そこに例の高速煽り運転の問題も絡み、「躾と教育」、「正義と悪について」を真剣に考える良い機会になってい>>続きを読む

ワイルドライフ(2018年製作の映画)

4.0

舞台は60年代のアメリカ。カナダの国境に近いモンタナ州の田舎町に、3人の親子が暮らしている。14歳のジョーは、勉強ができるうえアメフトにも勤しむ、文武に秀でた少年だ。父親はゴルフ場でインストラクターと>>続きを読む

アマンダと僕(2018年製作の映画)

4.0

愛する者と幸福を分かち合う、穏やかな日々が、未来永劫続いていく保証など、どこにもない。平穏は、ある日、突然に崩れ去るときがある。事故によって、あるいは、テロによって、また、あるいは、戦火によって。私た>>続きを読む

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)

4.0

殺人者の告白ほど、不愉快で吐き気を催すものはない。これまで数々の告白を受けたであろうヴァージルも、「彼」の告白には、反キリスト的な印象を持たざるを得なかった。

この物語は、「彼」こと殺人鬼ジャックと
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スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(2019年製作の映画)

4.0

「エンドゲーム」直後の世界。

アベンジャーズと多くのヒーローたちの活躍により平和が訪れたが、サノスの指パッチンの影響で多くの人々が存在を消され時間を失われたために、世界にはちょっとした混乱が起きてし
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パピヨン(2017年製作の映画)

3.6

1973年版のオリジナルを観たあとでリメイクを観るのと、オリジナルを観ないでリメイクだけ観るのとでは、当然ながら、受け取る印象が変わってくる。前者は、どうしてもオリジナルと比べながら見るので、少なから>>続きを読む

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(2019年製作の映画)

4.0

伊福部昭のマーチに乗って「王」が降臨したとき、私の心は少年時代に遡行した。

悪鬼の如き形相で辺りを睨め回し、街を破壊し尽くす怪獣は、少年の心を歓喜させながら、同時に恐怖をも植えつけた。

そうした、
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僕たちは希望という名の列車に乗った(2018年製作の映画)

4.0

1956年、東欧の社会主義国・ハンガリーで、一つの異変が起こった。

ソ連の圧政に耐えかねた民衆が全国規模で暴動を起こしたのである。事態を重く見たソ連当局は直ちに軍を派遣して鎮圧に当たり、そのために多
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ウィーアーリトルゾンビーズ(2019年製作の映画)

3.7

「両親を失いゾンビのように生きてきた
4人の少年少女が、音楽に出会って成長していく」

その手の単純な映画でないことだけは確かである。

子供たちが置かれた境遇は暗くて重い。

ある者は交通事故で両親
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キングスマン(2015年製作の映画)

4.0

ロンドンのサヴィル・ロウ通りは、背広の語源となっただけあって、高級紳士服店が櫛比している。その一角に、表向きは高級テイラーだが実態はどこの世界機関にも属さない、世界最強のスパイ機関「キングスマン」のア>>続きを読む

幸福なラザロ(2018年製作の映画)

3.9

「聖書」の中にキリストの奇跡によって甦った聖人ラザロのエピソードがある。ドストエフスキーが「罪と罰」の中で触れたように、キリストは、ラザロを甦らせることによって、人類全体の罪を購おうとしたフシがある。>>続きを読む

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)

4.0

アメリカ・ケンタッキー州を舞台に、4人の大学生が大学図書館所蔵のヴィンテージ本を強奪する話である。コピーが示すとおり、「事実に基づいた物語」ではなく、「真実の物語」である。実際の犯人を本編に登場させ、>>続きを読む

オーヴァーロード(2018年製作の映画)

4.0

ありあわせの材料でご飯を作ったら、高級料亭並みの一品ができた。一言で言うと、そんな感じの作品である。

ナチスと人体実験の取り合わせからは、ゴミのような映画しか生まれない。しかるに、この作品は、一見B
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ある少年の告白(2018年製作の映画)

3.8

キリスト教福音派に代表される極端な信仰は、個人の自由を抑圧する方向で機能している。その中で、離婚、中絶、同性愛などは、神の愛に対する冒涜だとして、徹底的に否定される。ことに同性愛は、精神疾患と見做され>>続きを読む

ドント・ウォーリー(2018年製作の映画)

3.7

かつて、ジョン・キャラハンという風刺漫画家がいた。彼の描く、滑稽な、それでいて、過激な漫画は、掲載されるたびに誌上を賑わせ、多くの賛否を集めた。これに注目した男がいる。

俳優の故・ロビン・ウィリアム
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