「ミクロからマクロまで」を音と映像で、画面の奥行きに幾つものドラマが星座のように輝く傑作。
上白石萌音さんの「音」の宇宙、16ミリフィルムに煌めく松村北斗さんの美しさよ。
あの人が泣いた理由とか、>>続きを読む
女と男がいて、2人の間に花が咲いていてそこにロックンロールが鳴り響いて、画面の奥の名も無い人々にもそれぞれのドラマが感じられて、かわいいワンちゃんが幸せを呼び込んで2度のキスがかわされて、そして映画史>>続きを読む
「知っている、じゃダメなの!見て感じてほしかったのに…」
夜が明けて朝が来る、その間の数十秒の静謐さを体感してほしかったのに、無粋なバイクの音に邪魔されてしまったことが悔しくて泣いてしまう少女レネット>>続きを読む
ピアノとアルト・サックスが奏でる旋律に、シャンパンの泡が弾けてメロドラマが始まる。
芳醇な映像、セリフ、美男美女、占領地アフリカの太陽、五月蝿く飛ぶハエ、銃声…。バロック、マニエリスムの名手ダニエル>>続きを読む
フリッツ・ラングの無駄のない、キビキビした語り口を堪能。そのなかでシグネチャーである「S」の烙印に代表されるケレン味、単純な善悪ではない人間の複雑さを垣間見せる。
「男だろ」
「花の名前を知ってると女の子にモテないよ」
「男らしく握手しろ」
「綺麗なお嫁さんと結婚するまではちゃんと育てる」
いくつも大人たちから投げつけられる言葉と態度に、そしてその大人たちを観>>続きを読む
劇場映画3作目『イゴールの約束』以降、ほぼ3年間に1本のペースで新作を発表し続けながら70歳を迎えたダルデンヌ兄弟は、いよいよ黒澤明がベルイマンへ贈った手紙にあった…「人は最盛期から老齢期を経過し、も>>続きを読む
開巻、仄暗いリビングに置かれた丸い小さな鏡に、楽しそうに揺れる人影が映っている。慎ましやかな音楽の波長と合わせて徐々にカメラがズームアップしていくと、どうやらアジア系の家族が3人、マイクを握り歌ってい>>続きを読む
家族とは呪いである、なんて常套句をまさかスピルバーグの新作で使うとは…と思ったのだけれど、考えてみれば彼の最高傑作『宇宙戦争』は子供を守るために赤の他人を手にかける父親=アメリカ合衆国を当時サイエント>>続きを読む
2020年秋、プーチンのウクライナ侵攻前にイギリスと合作された、25分間の短編ドキュメンタリー。
北極圏、シベリアの10月…にしてはそれほど寒さが伝わってこない、名作『ドクトル・ジバゴ』『ひまわり』>>続きを読む
「無闇にマンガを映画化するな」のマニフェスト通り、田島列島さんの原作から取捨選択、哲学的探求描写と探偵モノ描写を抑えて「継承する」という『蒼氓』なテーマをしっかり描くことに照準を絞り、夏休みアイドル映>>続きを読む
『サイコ』では不吉なことはいつも二度くりかえされる
ー加藤幹郎『サイコアナリシス』
「いつも同じことを二度くりかえす」、亡き父親フィリップ・シーモアを反復したかのような、「1973年のLAの道端にい>>続きを読む
田舎の非人道的因習全部盛りの生活を、ただただ映画的運動の美しさで描く。テクニカラーで映えるイニスフリーの緑、モーリン・オハラの赤。列車、馬、人間の運動がその色彩のなかで起こることで生まれる肯定感がただ>>続きを読む
緊迫したアクション・シーンで子供が飽きた無表情だったりする演出の下手さ。だったら使わなきゃいいのに…。
フィービー・ウォーラー=ブリッジによる"FLEABAG"感も絶望的にミスマッチ。ぜひ彼女にはハ>>続きを読む
ワイルダー『情婦』ばりのギャグに膝を打ちつつ97分間が軽やかに過ぎた後、観客は「映画ってのはこれくらいでいいんだよ」という思いに駆られる。知的でユーモアがあって、適度な皮肉と人生の残酷さがスマートに描>>続きを読む
「この世界の先輩として助言させてもらうね」
そう前置きしたベテラン・エージェントはこう言って、電話口でその瞳に焔をともす。50年以上のキャリアを舞台、テレビ、映画で重ねてきたジュディス・ライトの、思>>続きを読む
歌舞伎のお披露目、一世一代の晴れ舞台。道頓堀川の船の上に立つ稀代の女形役者花柳章太郎演じる菊五郎が、涙をこらえて聴衆に手を振る。その賑やかな囃子を聴きながら、静かに微笑む森赫子演じるお徳の姿がカットバ>>続きを読む
雨でぬかるんだ道路に、引っ越しトラックのタイヤがめり込んでしまう。動かないトラック、空回るタイヤ。それが映画中盤過ぎ、会社の上司の前で懸命に戯けてみせることで子供たちの失望を誘う、父親の姿として反復さ>>続きを読む
ピナ・パウシュ、カエターノ・ベローゾ、ジェラルディン・チャップリン。今作に先駆けられた「女性賛歌三部作」一作目の前作『オール・アバウト・マイ・マザー』でマドリッドから世界中に名声を轟かせたペドロ・アル>>続きを読む
パウラ・ベーアは水辺が似合う俳優だ。クリスティアン・ペッツォルトの前作『未来を乗り換えた男』では開け放たれた窓から見えるマルセイユの海の青と彼女が纏うドレスの赤が鮮やかで、出世作のフランソワ・オゾン『>>続きを読む
哀川翔をクリント・イーストウッドに見立て、狂気のレザーフェイス家と対決させたシリーズ第1作『運命の訪問者』。高橋洋脚本によるホラー要素と復讐ものの正攻法を踏まえたストーリーから、続いて撮られた今作『消>>続きを読む
男は女の幻影を追いかける。だけどそれはいつからだろう。最初から?
赤いドレスに身を包んだパウラ・ベーアが、忙しなく現れては消えていく。誰かを探している様子だけれど、そのジャンヌ・モローを思わせる瞳に>>続きを読む
観終わった頭の中にMr.Children『Not Found』が流れる。「愛するって奥が深いんだなぁ。。」
実際にエンディング・テーマがMr.Childrenだった『リアル 完全なる首長竜の日』にス>>続きを読む
「確信を持って光の中に立っている。それを映せば映画になる」
「何かに突き進む若い女性を描きたくなる。これは我々の年齢の映画作家の病いのひとつ」
ペドロ・コスタとのトーク・ショーで黒沢清監督が語っていた>>続きを読む
故郷レスターの街のように手堅く機能的に、巡ってきた脚本から魅力を十二分に引き出す1941年生まれの円熟の名手、スティーブン・フリアースの2015年作。この前作がジュディ・デンチとスティーヴ・クーガン主>>続きを読む
“people may say i couldn’t sing, but no one can say i didn’t sing”。「sing」を「live」にしてみよう。「私のことを上手に生きられ>>続きを読む
バックステージ物の縦軸に『暗黒街の顔役』、『サンセット大通り』、『サリヴァンの旅』を絶妙なバランスで絡ませる手際の見事さ。ウディ・アレンの映画愛と技術が炸裂する。
音楽もやはり格別、特に殺しのシーク>>続きを読む
どちらに向かって走っているのか判らないラスト。宙ぶらりんの中で、観客は置いていかれた子どものように立ちすくむが、不思議と柔らかい気持ちが残る。
デビュー作『アンビリーバブル・トゥルース』から一貫する>>続きを読む
「クリエイトを続けよう。君の実家の裏庭は、世界と繋がっているんだ」
ケンドリック・ラマー
灰色の空の下、黒いスーツ、黒いシャツの美しい男性がヒッチハイクをしている。停まった車。
「神父さんですか?>>続きを読む
観賞後、思わずギターを手に取って、ハル・ハートリー自らが作曲して爪弾いたアルペジオ・フレーズをコピーしたくなる。ラスト・シーン、力強く二本足で地球の隅っこに立つエイドリアン・シェリーに吹く向かい風を、>>続きを読む
80sのNY、アメリカ東海岸のクールネスを象徴するような灰色のコンクリートに浮かぶ手書き黒字のクレジット。やがて白いスニーカーが現れて歩き出し、ラジカセが置かれる。プレイボタンが押されルト流れ出したの>>続きを読む
「すわ首吊りか!?」と思わせる、ギシギシ音を立てて揺れるブーツのアップ。カメラが引くと、ただの靴屋の看板。そんなブラック・ユーモアなカットで始まる『ホブスンの婿選び』はデヴィッド・リーンが『旅情』『戦>>続きを読む
メラニー・ロランはマイク・ミルズ『人生はビギナーズ』、ドゥニ・ヴィルヌーヴ『複製された男』のような静謐な演出が合う、素晴らしい存在感を発揮する俳優だと思っていた。カラフルさより、夜のモノクロや灰色がか>>続きを読む
エフェクトを駆使した映像はとても美しく技巧的。『オルフェ』を下敷きに「芸術とは何か」を考えさせてくれるストーリー構成も冴えと練りを感じさせるし、セリーヌ・シアマ監督の元パートナーであるアデル・エネルと>>続きを読む
遠景の美しい風景。そのなかで笑い、泣き、生きて恋してやがて死んでいく人間たちのクローズ・アップ。デヴィッド・リーンはいつだって悲喜劇のドラマ、つまり人生を描く。
「太陽の下へ出掛けよう。何度だって、>>続きを読む
結婚したくないカメラマンが、恋人からの求婚をかわすために向かいの家の殺人事件をでっち上げる。
そんなヒッチコック『裏窓』の、映画研究者にとっては通説になっている真のストーリーをベースにしたベストセラ>>続きを読む