シズヲ

モノノ怪のシズヲのレビュー・感想・評価

モノノ怪(2007年製作のアニメ)
4.7
人の情念が生む怪異“モノノ怪”と彼らを斬る“薬売り”が織り成す怪談。ホラーやサスペンス、時代劇をベースにしながらも、モノノ怪の設定のおかげでドラマ的情緒もかなり強い。プロトタイプ版の『怪~ayakashi~』の『化猫』編からほぼ地続きの作品で、薬売りのキャラや演出面などの差異を比較してみるのも面白い。というか話の骨子の分かり易さや退魔の剣を抜いた後の描写の明確さを考えれば、寧ろあちらを先に把握するのも良いかもしれない。

和の趣を印象付けるビジュアルの秀逸さにまず圧倒される。浮世絵、水墨画、屏風絵など、エピソードによって基調となる美術設定が変化するのが面白い。おかげで視覚的な感動が常に持続しているし、その挑戦的な試みを毎度外さないのも凄い。背景美術としっかり噛み合っている登場人物らの戯画的なデザインも良い。中でも主役である“薬売り”は奇抜なビジュアルの登場人物が多い上でなお浮世離れした存在感があるし、櫻井孝宏の好演も相俟ってミステリアスかつ神秘的なキャラクター性が確立されている。

「モノノ怪を斬るためには“そのモノノ怪は如何なる存在であり、如何なる心理によって生まれたのか”を知る必要がある」という設定も秀逸で、“怪異と結びついてしまった人間の悲哀や業”を掘り下げることにドラマ的な必然性が生まれている。儘ならぬ情念や悲哀によって怪異と結び付いた人間の有り様が、視覚と情緒の両面によって端的に描かれる。決して多くを物語らず、苦さと美しさの入り混じったような余韻を残す作風がとても味わい深い。エピソードで言えば『のっぺらぼう』が特に好き。そして情感のみならず、時にホラー性や不条理性をがっつり際立たせてくるのも刺激的で良い。独特の空気感を生み出す“間”の使い方、背景美術を効果的に魅せるカメラワークの数々も本作の演出として際立っている。

『怪~ayakashi~』の頃から一貫して“犠牲になる女性/抑圧される女性”をすごく自覚的に描いている印象。“望まれぬ子を孕んで放逐された妊婦”と“女郎の日常的な堕胎”が真っ先に題材となる辺りが本作の肝というか、一種のドラマ的な方向性のように感じる。本作は究極的に言えば、女性が骨子の物語だと思う。そこから外れる『鵺』だけは純粋な不条理ホラーと化しているのが何だか面白い(モノノ怪版『化猫』も大分ホラー&サスペンス色強いけどね)。
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