ウシュアイア

月がきれいのウシュアイアのレビュー・感想・評価

月がきれい(2017年製作のアニメ)
3.3
純文学の小説家を夢見る文芸部の小太郎と陸上部のエーススプリンター茜は中学3年で初めて同じクラスになり、それぞれの家族で出かけたファミレスでばったり会ってしまい、それを機にクラスでは話せないものの、お互いを意識し合い、体育祭で同じ用具係になったのをきっかけにLINEで話すようになり、二人は付き合い始める。


原作なしの完全アニメオリジナルの中学生のラブロマンス作品。

作風としてはお互いの気持ちをうまく言葉に表せない「じれったい系」の『Just Becaouse!』や『イエスタディをうたって』に近いものはあるものの、展開はむしろ陰キャラ男子とクラスで人気者女子が秘密を共有してあっさりと付き合い始めてしまう『ホリミヤ』に近い。

テーマはずばり「初恋」。
初めて抱く感情に戸惑い、言葉に表せないもどかしさを描き、初恋を思い出させる、というのがコンセプトなのだろう。初恋の時期に自分の気持ちを表現することに慣れていなかった人には特に共感ポイントは多いだろう。

思春期が過ぎてしまえば分かることだが、好きな人、意識している人にどう接したらいいかという問いの正解は、とにかく相手をとにかく知ること、だからデートで何をするかと言ったら、最低限話をするだけからでもいいのだ。そして、ファミレスで一家団欒というプライベートを見られた恥ずかしさから始まるお互いの意識、恋愛感情はどんな形であれ相手への関心から始まるというもの。そうしたことすら分からず手探りで進んでいくあたりの初々しさこそが初恋なんだろう。

シーリングライトから垂れ下がる紐を相手にシャドーボクシングしてしまうなど、言葉にせずとも想いが伝わってくる。

また小太郎、茜の家族の人物描写も精緻である。特に比較的高齢の夫婦の一人っ子の小太郎という設定だが、親と子の関わり方と小太郎のパーソナリティにものすごいリアリティを感じてしまった。しかも小太郎の母親役が井上喜久子さんですし。

また、川越市のご当地アニメとしての性格も強く、『Just Becaouse!』ばりのリアルな背景、カルチャーの描写にもただただ驚かされる。

とにかく、細かいところまでリアリティを追求した作品。

他の比較的低評価のレビュアーさんも指摘しているところだが、確かに存在するいくつかの違和感(茜の性格と所属するクラスのグループが合っていないとか)とは別に、全体を通して見るとなぜかリアリティが薄めになる。リアリティのないキャラクターばかりの京アニ作品(たとえば『氷菓』とか)とはまた違った感覚だ。人間の顔の平均を取ると美人顔になって、遠い存在になってしまうような感覚。それは人が経験する恋愛というものは唯一無二の経験であり、特殊な話なのだ。


本来ならばこの手の作品はまぶしすぎて直視できないところだが、深夜のバラエティ番組で確かアニメ好きのアイドル(宮田某?)が熱く語っており、密かな名作としてネット上で話題になっていたこともあって、GYAOの一挙配信で観てしまった。良作だとは思うが、没入することなく大人の一歩引いた視点で観てしまい、あまり楽しめなかったかな。
ウシュアイア

ウシュアイア