エピソード28
アンドレ・青いレモン
このエピソードは語りたくなったので書きます。
・オスカル
オスカルを聖人君子として描かないのがこのベルばらの重要な要素だと思います。
マリーアントワネットとビュバリー夫人との戦いを何処か高みの見物をしたりと、美と勇を兼ね備えた彼女の自惚れを垣間見せます。
そしてその高飛車な性格が災いしてアンドレの片目を失明させてしまうのです。
・物語冒頭
アンドレは残された片目も霞はじめて焦燥に駆られてオスカルの前に姿を見せることもできません。
そして剣術の稽古をつけるわけですが、オスカルはアンドレを信頼し切っているのでいつもと少し違うことも気付くこともなく圧倒します。
・フェルゼン
そこにフェルゼンが突如、現れます。
この時のオスカルは明らかに嬉しそうな声を発します。(田島令子さんの演技力がすごい!)
その後、フェルゼンと他愛もない会話を楽しむオスカル。(相槌がまためちゃくちゃ可愛いオンナの子になっているのも注目です。)ブランデーを嬉しそうに回して儚い時間を丁寧に噛み締めているオスカルが既に切ないです。
そして、幻の伯爵夫人をオスカルだと看破されてしまいます!!フェルゼンに手首を掴まれてしまいます!!
オスカルは切なさが爆発して号泣しながら駆け出してしまいます。
・別れ
オスカルはオンナとしての自分をフェルゼンに目覚めさせられてしまいました。だからオンナとしてフェルゼンと舞踏会で別れを告げたはずなのに…
涙なしでは見れない切なさに満ち満ちた別れでした。
・オトコとして。
オスカルはフェミニストやLGBTとは全く異なった人物であることをまずは承知しなければならないのです。
オスカルは思春期などという現代人の甘えもなく14歳で近衛隊隊長を任されます。おそらくこのくらいまでまだ自分は男だと信じて疑っていなかったのでしょう。
そして自分が男性でないと気付いた時も彼女は大してショックは受けなかったのではないでしょうか。なぜなら彼女は普通の男性よりも魅力的でそれを裏打ちする能力を有していることを自他共に認めていたからです。
しかしフェルゼンとの出会いでそのアイデンティティが揺らいでしまいました。
だからオスカルはこの失恋を機に近衛を辞めてひたすら、フェルゼンに出会う前の男、女を超越していた自信に満ち溢れた自分を取り戻そうと必死になります。
・アンドレ
アンドレはオスカルと出会った時からずっとオスカルを愛していたのでしょう。切ない男です。身分の差もさることながらオスカルはアンドレを男同士の親友以上には捉えてくれません。
またオスカルはアンドレには感情を露わにして激怒したりします。
そして運命の夜、オスカルはピアノを軽快に奏でて努めて自分の気持ちを沈まないように明るく振る舞っています。(こうゆうところが気高いです。また暖炉の火を虚な表情で見つめているオスカルも気高く美しいですね。)
それから現れたアンドレについに、もう自分に仕える必要はないと何気なくいい放ってしまいました。オスカルは失恋とオンナ心の萌芽により混乱状態にありました。
これは経験があります。とても大事に思っていた女友達に、もう親切はいらない。なんていい放たれて、向こうだけが勝手に納得している。心配で心配で仕方なく片時だってオスカルを想わない時はなかったアンドレはさぞショックで切なかったことでしょう。
アンドレは告げます。「赤く咲こうが白く咲こうがバラはバラだよ。オスカル!」
この時のオスカルの表情もまた素晴らしいのです。この直前までは失恋のショックを押し殺して平素を装っていたオスカルはまたもそれを看破されて驚きと悔しさを滲ませた表情でアンドレに激怒します!
「それは女は所詮、女に過ぎないということか!アンドレ!」
アンドレの頬をビンタします。いつもならアンドレは素直に謝罪して身を引いてくれたのですが、この時は腕を掴まれてしまいます。
オスカルは直前の自分自身のセリフを自分自身で証明してしまったのです。アンドレはいつも手加減してくれていた、このときアンドレの腕力を覆すことが出来なかったのです。そして唇を奪われてしまいました!更に服を引き裂かれて女性を晒されてしまいます。
この時のオスカルの気持ちはまさに筆舌に尽くし難いでしょう。
フェルゼンへの想いを断ち切るため、より男らしく生きようと決意した矢先に、見事に出鼻を信頼してきた親友のアンドレに挫かれてしまった上、親友の愛の告白を受けて悔しくややるせなさ、アイデンティティの喪失、隠し通したかった女として成長、女の喜び、そして憧れた男性像とも永久の別れ…
・最後に
しかしオスカルはこのエピソードでアンドレによって夢から現実へ引き戻されたわけです。そのショックとは耐え難いものではありましたが最愛の友であり恋人であるアンドレを得ることができたのです。
このエピソード以降、オスカルはアンドレという精神的支柱に寄りかかりながら、気高く毅然とアンシャンレジームと対立していくのです。
素晴らしいエピソードでした。ここまでココロの揺れ動きを表現したアニメは昨今はないですね。正に成長するには痛みを伴うといったところだろうか。
また服を引き裂かれたオスカルの肩が、一層、女性らしさを際立てるという絵のチカラも存分に発揮しているアニメとして傑作回て言って差し支えないでしょう。