ウシュアイア

鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMISTのウシュアイアのレビュー・感想・評価

鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST(2009年製作のアニメ)
4.5
病気で亡くなった最愛の母親を生き返らせようと錬金術最大の禁忌である「人体錬成」に失敗した兄エドワードと弟アルフォンスのエルリック兄弟は、「人体錬成」の際に失ってしまった自分たちの身体を取り戻すため錬金術の謎を解き明かす旅の物語。
(エドは右腕と左足を失いアルは生身の肉体を失い魂のみ鎧に定着させた姿になってしまう。)

※錬金術:等価交換の原則の下、物質を分解・再構成する科学・技術

2000年代を代表する少年漫画の金字塔のフルバージョンでのアニメ化作品。話の時間スケールがそれほど長くないにも関わらず登場人物が多く話が少し分かりにくいところもあった原作漫画を読むのにに比べると、アニメ化されたことでかなり話は把握しやすくなっている。

ストーリーとしては、エルリック兄弟はあちこちを旅して錬金術の謎を追い求めるうち、自分たちの住む(旅する)軍事国家アメストリス国を操る錬金術により生み出された人造人間ホムンクルスたちの陰謀にたどり着く。ラスボスとしてホムンクルスの親玉(フラスコの中のホムンクルス)はおり、ジャンプで連載されていたらバトル漫画化は避けられないところだったが、月刊少年ガンガン連載ということで、あくまでも錬金術の謎を解き明かし自分たちの身体を取り戻す目的は最後までぶれず、ヒューマンドラマファンタジーを貫徹できていた。

一方で、バトルはイマイチ盛り上がりに欠け、修行や特訓で強くなったり新しい技を編み出すようなことがほとんどない。むしろ、それぞれの戦闘能力はほとんど変わらず、旅の中で見つけた仲間と力を合わせて戦う展開になっている。その分、登場人物が多くなり、相関関係が複雑な反面、それぞれのキャラクターにまつわるヒューマンドラマが見どころになっている。そういう意味でもジャンプの作品に多い修行して強くなる定番の展開からは外れており、異質な作品と言える。

そして、本作では「命」や「身体」がテーマになっており、我々の文明である科学技術のメタファーとしての錬金術で命や身体を取り扱うことで、ファンタジーとはいえ、現実での命や身体の重さを考えられる。そうしたことからも『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編と並行する形で2010年代の『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』といった作品につながるダークファンタジーにもなっている。

また、作者が女性ということもあって、強くたくましい魅力的な女性キャラクターが多いのも特徴的。リザ・ホークアイ中尉、イズミ・カーティス、オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将など男性キャラクターをしのぐ活躍ぶり。

若干ネタバレになるが、キリスト教の七つの大罪を体現したホムンクルスのうち、登場人物の一人がグリード(強欲)を取り込み、グリードとうまく付き合いながら自分の願いを叶えようとするのは示唆に富むものがある。欲がなければ無気力にもなりかねないし、時として強欲は行動力をもたらす。悪徳とはいえ、自分の欲望に向き合うことも必要なんだろう。

作画は特に人物の部分でやや粗いところもあり、特にエドとマスタングの顔の形が違うことがよくあるが、演出などはよく、アニメーションとしてはまずまず。

音楽は千住明さんということで言うことなし。

声優については、最近の作品ではエドとアルの設定年齢では、女性声優ではなく男性声優が主流になっていることから、朴璐美さんと釘宮理恵さんの演技はうまいとは思うが、声には若干違和感を覚える。特筆すべきは、やはり悪役がハマる中村悠一さんのグリードと、悪役のイメージがなかった高山みなみさんのエンヴィを始めとするホムンクルスのキャスティングが良かった。そして、ピナコ役の麻生美代子さん(『サザエさん』初代フネ役で有名)は収録当時80歳を過ぎていたにも関わらず、こうした作品で違和感なく演じられていたのは本当にすごいと思う。

※GYAOの無料配信で完走
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