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アルプスの少女ハイジのbluebeanのレビュー・感想・評価

アルプスの少女ハイジ(1974年製作のアニメ)
4.5
高畑勲監督の大傑作の一つをようやく鑑賞できました。

まずアルムの山の自然描写が素晴らしかったです。1日の時間経過や1年の季節の移り変わりを、美しい背景美術と動植物の作画に加え、色彩設計や特殊効果で完璧に表現しています。一昔前のセルアニメなのに、画面を見ていて素直に感動してしまいました。

フランクフルトの都会の閉塞感との対比も見事です。田舎と都会の人物たちが交わって、最初はお互いの感覚の違いがコントラスト強めに描かれますが、徐々に馴染んで収まっていく様子がすごくリアル。

人物もみんな個性的な性格でありながら、極端で記号的な「キャラクター」ではない、身の回りにいそうな実在感のある人たちばかりです。どのキャラにも好感の持てる面もあれば、そうでない面もあり、共感できるぎりぎりのリアリティを確保しているのはさすがです。

例えば嫌な大人として出てくるロッテンマイヤーさんですが、根本はクララのことを本当に考えていて、職務に一生懸命な常識人として描かれており、憎めません。彼女が報われない展開が続くのがかわいそうでした。かなりひどい性格のデーテおばさんですら、妙に人間臭くて不思議と憎めなかったです。

ハイジの存在が触媒となり、おんじやクララなど周囲の人間を良い方向に変えていくのが基本ストーリーですが、ハイジも決して完璧ではありません。素直で活発ですが、他人の気持ちに鈍感な面もあります。でもその自己中な行動の数々は、一貫して利他的です。

最終回、気づくとクララの目線で作品世界を見ている自分に気付きました。あまり変化せずにアルムにい続けるハイジとペーターと、それから大自然、これがこのアニメ作品の象徴。子供たちに大人からの視線を送るおんじは製作者側で、作品を通じて人とつながる。そしてハイジやアルムの自然に接して、去っていくクララが視聴者の視点ではないかと勝手に想像しました。何年かして仮にまたこの作品に触れた時、視聴者は成長して変わっているかもしれない、そんなラストに見えました。

初めて完走して驚いたのが、クララが立った!のシーンがなんと最終回ではなかったことです。昔アニメ特番でそのシーンだけ繰り返し見ていて、すっかり最終回だと思い込んでいました。しかもストーリー上はあくまで通過点です。意外。
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