シズヲ

オッドタクシーのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

オッドタクシー(2021年製作のアニメ)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

都会の雑多な喧騒、様々な事情を抱える人々、奇妙なタクシードライバー……女子高生失踪事件を軸に人間関係が絡み合うサスペンス群像劇。擬人化した動物として描かれる緩いキャラデザに対し、生々しい都会の風景をバックに濁り切った世界観が淡々と展開されていく。バズ狙いの大学生だの、マッチングアプリに没頭する中年男性だの、ヤクザと繋がりを持つアイドルグループだの、美人局で金を巻き上げるチンピラだの、『闇金ウシジマくん』辺りにいそうな奴らがゴロゴロ出てくるもんだから凄い。そんでムードに溢れた主題歌が狂おしいほど好き。芸人声優はまあサンレッドみたいなもんで何だかんだしっくり来るし、おっさん声にしては高めの花江夏樹も何処かイノセントな雰囲気で却って馴染んでくる。

ビジュアルと作風のギャップが実に強烈で、複数の登場人物らの関係性や行動が次第に結びついて“事件”へと向かっていく構図は常に緊張感に溢れていて面白い。このへんは『デュラララ!!』を思い出すけど、あっちのような洗練感は無いのでより泥臭さがある。女子高生失踪事件や小戸川の謎、チンピラ同士の対立など、様々な縦軸で話が引っ張られていくのでワクワクさせられる。ひとりの男の顛末と変貌をモノローグと共に綴った4話『田中革命』は大きく本筋に絡む訳でもないのに、話のインパクトやその後の牽引力という点では特に秀逸。また作中で度々描かれる何処か間の抜けた掛け合いなど、登場人物達の“どっかにいそう”な雰囲気も味があって良い。クズやしょうもない奴は結構いるのに、それでも絵柄も相俟って何となく憎めない感じのオーラがある(却って毒気が強調されてる節もあるけど)。

ただ良くも悪くも“引き”ばかりが肝の作品で、山場の段階になるとこじんまりと纏まってしまう部分は結構ある。ドブVSヤノの対立軸なんかは序盤からずっと引っ張ってた割に、終盤にいざ直接対決へと進むとさっくり駆け引きが終わって片方が退場してしまう。事態やフラグが散りばめられていく過程はスリリングで楽しいのに、それらが収束するパートで思ったより盛り上がらなかった印象だ。尺的にアニメ作中で収まり切らなかったのか、肝心な伏線や解説もちょくちょくオーディオドラマで補完していた感がある。ditch-11がソシャゲでトップランカーだった件の不可解さなど詰めの甘い描写も少なくなかったけど、そういう部分も引きの作風で誤魔化されていた印象。

大団円と伏線回収に奔走した最終回なんかは結構な駆け足感があったけど、それでも登場人物が集結した果てに“月までブッ飛ぶ”シーンは勢いも相俟って結局それなりのカタルシスを感じてしまった。予想通りの小戸川真実もいざ映像として明示されると「ラストなんだなぁ」と思わされる清々しさがあった。爽やかに終わりそうだった中での不穏なサスペンスオチもある種の余韻がある(そっからのオーディオドラマ13話はもはやホラー)。結果的にヤクザやら何やらを巻き込んだ騒動の引き金になったうえで飄々と逃げ切る犯人、ある意味作中屈指の曲者。っていうかマネージャー山本、殺人に関わってたから通報避けたとかじゃなくてマジで単にヤノさんを初手で頼っただけだったんだ……。
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