きまぐれ熊

オッドタクシーのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

オッドタクシー(2021年製作のアニメ)
3.9
動物を擬人化した世界観でシュールな日常ものなんでしょ?
多分深夜食堂のタクシー版みたいな...1話ずつ色んな動物のお客さんを乗せていく人情ものやろ?

と思ってたら全く違った

どちらかと言うと、そのまま邦画でやってても通じそうなリアリティラインのヤクザクライム群像劇でした
主人公はヤクザに巻き込まれるタクシードライバーで、皮肉屋で陰気なおじさんなんだけど、心情の書き込みがしっかりしているので入り込みやすい。


主人公の小戸川は、とある乗客を乗せてしまったお陰でヤクザたちの目に留まり、闇社会の内輪揉めに巻き込まれていく。小戸川も自身の握られた弱みを精算するために逆にうまく立ち回っていこうとするが...。

的な、あらすじだけを見ると映画ではまあありがちな設定。

もちろんキャラクターの心情や関わり合いによる動かし方が上手く、各話の引きも強い。面白いは面白い。
また、キャラクターが様々な動物になっている点が特徴的であり、見た目も可愛いので、可愛さと闇社会のギャップによる面白さも機能している。

が、事情が変わるのが4話の田中革命である。
いわゆる映画ジョーカーの様な無敵の人とは違い、割と「普通」の持たざる者が静かに確実に堕ちていく狂気を丸々1話かけて一人芝居で見せていく。主人公は全然出てこない。ずっと独白なのに目が離せない迫力がある。ラストシーンは動物デザインのオブラートを貫通する圧があった。

これ以降も様々な現代社会の闇を抱える登場人物たちをクローズアップしつつ、小戸川の周囲の群像劇が進行していく。
ストーリーは終盤になって複雑化するので2周目を見て納得する事も多いくらい。
終盤においてどんでん返しもあって最後まで目が離せない。

ただテーマで言えばあくまで小戸川に絞って語られた物語であって、他の登場人物達にはテーマや議題の様なものは感じられなかったのが、やや好みではなかった。各キャラはギミックとしての面白さや風刺的な味わいはあるものの、割とコマに過ぎない印象は否めない。
せめて白川さんとかはもうちょっとエピソード作り込んでも良かったんじゃない?と思った。
割り切り方はあまり良く無い意味で邦画っぽさがある。
そういう意味ではオッドタクシーっていうタイトルもあまり意味が込められてなくてちょっと惜しい。もっと小戸川に寄り添ったタイトルでよかったのではないかと。

ただし、先述の通り田中だけは書き込み方が凄いので、試しに観るなら4話までは見てみてほしい。なんか明らかにこのエピソードだけ熱量が違うので。
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