亜人――それは、決して死なない存在。 17年前のアフリカで発見され、以降、全世界で46体、日本国内では2体が確認されている。 永井圭は、医学部受験を控えた高校生だ。彼がめざしているのは、立派な人間。そのために、規律正しい生活と周囲から浮かない程度にまじめな授業態度、クラスメイトとの適度な交友を心がけている。学校で、“亜人”に関する授業が行われたその日、圭は友人たちが携帯電話で見ていた亜人の実験映像に興味を持つ。そこには、自分が幼少期に見た、黒い霧のような物体が映っていた……。
夜の闇に紛れ、逃げ続ける圭。山合の車道にはほとんど車も通らず、彼らは順調に逃げ続ける。 圭の脳裏には、携帯電話で見た映像――どこかの研究所で亜人らしき人物が拷問を受け、殺される光景が甦っていた。「もし捕まったら、きっと本当に不死身かどうか確かめられる。何度も何度も殺される。それだけは嫌だ!」 圭の家の前では警察が立ち入り禁止線を張り、捜査本部を立ち上げていた。そこへ一台の車が止まり、 中から一組の男女が降りてくる。男の名は戸崎。厚生労働省から派遣された、 亜人関連部門の実質的トップだった。
圭が亜人であったという情報は、テレビやインターネットを通じ、世界中に広まっていた。 圭が身元不明の協力者と逃げ続けていること、亜人を捕まえれば大金をもらえるらしいことも、同時に報道されていた。 圭の自宅には、亜人管理委員会のトップである戸崎が秘書の泉を伴って訪れていた。 訪問の目的は、圭を捕らえるためのヒントを得ることだったが……。 そのころ、圭はまだ山道を逃げ続けていた。 だが、次第に空が白み始め、このままバイクで逃げ続けるには限界が近付いていた……!
永井慧理子の病室に侵入した黒い幽霊は、部屋にいた人々を切り裂いた。 その様を見た慧理子はショックのあまり気を失い、ベッドに倒れ込む。 病院の中庭では、田中が高笑いしていた。病室に黒い幽霊を送り込んだのは田中だった。 彼は佐藤からある指示を受けていた……。 一方、圭もまた、黒い幽霊と向き合っていた。 彼はそれが黒い幽霊、もしくは別種の力と呼ばれている物だとは知らなかったが、 幻覚などではないことは分かっていた。だが、今の彼にはそれよりももっと重要な、 解決するべき差し迫った問題があった……。
県警本部の荒木は携帯の発信源を元に、圭が潜伏していると思われる場所を特定。 多数の警官隊を率い、現場に駆けつける。 彼らの手には戸崎の指示で支給された、対亜人用の武器があった。 警官たちは使い慣れぬその武器を構えながら、圭に気づかれぬよう現場を包囲する……。 数時間後、撃たれた圭はようやく目を覚ます。その視界に映ったものとは……。 佐藤に“不合格”と言われた圭。彼が口にした“教育”という言葉の意味が明かされる。
迎えに来た佐藤に、圭は泣きながら礼を述べた。 周囲には無数の死体が転がっていたが、圭は特に動揺することなく無表情に佐藤の後を付いていく。 佐藤は圭に、遺体が「気になるかい?」と問うが、彼の答えは「別に」というそっけないものだった。 「ここを守るのがこの人たちの仕事でしょうし。もう死んじゃってますしね」 その答えを聞いた佐藤は、圭の様子をもう少し観察してみようと思い直す。 そのころ、別室ではオグラ・イクヤ博士が亜人に関する独自の見解を披露していた。
失態を犯した戸崎を、厚生労働大臣は叱責する。このままでは降格か、 それ以上の処分が下されるかもしれない。そう宣告された戸崎は身の危険を感じる。 もともと合法すれすれの組織である亜人管理委員会だ。戸崎を存在ごと消すなど造作もないことだろう。 今まで淡々と事に当たってきた戸崎に、初めて焦りの表情が浮かぶ。 「ふざけるな……何のためにここまでやってきたと思ってる……!」 同時刻、佐藤は田中との合流ポイントに向かっていた。 その傍らには、この場にはそぐわない、ある物があった……。
亜人研究所から逃走した圭は、とある海岸に流れ着いていた。 痛みには慣れてきた圭だったが、溺れる苦しさは痛みとはまた別物だった。 改めて、人助けなどという自分には似合わない行為をしたことを、圭は後悔する。 一方、仲間を集めることに成功した佐藤は、うち捨てられた巨大な廃倉庫の上階へと彼らを誘導する。 佐藤と対面した亜人らは、自分たちはまだ佐藤の仲間になったわけではないと言い、 「亜人の権利をどう訴えていくのか、そのプランを説明していただきたい」と質問する。 それを聞いた佐藤は……。
佐藤の犯行予告を受け、マスコミ各社は連日、亜人関連の情報を流し続けていた。 それによると、テロが決行されるのは10日後の水曜、午後3時。目標は、グラント製薬本社ビル。 「衝戟に備えろ」という佐藤のセリフは、各種媒体で何度も再生された。 警視庁と亜人管理委員会は、テロを未然に防ぐため総力を挙げて対策に乗り出していたが、 佐藤の手がかりどころか、アップロードされた動画の発信元すら特定できずにいた。 一方、追っ手を撒いた攻は、電車内から見えたある物を捜して、駅に来ていた……。
佐藤たち亜人は、製薬会社襲撃の準備を着々と進めていた。 彼らが新たに拠点に選んだのは、閉鎖され、放置された町工場だった。 その埃っぽい室内で、佐藤はある場所の地図を見せ、 「我々の手で地図を書き換えようじゃないか」と宣言する。 同じころ、監禁状態にあったオグラ博士は、念願のFKを手に入れ、 至福の時を過ごしていた。満足そうな表情を浮かべ、煙を吐き出すオグラに、 戸崎は亜人に関するデータをすべて提供するよう求める。 彼はオグラの話を元に、今回のテロ対策を立てようと考えていたが……。
佐藤の出した犯行予告の日まで、あと2日。 圭はいつものように山中さんと食卓を囲んでいた。 テレビには、グラント製薬ビルの襲撃予告に対する警備の様子が映し出されていた。 それを見た圭は、山中さんにあることを「お願い」する。 一方、佐藤たちは2台の車に分かれ、とある場所へと来ていた。 奥山ら3人が乗った車は目的地の地下へ、佐藤と田中は道路脇のパーキングに停車する。 車から降りた奥山は高橋とゲンに荷物を降ろさせると、佐藤に連絡を取り……。
倒壊した建物の粉塵が舞う中で、両者は静かに対峙していた。 片方は、ハンチング帽をかぶった中年の男。 もう片方は、警視庁特殊急襲部隊――通称・SATの隊員、約50名。 日本で唯一、実動経験を持つ、事実上の最強部隊だった。 彼らは何班かに分かれて隊列を組み、瓦礫の陰から佐藤に狙いを付けていた。 その装備は特殊繊維のボディアーマーにヘルメットという大げさなもので、 軽装の佐藤とは対照的だった。それを見た佐藤は、少し困ったような表情になるが……?
佐藤対SATの戦いは、テレビ中継や、佐藤の身につけたウェブカメラを通じ、全世界に発信された。 凄惨な現場を目撃した国民の非難は、亜人と共に、テロ対策を怠ったグラント製薬にも向けられた。 マスコミは、警察が近く亜人の捕獲に1億円の懸賞金を出すのではないかと騒ぎ立てた。 情報の提供を求めている亜人の中には、永井圭の名前もあった。そのニュースは山奥のひなびた農村にも届き……? 一方、戸崎たち亜人管理委員は、逃げたテロリストの情報が一切つかめず、あせっていた……。