ウシュアイア

であいもんのウシュアイアのレビュー・感想・評価

であいもん(2022年製作のアニメ)
3.2
ミュージシャンの夢破れたアラサー男子の和(なごむ)は父親の入院を機に、和菓子屋「緑松」を営む実家に帰り、後を継ぐべく和菓子職人を目指すことにする。実家には一果という10歳の少女が親に捨てられるようにして預けられており、和は半ば人間不信になっている一果と心を通わせようと奮闘するホームドラマ。

いろいろな方のレビューを拝見しても、見方が難しい作品。

私見だが、結論から言うと、この作品は『渡る世間は鬼ばかり』と『異世界食堂』の要素に集約される。

主人公は夢破れ自分の将来に悩むアラサー男子。堅実に就職なり和菓子職人の修業をしていれば、それなりにキャリアを積んで家庭をもつことも視野に入ってくる年代だが、そんな歳でも家業を継ぎたいと言って戻って来れる場所がある時点で恵まれていることもあり、和はノーテンキ過ぎてなかなか共感しにくい。リアルな大人の男性の迷いを描いた『うどんの国の金色毛鞠』の要素は薄い。

和の両親と一果に焦点を合わせると、身勝手な家族に振り回されて何かと気苦労が絶えない様子は鬼姑・鬼小姑がいない令和版『渡る世間は鬼ばかり』。そういえば『渡る世間は鬼ばかり』ではラーメン屋を営む角野卓造と泉ピン子夫妻の元に、親に捨てられた女の子が引き取られ、息子(えなりかずき)と交流する構図にそっくり。職人の世界なので当たり前だが、手に職つけて一生懸命働くのが尊い、という空気感も似ている。

ほっこりするいいエピソードが続き、一果と和は近づいたような感じがするが、なんだかんだで一果は自分が捨てた父が来るのを待っており、二人の関係性の変化は表面的でヒューマンドラマとしてはダラダラと日常が繰り返されているので、やっぱり『渡る世間は鬼ばかり』。

『渡る世間は鬼ばかり』が悪いというわけではなく、そういう作品だと思えば、同じように楽しむことができるのだと思う。

全部観てようやくわかったのだが、1話で1月ずつ12話で1年の時間が進んで、各話でその季節の和菓子が登場し、この作品は和菓子とその和菓子にまつわる人間模様を描いた作品だったのだ。だから『異世界食堂』。これがわかってようやくすっきり。各話のタイトルを和菓子の名前にすればもっと分かりやすかったのに。


最後に、映像と声優について。

手描きの水彩画タッチの背景で映像は優しい作風に合っている。

和の両親(60前後?)役が小山力也さんと大原さやかさん。まだこういう役は早い気もしたが、貫禄十分。
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